海の表面も未来も明るいほうがいい。
サプライズ! 早ければ2020年代に夏の北極から海氷が消える「海氷フリー」の状態になる可能性があるそうです。これまで考えられていたより10年早くなっています。
加速する温暖化と海氷融解
他の地域の4倍速で温暖化が進んでいる北極圏では、10年に12.2%のペースで加速度的に海氷が減少しています。
すべての温室効果ガスの排出シナリオにおいて、夏の北極海から氷が消える日は従来のモデル予測よりもかなり早く訪れてしまいそうです。これは生態系や自然環境にも悪影響をもたらすよくないサインです。
早ければ20年代にも夏の北極海が海氷フリーに
Nature Reviews Earth & Environmentに掲載された論文によると、2020年代に夏の北極海で海氷を見られない日が出てきて、今世紀半ばには最も氷が少なくなる9月が丸ごと海氷フリーに、そして今世紀末までには冬も含めて何カ月も海氷ゼロが続く可能性があるとのことです。
論文の筆頭執筆者を務めた、コロラド大学ボルダー校の大気海洋科学教授であるAlexandra Jahn氏は米Gizmodoにこう語ってくれました。
脅すつもりはありませんが、未来の話ではなく、私たちが生きている間に研究結果のような現象が起こるでしょう。影響を最小限に抑えるために最善を尽くさねばなりません。
北極圏の氷が減ると中緯度にも悪影響が
北極圏は、海氷に依存するホッキョクグマやアザラシのような野生動物の重要な生息地であるだけではありません。白く明るい氷の表面は、太陽エネルギーを宇宙に反射して気温上昇を抑える役割をしています。海氷は太陽エネルギーの50%から70%を反射しますが、暗い海表面は6%しか反射しません。段違いもいいところです。
北極圏の海氷と氷床の減少によって温暖化が加速すれば、中緯度地域でも暑さや寒さがより極端化してしまいます。そして、気温が上昇すれば海水温も上昇してさらに氷が解ける負の無限ループになります。
コップの中に浮かぶ氷と同じで、海氷が解けても海面は上昇しませんが、グリーンランドなどの氷床の融解は海面上昇につながるため、海抜が低い沿岸都市や島しょ国を脅かしかねません。
残されている希望
「海氷がなくなる」といっても、北極海からひとかけら残らず海氷が消えるわけではありません。海氷面積が100万平方kmを切ると、海氷がなくなったとみなされるんです。北極海の海氷面積は平均すると約1550万平方kmなので、希望を失うにはまだ早いと今回の研究に参加した科学者たちは思っているそうです。1450万平方km分の希望が残っていますね。
とはいえ、現実に戻ると排出量が最も少ないシナリオでも北極海から氷がなくなるのは不可避。でも、排出量によって海氷フリーの頻度や期間が決まるんだったら、少しでも排出量を抑えればいいわけで。
対策すれば海氷の減少は抑えられる
この研究では、気温上昇を1.1度に抑える低排出量シナリオと、2.2度以上温暖化する高排出量シナリオでは大きな違いがあると指摘しています。
Jahn氏は次のように話します。
北極海の海氷フリーが世界の終わりではありません。高排出量だと最大で9カ月間(5月から翌年1月まで)海氷フリーになりますが、低排出量シナリオの場合は海氷フリーになるのは3カ月(8月から10月)ですみます。海氷フリー9カ月というのは、「氷が張る時期もある」みたいな感じでしょう。氷に覆われる期間が3カ月と9カ月だと状況が真逆です。
海氷は減るのも速いけど増えるのも速い
気温の変化に対して繊細な北極海の海氷は温暖化の影響を受けやすいんですけど、逆に気温が下がると海氷の回復も早いんです。Jahn氏は、将来的に温暖化が止まって気温が下がりはじめれば、10年以内に再び北極に海氷が戻ってくる可能性もあるといいます。
北極圏が海氷フリーになる日は迫っていますが、温暖化を止めるために行動すれば、海氷フリーの期間を短くできます。
Jahn氏は最後にこう付け加えています。
20年先の未来に起こるはずの世界が突然やってくるのを驚く必要はありません。でも、個人的には環境が丸ごと転換するのを目の当たりにするのは本当につらく、身につまされる思いです。
突然やってきた未来を、協力してどんどん未来に追いやりましょう。
Reference: Rantanen et al. 2022 / Nature Communications Earth & Environment, NSIDC