未確認飛行物体、UFO。目撃したら、すぐに連想するのは宇宙人の姿。UFOには宇宙人が乗っている、乗っていなくてもどこからか遠隔操作しているはず…。なぜ、我々人類はUFOと宇宙人をセットで考えてしまうのでしょうか。
社会学者が社会学的観点から考えてみました。
(以下、サウスカロライナ大学の特別栄誉教授Barry Markovsky氏によるThe Conversation寄稿文を翻訳したものです。)
近年、NASAは、未確認異常現象・UPA(Unidentified Anomalous Phenomena)と、その呼び名を改めましたが、多くの人がまだUFO(未確認飛行物体)と呼んでいます。どちらにせよ、UFOの存在とアメリカ政府がその存在の証拠を隠蔽しているという噂は、数年ごとに浮上してくるものです。
個人と集団の相互作用、特に信念や誤認識に焦点を当てて研究する社会学者として、なぜ、UFOとそこに乗車しているらしきモノがこうも人々を夢中にさせるのかを考えてみました。
UFO人気(それに伴うはるか宇宙のあれこれも含む)は、人間の一般的な知覚と社会的プロセスで説明することができます。
歴史的背景:UFOに対する人々の意識の変化
政治家のスキャンダルやハイウェストのデニムのように、UFOというトレンドにも波があります。が、消えることはありません。
30年間の世論調査で、(回答したアメリカ人の)25%から50%は、少なくともUFOの一部は宇宙人の宇宙船だと信じているという結果がでてきます。今日のアメリカにおいて1億人を超える大人たちが、宇宙人が地球を訪ねてきていると考えているわけです。
しかし、常に多くの人がUFO=宇宙人の船だと考えてきたわけではありません。これは過去75年で増えた考え方です。市場の影響は多分にあるでしょう。UFOの話題がでてきた当初は、それだけで新聞や雑誌の売り上げがアップしました。今でも、オンライン上でクリック数を増やす定番ネタです。
ロズウェル事件がUFOブームの火付け役?
1980年、『The Roswell Incident (Charles Berlit・William L. Moore著)』という本が出版され、大変人気になりました。メキシコのロズウェルに墜落したUFOをアメリカ政府が隠蔽したというロズウェル事件について書かれたものです。
この事件で唯一の物的証拠は、墜落した気象衛星の小さな紐のようなものだけでした。しかし、UFOブームを引き起こすにはそれで十分。UFOをテーマとしたテレビ番組や映画、偽ドキュメンタリが次々と作られ、人々は夢中に。きっと、政府隠蔽の陰謀説もこれと同時に増えていったのでしょう。
UFO事件の中には未解決のものがあります。どれだけ人々が興味をもとうと、度重なる調査の結果UFO=地球外物体の証拠となるものは見つかっていません。
2017年のアメリカ海軍のUFO動画は、よくメディアに登場する有名なもの。戦闘機が撮影した映像には、奇妙な物体がうつっており、宇宙人の宇宙船である証拠だとされています。
最近では、2023年6月、米空軍退役軍人で元諜報員だという人が、アメリカ政府はいくつもの墜落宇宙船とそれに乗っていた宇宙人の死体を保管していると主張し大きな注目を集めました。
人的要因:人は信じたいものを信じる
UFOの存在を信じている人たちの中でも、実際に目撃したという人はわずか。多くの人は、SNSやテレビで拡散される画像や動画をもとにUFOを信じています。
天文学的、生物学的理由からは、UFOの存在は懐疑的とされています。が、心理的、社会的要因の観点で語られることはあまりありません。
宇宙に存在する生物は私たち地球人だけなのかどうか、それを知りたいと願う人は多くいます。それなのに、UFOに関する証拠は不明瞭なフワっとしたものばかり。
人は曖昧なものを嫌います。答えが欲しいからです。そして、とにかく白黒ハッキリつけたいというその思いが、判断を鈍らせます。人は信じたいものを信じるために、ぼんやりした証拠でも、目の錯覚でも受け入れてしまうのです。
科学ライターがばっさり否定
たとえば、先述の2017年海軍の動画。背景では筒状の宇宙船が急速に移動しているように見え、とても地球のものとは思えません。しかし、科学ライターのMick West氏は、これを簡単な幾何学と追跡画面に表示されているデータから解析。結果、West氏はUFOの奇妙な動きは「単なる錯覚に過ぎない」と真っ向から否定しました。
West氏いわく、対象(UFO)と飛行機の軌道、カメラの調整速度、カメラと背景は固定されているという見る側の思い込みによって起きた錯覚なのです。West氏の見解は、せいぜいUFOではなく鳥か気象観測気球だろうとのこと。
米空軍がこの物体をいまだに未確認扱いのままなのも、錯覚によるものだと思えば納得がいきます。
West氏は、2023年の米空軍退役軍人による告発にも懐疑的。彼の主張は、彼の信頼する人によるUFOを見たという話のみが証拠になっているからです。
「近々その証拠を見せます!」とアピールし、永遠に見せない。West氏は以前からよくあるやり方だと指摘。
見ようと思えば見えないものも見える
パイロットも、元諜報員の退役軍人も、社会的影響で見えもしないものを見てしまうことは誰だってあるのです。
研究によれば、誰かから見た!と聞くだけで、何かを判断できてしまう人は多いのです。その誰かが影響力のある人だったり、地位が高い人だったらなおさら。有名な専門家だって、特殊な環境下で撮影された画像などは判断が難しいのです。
集団的要因:個人から集団へ
「写真に撮ってなければ、起きてないのと同じ」これはSNSでよく聞かれる表現です。その言葉通り、ボヤけていようが手ブレがひどかろうが、UFO動画や画像が大量にネットに投稿されています。
ポストされる多くはなんの変哲もない光ですが、それでもSNSで拡散され何百万人という人が目にします。運営側や上部組織がコンテンツ促進をしない場合、社会学的にはこれをボトムアップ型の社会的拡散プロセスと呼びます。
その反対、トップダウン型は中央集権組織から情報が降りてくるパターン。UFOならば、たとえば軍組織、政治家のような影響力のある個人、または大手メディアが情報を発信する場合です。
アマチュア団体も何千人といる会員を使い、個々の活動を促します。UFOの目撃情報を集めるNPO団体Mutual UFO Networkが有名ですね。ただ、こういった団体は怪しげな基準で判断し、誤情報を拡散するので、科学業界での信頼は高くありません。
個人と集団の相乗効果
トップダウン型とボトムアップ型の相乗効果によって、さらに拡散が強化される場合もあります。メディアがUFOコンテンツを投じれば、UFOに興味を持つ人が増え、空の何かをスマホのカメラに収める人が増えます。ボヤけたUFOらしき何かのコンテンツが大量にネットにポストされ、それをまたメディアが報じます。そんな中、内部告発者とやらも定期的に出現しさらに炎上を煽っていくのです。
ただ、この大騒ぎからは何も生まれません。
この手について精通している科学者にとって、宇宙人がUFOに乗ってやってくることと、宇宙のどこかに知的生命体がいる可能性はまったく異なる別の問題です。地球外知的生命体の存在を示す何かを探す研究やプロジェクトは数多くあり、もし実際に見つかるとしたらその研究に取り組む科学者が第一発見者になるでしょう。
天文学者カール・セーガンはこう言いました。「宇宙はとても大きな場所です。もし私たちだけならば、スペースのひどい無駄使いですね」。
なるほど。社会学者の先生の解説、よくわかりました。
それでも、夏の夜は長いです。ここから、不思議で奇妙で信じたくなるUFOと宇宙人の話を思う存分ネットの海で探してみてください。