国際天文学者チームがチリの砂漠にあるアルマ望遠鏡(アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計)を用い、400光年離れた若い星系を観測中に、同じ軌道に沿って惑星を追いかけるデブリクラウド(雲状にまとまった宇宙ゴミ)を発見しました。
このデブリは誕生途中の惑星、あるいはすでに存在する惑星の残骸のようなものとみられています。
この発見は同じ軌道を共有する2つの惑星の存在を示す初めての事例となるかもしれないのです。
「トロイの木馬惑星」とは?
そもそもこの同じ軌道を共有する2つの惑星とは、どういうものなのでしょうか。
Astronomy & Astrophysics誌に掲載された論文の中で、チームはこれが「トロイの木馬惑星」の観測として重要な証拠になるかもしれないと主張しています。この宇宙におけるトロイの木馬とは、星が同じ軌道を共有する天体を意味しているのです。
地球を含む太陽系には、同じトロイの木馬である「トロヤ群小惑星」が存在することが知られています。太陽を中心として周る木星を先導したり、その後を追う同一軌道上の幾千をも数える小惑星。これがトロヤ群小惑星です。
つまり「トロイの木馬惑星」とは、小惑星などでなく2つの惑星が同じ軌道を共有しているものといえます。そして今回の観測は、この証拠となる可能性があるのです。
トロイの木馬は太陽系にしかない?
今回の論文の共同執筆者であり宇宙生物学センターのシニア研究員であるJorge Lillo-Box氏は、今回の研究の声明にて「エクソトロヤン(太陽系外に存在するトロイの木馬惑星)の存在はこれまでユニコーンのようなものだった。その存在は、理論上はあるとされていてもこれまで観測できていなかった」と語っています。
太陽系外では観測がされていなかったものが約400光年先の星系で発見された、この点も今回の観測における重要な点だったということですね。
観測されたPDS 70という星
今回の観測されたのは、PDS 70という恒星を中心とした星系で、PDS 70bとPDS70cという木星に似た巨大な惑星が周囲を周っています。
チームは、チリ北部のアタカマ砂漠にあるアルマ望遠鏡が収集したアーカイブデータを分析し、このPDS 70bと同じ軌道上を周るデブリクラウドを発見しました。
こちらの画像はアルマ望遠鏡によって撮影されました。中央にある黄色の円は周回軌道、そしてその軌道上に黄色い実線の円で示されているのが惑星PDS 70bです。同じ軌道上にもう1つ星系(点線の円で示された)が存在しているのがわかりますね。これが今回発見されたデブリクラウドです。
トロヤ群小惑星のようなトロイの木馬は、ラグランジュゾーンと呼ばれる2つの拡張領域内に存在しています。この領域は、星と惑星の重力の引き合いの組み合わせにより物質を補足しているのです。
先ほどのPDS 70bの軌道上における領域の観測の後、研究チームはそのうちの1つから微弱な信号の観測に成功しました。その信号は、月の約2倍の質量をもつデブリクラウドが共通の重心を持つ軌道上を周っていると示していたのです。
研究チームが次に目指すもの
「同じ1年の長さと居住条件を共有する2つの世界が存在すると想像できるでしょうか? 我々の研究はそうした世界の存在を示す最初の証拠となるのです」と、マドリードにある宇宙生物学センターの学生であり、論文の筆頭執筆者であるOlga Balsalobre-Ruza氏は語っています。
彼は続けて「木星のケースのように、惑星が非常にたくさんの小惑星と同じ軌道を共有しているのは想像できます。しかし、惑星が同じ軌道を共有できるというのは驚くべきことです」とも言及しました。
この研究を支援するチームは、2026年ごろにアルマ望遠鏡を用いて再度観測をするとのこと。その際に、PDS 70bとデブリクラウドがこの軌道に沿って同期するように移動しているか、そしてこの2つが実際にはどれくらい密接にあるかを調査する予定だそうです。
研究チームは、次の段階として2026年まで待たなければならないとのことですが、実際に同じ軌道を共有して移動していることが確認できたとしたら、「2つの惑星が同じ軌道を共有している」そして「トロイの木馬惑星が太陽系外に存在する」、この2つを証明する大きな進歩となるのでしょう。