優れた映画の予告編に用いられているさまざまな手法とは?

GIGAZINE
2023年06月30日 08時00分
映画



映画やアニメ・ドラマなどの予告編(トレーラー)では、物語の重要なネタバレ部分を避けつつ、作品を見たいと思わせるような魅力的なシーンを見せる必要があります。魅力的なトレーラーを作るためのさまざまな手法や時代ごとのトレーラーの特徴などについて、オンラインメディアのVoxがムービーで解説しています。

Iconic movie trailers, explained by a trailer editor – YouTube
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優れたトレーラーの特徴を教えてくれるのは、広告・デザインエージェンシーのBuddha Jonesでトレーラーの編集者を務めるビル・ニール氏。


まずは、2022年に公開したアメリカのホラー映画「NOPE/ノープ」のプロジェクトを例に挙げて、トレーラーの作り方についてニール氏は話しています。


映画『NOPE/ノープ』最新予告<8月26日(金)全国公開> – YouTube
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「NOPE/ノープ」のトレーラーでは、最初は映画のカットが存在せず、日刊紙のように毎日送られてくる情報を目にして、トレーラー制作者たちが作品を把握していったそうです。トレーラー制作段階では、映画本編の映像どころか制作中のカットすらほとんどないことがしばしばあるとのこと。映画がどのようになるかある程度感覚をつかみ始めてきたとき、ディレクターの提案によりスティービー・ワンダー氏の「フィンガーティップス」という楽曲を「NOPE/ノープ」のトレーラーに使用することが決定しました。


「NOPE/ノープ」のトレーラーにおける音楽は、「映画の登場人物もその曲を耳にしている劇中音楽」を指すいわゆる「ダイアジェティックサウンド」のようにシーンに合わせて流れ、それに合わせて登場人物が踊ったりステップを踏んだり、ビートに会わせて馬のひづめを鳴らしたり、といったテクニックで勢いや楽しさを出しています。そして、音楽の盛り上がりが最高峰に達したところで、かなり静かで大きなワイドショットに切替えることで、一気に緊張感を出して視聴者の興味を引きます。音楽を止めて静かになるシーンではコオロギの鳴き声を入れてあり、その鳴き声さえもピタッとやむことで、さらに緊張感を高めています。トレーラーではその後、映画の監督を務めたジョーダン・ピール氏の名前を表示させていますが、その表示方法も作品の雰囲気に合わせて工夫されているとのこと。


音楽や効果音は、リズムや曲調で楽しくさせたりハラハラさせたりできるほか、トーンをどんどん大きくすることで、ムービーのピークまで盛り上げていくことができます。ニール氏によると、初期の頃にはトレーラーに使えるような音楽サンプルはなく、「ビートルズのあの曲の盛り上がりを使いたい」というように具体的な曲名でイメージすることが多かったそうです。今では約10億もあるサウンドライブラリから音楽や効果音を選択してムービーを彩ることができます。


次に、ニール氏は古いムービーのトレーラーについて語っています。ニール氏はスタンリー・キューブリック氏を「史上最高の予告編を作っていた人物」と表現しています。クレイジーで非直接的な奇妙な編集が、当時のムービーとしては画期的な手法だったそうです。


また、スティーブン・キング氏の小説を原作とした、ブライアン・デ・パルマ監督によるホラー映画「キャリー」の予告編について、ニール氏は「映画の重要な瞬間がすべて伝わってくるトレーラーとして優れています」と語っています。

CARRIE (1976) | Official Trailer | MGM Studios – YouTube
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「キャリー」はクラスメイトからイジメを受けていた女子高生が、つらいイジメへの悲しみと怒りから超能力に目覚め、超能力で大量殺人をしてしまうというホラー作品ですが、トレーラーではキャリーがどのようなひどい仕打ちで絶望を感じたのかというシーンや、映画の中で誰が殺害されるのかという情報がほとんど明かされています。しかし、それでもトレーラーとしてかなり優れており、ニール氏は「トレーラーに多くのネタバレが含まれていると不満を漏らす人々には、『キャリー』のトレーラーを見てくださいと言いたいです」と述べています。


もう1点、「キャリー」のトレーラーの興味深い点としてニール氏が挙げているのは、新たな画面を差し込んでいくことで前の画面を拭き取るように場面転換する「ワイプ」という手法を用いている点です。気弱で内気な性格のキャリーが幸せな瞬間にあるとき、ひどいイジメによって大量の豚の血がキャリーにふりかけられるというシーンにおいて、本編では赤黒い血がキャリーの上に落ちてくる様子が描かれていますが、トレーラーでは赤い効果演出がワイプインします。ニール氏によると、映画の製作コードを定めるモーション・ピクチャー・アソシエーション・インク(MPAA)の規定では、トレーラーは一般視聴者向けに承認する必要があるため、実際の血のような映像を表示することができなかったことによる工夫とのこと。


さらに、ニール氏が「これまでで最高の予告編の1つ」として挙げているのが、1979年のSFホラー映画「エイリアン」のトレーラーです。

Alien (1979) Trailer – YouTube
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「エイリアン」のトレーラーは特にサウンドデザインが優れているとニール氏は指摘しており、エイリアンの卵を映しながらBGMを上昇させていき、エイリアンの高音の遠ぼえを響かせている点が、音で映画の特徴を示す「シグネチャーサウンド」として生きている点を評価しています。


優れたトレーラーの特徴として、ニール氏は続けて「VO(ボイスオーバー)」を挙げています。VOはトレーラーに映画本編のセリフや音声ではなくナレーションとして言葉を追加するもので、特に1990年代から盛んになった手法です。ニール氏は「VOの王様」として、アメリカの男性声優であるドン・ラフォンテーヌ氏の名前を挙げ、「同様のナレーションを入れるほかのプロジェクトと比べて、ラフォンテーヌ氏の仕事は、一線を画していました」と語っています。ニール氏によると、ラフォンテーヌ氏は映画の制作者が望むどのようなニュアンスでも、トレーラーを見る人をくぎ付けにするような音声にすることができたそうです。


その他、ニール氏は「Rug pull」というトレーラーの手法を解説しています。始まりは楽しくて間の抜けた音楽で演出し、大きな転換がなく進行していくトレーラーでも、ラグ(敷物)をゆっくりと引っぱるとどこかでラグの上のものが崩壊していってぐちゃぐちゃになってしまうように、明確な転換点が生まれます。そのように、能天気な展開から緊張感のある展開へと、明確なきっかけのカット無しに雰囲気を切替えるという演出は、ホラーやパニックアクション系の映画のトレーラーで効果的に用いることができます。


一方で、ひと続きのシーンでじっくりと雰囲気を転換するのではなく、短いカットを次々に見せる手法もあります。「ミッション:インポッシブル/フォールアウト」などで見られるように、アクション系の映画ではビートや音楽に合わせて効果音や動き、パンチなどのアクションを入れているトレーラーが多く見られます。

映画『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』本予告 – YouTube
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ニール氏は「リズムというのは人間の基本的な感覚です。私たちは音楽に合わせてシーンをバンバン切り替える演出を『click click whir whir(クリックカチカチ)』とと呼んでおり、リズミカルなカッティングを用いることで、クールな印象をつけることができます」と解説しています。


ニール氏は最後に、以前スタジオの幹部から言われたトレーラーに関する「ジグソーパズルを売ろうとしているようなもの」という比喩を紹介しています。全体像を見せることができず、ピースを数個しか見ることとができないジグソーパズルを売るためには、そのピースをどのように組みあわせるかといういくつもの工夫が必要になります。


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