1年前の安倍晋三元首相銃撃事件以降、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)問題が世間を騒然とさせ続けている。そんななか、旧統一教会の二世信者らが6月18日にシンポジウム「二世と有識者による反日カルト批判についての考察」を開催した。
主催は「信者の人権を守る二世の会」代表、二世信者で韓国人と日本人とのハーフである小嶌希晶氏(20代)ら。韓国の儒教思想の影響も受けて、保守的な思想のイメージのある旧統一教会において、若い女性が主催という点も注目を浴びている。同会による旧統一教会シンポジウムは2回目の開催になる。
出演者は小嶌氏、同じく二世信者で韓国人と日本人とのハーフである新田剛氏。そして、「日本は韓国に贖罪意識を持つべきだ」という立場から茨城県取手市市議会議員の細谷典男氏、「日本は韓国併合で奴隷を解放したり学校教育を浸透させた。贖罪意識は必要ない」という立場から旧統一教会関連の訴訟で旧統一教会および関連団体の代理人を務める弁護士の徳永信一氏が登壇し、激論が繰り広げられた。
小嶌氏によると、二世信者の多くは「反日」思想を持っていないという。
「統一教会の教義が、韓国に対する贖罪(日本が韓国を併合し植民地支配したこと)から韓国に献金しなければならない、とメディアで報じられています。確かに、私の母は贖罪意識を持っていたかと思います。母には人間の堕落論から考える罪意識があり、献金することは善行で、世界に貢献すると思っていたようです。
しかし、私はなぜ母が韓国と比べ日本を下に見るのか、疑問でした。その時代の歴史認識(日本が韓国を併合し植民地化し韓国の独立運動を弾圧してきたという考え方)を持っていたのでしょう。実際に、韓国側の家族は日本を恨んでいます。
でも、私は贖罪意識を持つ必要はないと思います。古い世代の方は、そのような歴史認識を持つ方が多いですが、二世信者は私のような考え方・価値観の人も多いです」(小嶌氏)
一方、新田氏は旧統一教会の信者が韓国に対して贖罪意識を持つのは、教義だけが原因ではないという。
「韓国に住む祖父は反日独立運動をしていました。韓国人の母が日本人男性と結婚することには猛反対しました。何度もお願いして、尽くして、会ってもらい、祖父は『日本人は嫌いだけど新田は良い男だ』と言うようになりました。愛によって恨みが解けたのです。これは宗教にしかできないことではないでしょうか。
(古い世代では)贖罪意識を持って献金していた人もいたのかもしれません。ただし、家庭連合の信者のなかに、韓国に対する贖罪意識を持っている人がいるのは、家庭連合の教義だけでなく学校教育も原因ではないでしょうか」(新田氏)
確かに、学校教育では太平洋戦争が侵略戦争だと教わる。欧米帝国主義によるアジア・アフリカ植民地支配が巨悪だったことよりも、日本の戦後責任についての講義の時間のほうが長くなるのは、日本に住んでいて日本人である以上は仕方ないことかもしれない。ただし、「だから、韓国に献金すべき」ということは学校では教わらない。
二世信者たちは「統一教会の教義は反日ではない」と主張するが、旧統一教会創始者である文鮮明氏の発言録「文鮮明先生み言葉選集」には、数々の反日的な文言が述べられている。(参照 https://biz-journal.jp/2022/11/post_327567.html)
二世信者は、これら「文鮮明先生み言葉選集」についてどう考えているのか。
「(メディアで報じられるまで)私は知りませんでしたので、びっくりしました。いったい何故こんな発言をされたのか、教義の講師に聞いたところ『文鮮明先生が反日運動をしていた頃の発言であり、当時は過激な発言があった。文鮮明先生は日本に留学後、韓国に帰国してから日本を愛するようになった』そうです。また、前後の文脈や時代背景について触れずに、これだけ抜粋されているのには悪意を感じます。私は2回、文鮮明先生にお会いしましたが、『普通のおじいさん』という印象でした」(小嶌氏)
小嶌氏曰く、韓国人と日本人は感覚が異なり、「(韓国人は)発言が過激すぎて、しばしば誤解を生んだり、喧嘩になることがある」そうだ。
「韓国人って日本人に比べて大袈裟なんです。日本人は謙虚ですが、韓国人は1を10にして誇張して言ったりするんです。逆に日本人は10を謙遜して5程度に伝えたりします。日本人と韓国人がコミュニケーションする際は、その感覚の違いを考えて計算したほうがいいと思います」(同)
「文鮮明先生み言葉選集」が二世信者から「過激すぎる発言」として捉えられているなら、統一教会の教義は時代に応じて変わっていくのか。
「原理講論の教義は変わりません。聖書に旧約・新約があるように、時代に応じて『捉え方』は変わっていくと思います。日本に住んで宗教法人として存続するなら、社会に必要とされなければなりません。外部の方の意見を聞いてどう進むべきか考えていかなければならないと思います」(同)
「教義が変わらない」ということだが、シンポジウムでも依然として「反共」は貫く姿勢がみられた。新田氏は、「家庭連合は反共運動で自民党の先生方と手をとりあってきました」と胸を張る。
また、旧統一教会幹部の一人は、今の国会で修正されたLGBT理解増進法案については「反対意見が多いが、一人ひとり意見が少しずつ異なる」と言う。
「教会では、男性と女性が家庭を持って愛で一つになることが人生の目的であり、幸福なことだと考えています。そのため同性婚は認められないという立場ですが、それを強要することはできませんし、非難すべきでもないと思います。逆に、宗教として、このような価値観を持っている人がいることも理解していただきたいと思います。
ただし、私たちはLGBTの方々含めて、全ての人を兄弟姉妹と考えており、困っている人がいれば助けたい、寄り添いたいという思いやりの心は宗教人として当然持つべきだと思います。
私自身にもLGBT当事者の友人がいますが、普通に仲が良く、避けることもありません」(小嶌氏)
「法案が議論される情報などから、LGBTといって一括りにするのは難しいと感じました。宗教者として、どんな方に対しても丁寧に寄り添っていくことの大切さは変わりませんし、法律や制度については丁寧に議論が進んでいけばと思っています」(旧統一教会信者)
旧統一教会の二世信者は、より自由になり、思想も「多様化」しているということか。しかし、旧統一教会を20年にわたり取材してきたジャーナリストの鈴木エイト氏は、今回のシンポジウムに疑念を抱いている。
「主催団体『信者の人権を守る二世の会』の主張は、ざっくり言うと『教団は正しく、偏向報道によって二世信者が差別や偏見といった被害に遭っている』というもの。教団の姿勢や反社会性を省みたり追及するでもなく、その主張をなぞらえただけ。予定調和以上のものが出てくるわけがない。現役二世にとって、教団組織の実態を直視することは自らのアイデンティティを揺るがすため、受け容れがたいのだろう。
同会は現役二世が自主的に立ち上げた任意団体であると謳っているが、教団の紐付きにしか見えない。設立の表向きの建前やメンバーを見ても、政権の意向を受けて活動していた疑惑のある“勝共UNITE”の亜流のようだ。シンポジウムのゲストの人選も偏っている。現役二世にとってもマイナスにしかならない。
この程度のゲストの話を現役二世たちがありがたく聴いているところに、主催者の二世たちのリテラシーの無さが出ていた。本当に教団の現役二世の人権を護りたいなら、このような人権感覚に偏りのあるゲストは選ばないだろう。それだけバイアスが掛かっているということだ。
『あらゆる二世たちの人権について真剣に考えている人は、あなたたちが敬遠している側にいる』ということを解ってくれるとよいのだが……。前回のシンポジウムと同様に、無意味な話を延々と聴かされた二世たちが気の毒で仕方ない。これではかえって教団を離れる二世が増えるのではないか」
鈴木氏の主張する通り、シンポジウムに識者として登壇したゲストは2人とも旧統一教会擁護派であり、徳永氏は今年5月2日にツイッターで「安倍晋三36景を選択しよう。安倍晋三史跡参りを提案したい。賛同者求む」と呼び掛けるほどの「安倍シンパ」で、偏りはあった。
筆者は私見として、「外部の意見も取り入れていこう」という姿勢をみせた小嶌氏には好印象を持ったが、原理講論が贖罪意識を誘発するもので万物復帰の教え(神を中心とした地上天国を造るために、森羅万象を、とりわけお金を神に返す)がある限り、二世たちが本気で改革するための課題は山詰みなのかもしれない。
旧統一教会は、宗教法人を解散しないために「生き残り」をかけて、現在の「日本社会のニーズに合わせて改革していく」ということだが、どのような道を歩むのか注視したい。
(構成=深月ユリア/ジャーナリスト)