サクラのバイトは詐欺の可能性も…結婚相談所のお見合い、マルチ商法の表彰式にも


結婚相談所がお見合いのサクラを雇うことも
「Getty Images」より

 世の中には、さまざまな副業があるが、「高時給で短時間に稼げる」「楽で刺激的」だとして、秘かに人気を集めているのが「サクラ」のアルバイトだ。

 サクラのアルバイトの代表的なものとしては、結婚式や葬式、パーティーへの代理出席などがあるが、なかには「詐欺の可能性があるのではないか」という危ないものもある。

(1)結婚相談所のサクラ

 コロナ禍でステイホームの時間が増えると共に、「独り身では寂しい」と感じて真剣に婚活を始めた人もいるだろう。そんな婚活をサポートしてくれるのが、結婚相談所だ。

 相談所は、結婚願望を持つ男女が入会する。そして、相談員などを介し、自身たちの条件を提示し、それに合うパートナーを見繕ってもらう。その後、お互いが了承すれば、紹介所のもとで「お見合い」が行われる。そのお見合いで双方の同意があれば、「交際届」を提出。交際が順調に運べば、めでたく「結婚届」を相談所に提出し、晴れて結婚という運びになる。

 しかし、一部の結婚相談所はサクラを雇っているという。特に男性会員に比べて女性会員が少なく、なかなか男性会員の「お見合い」が成立しない時、会員が退会しないようにサクラ女性を「お見合い」に派遣することがあるという。

 モデル・イベントコンパニオンのA子(30代・仮名)は、東京都内にある結婚相談所でサクラのアルバイトをしていた。

「結婚相談所の大義名分は、サクラではなく特別会員です。容姿端麗でお見合いでモテそうな女性が特別会員になれるそうです。男性とお見合いする際、交通費とヘアメイク代として、5000円もらえます。登録するだけで3000円もらえました」

 しかし、これは結婚相談所の男性会員を騙す仕事である。

「男性会員には偽のプロフィールが伝えられます。モデル・イベントコンパニオンみたいな派手な仕事を好まない男性もいるので、一般企業のOLという設定です。私は大学を卒業していますが、結婚相談所の相談員から『男性って自分より学歴が高い女性を嫌がる傾向があるんですよね。高卒か短大のほうが、お見合いをOKされやすいです』と言われたので、学歴も偽りました。あと本当は、趣味は海外旅行なんですが『料理とか家庭的なほうがいい』と言われたので、そういう話にしました」

 本来ならば、お見合い後に「仮交際」をするか否かは、両人の気持ち次第だが、サクラは結婚相談所から交際を断るように指導される。万が一、好きになって交際して偽りのプロフィールがばれて、結婚相談所がサクラを雇っていることが判明したら、企業として信用が失墜することは言うまでもない。男性会員はお見合いのたびに3~5万円という高額な料金と、「お見合い」にかかる2人分のお茶代も支払うわけだが、悪質な結婚相談所のカモにされているということだ。

 詐欺に詳しい弁護士法人ワンピース法律事務所の杉山雅浩弁護士によると、結婚相談所のサクラは、詐欺に該当する可能性があるという。

「サクラ女性とお見合いをさせることで会員を継続させているなら、会費を騙しとることになりますので、その結婚相談所がやっていることは詐欺になります。またサクラのアルバイト女性も、結婚相談所と結託して男性を騙していることになりますので、詐欺の幇助(犯罪行為を実行はしないが手助けをする)として刑事責任が問われる可能性があります」(杉山弁護士)

 割の良いアルバイトをしようと、軽い気持ちで結婚相談所のサクラをやっても、逮捕されたり民事訴訟を起こされたら元も子もない。

(2)政治家の演説を聴くサクラ

 不景気や物価高、いまだに全容解明していない統一教会問題などで、政治への不信が高まっている今日この頃。そんななか一部の与党政治家は、人気があるように見せ、国民の信用を得るため、選挙演説の際にサクラの聴衆を雇うという。

 B子(30代モデル・仮名)は、与党候補者の選挙演説を聴くサクラをやったことがあるという。

「モデル事務所に案件がきました。『政治関係のお仕事。45歳以下の美女募集。内容は決定者にのみご連絡(秘密)』みたいな感じでした。うちのモデル事務所だけじゃなく、数社に依頼がきていたみたいで、全部で70人の美女が必要だったみたいです。結局40人くらいしか集まりませんでした。ギャランティは3000円でした」

 明確な違法性はないにしても、国家公務員によると政治家は「特定の国民に奉仕するのではなく、国民全体の奉仕者として公共の利益の増進に尽くさなければならない」とされている。それにもかかわらず、政治家が政治資金を使ってサクラを雇うなど言語道断だ。この情けない候補者とは一体誰なのか。

「名前は言えないのですが……、与党に長くいる元弁護士の方です」

 与野党限らず、選挙期間中、候補者演説の聴衆にやたら美女の比率が多い光景に出くわしたとしたら、それはサクラなのかもしれない。

(3)マルチ商法の表彰式のサクラ

「他の人に商品を紹介したらお金が得られる」と打ち出して会員が新規会員を誘い、その新規会員がまた別の会員を勧誘するし、商品の連鎖販売をさせるマルチ商法。大抵の組織はピラミッド構造で成り立っていて、トップに「メンター」なる創始者が君臨する。永久に会員を獲得し続けなければならないという自転車操業のため、とにかく「頑張れば金持ちになる」「地道に働くより、一攫千金だ」と信用させなければならない。

 幹部がセレブのようにブランド品や高級車をひけらかし、(時には借金してでも)金持ちを装うことも手立てのひとつだが、「たくさんの会員を獲得し、たくさんの商品を売った」として表彰式を派手に演出することもある。

 そんなマルチ商法の表彰式にも、しばしばサクラが雇われることがある。C子(20代モデル・仮名)は、マルチ商法の表彰式のサクラをしたことがあるという。

「私が登録しているモデル事務所に、マルチ商法のサクラ案件がきました。といっても、名目上は『イベントのエキストラ』となっていたので、現場に行ってみて初めてマルチ商法の表彰式だとわかりました。

 うちのモデル事務所で100人募集していましたが人数が足りず、いろんな事務所に声をかけていたみたいです。表彰式は武道館で行われました。ギャランティは3時間くらいで8000円だったので、座っているだけだし楽でしたね」

 杉山弁護士によると、マルチ商法のサクラアルバイトは案件によって詐欺の片棒を担ぐことになると警鐘を鳴らす。

「表彰式に参加するだけなら詐欺にあたりません。しかし、マルチ商法の詐欺業者と結託し、会場で業者と一緒に勧誘し、顧客に金銭を交付させるよう仕向ければ、サクラといえども詐欺になります。刑事責任や民事賠償などの責任を追及されかねません」(杉山弁護士)

 それにしても、武道館を貸し切り、サクラを雇うなど、相当な予算を使っているのは間違いないが、サクラを雇わなければならないくらい会員が離れているのだろうか。

(4)ライブのサクラ

 音楽ライブの成否は、パフォーマーの実力次第であることは当然だが、大勢の観客が集まれば会場は活気に満ち、より一層盛り上がる。そのため一部のアーティスト・芸能事務所は、音楽ライブにサクラを雇うという。

 D子(20代モデル・仮名)は、あるアーティストのライブでサクラをやったという。

「そこそこ知られたアーティストのライブだったので、ビックリしました。年輩のファンが多く、若い女性ファンが足りなかったのかもしれません。サクラモデルはマスコミが撮影する際に、目にとまるように前のほうに席が決まっていました。ギャランティは2時間で8000円くらいでした」

 違法ではないだろうが、正規にライブ観覧料金を支払っているファンの立場を考えると、いかがなものかとも感じる。

 サクラのバイトも多種多様にあるが、安易な気持ちで参加すると、意図せず詐欺の片棒を担いだり、社会的な信用を失墜させることにもなりかねないので、要注意だ。

(文=深月ユリア/ジャーナリスト)

Source

タイトルとURLをコピーしました