その蕎麦を神田の「日本橋ふくしま館」で発見した時、「ああ、そうか、福島だったか!」と、思わずヒザをポンと叩いた。
なぜって、長らく「家そば放浪記ランキング」の1位を死守していた『乱切り二八』を有する「奈良屋」の蕎麦が、数種類も売られていたからである。
ついつい名前で「奈良県だったっけ」と思いがちだが、奈良屋は福島。はからずして、私は奈良屋のテリトリーに入ってしまっていたのである。
いろいろ主張がありそうな奈良屋の蕎麦が売られていたが、とりあえず今回は最もおとなしそうな『大内宿場そば』から攻めてみた。なんとなく “おみやげ” っぽいし……と。
ちなみに大内宿場そばとは、「挽きぐるみ自家製分の粗挽きそば粉を贅沢に使用し、つなぎに山芋を加えた細めの乱切りそばです。会津の美味しい雪解け水で仕込みました。」とある。
らららら、乱切り!?
あの『乱切り二八』に続き、またも奈良屋の「乱切り」で大暴れされたら、私としてはひとたまりもない。
しかし今回は「細め」とある。私は「太め」が好きなので、おそらく耐え切れる……と思う。
ところが、である……
デカい鍋にタップリのお湯を沸かし……
5分位ゆでて……
完成。
して、そのお味は──
ハイ、完全にうまいっす。
食べた瞬間にわかると思う。「あ、これは違う」って。“うまさ” が、グッっと入ってくる。“気持ち良さ” も入ってくる。「効く」と表現しても差し支えないかもしれない。
喉越しも良いし、味(香り含む)も良い。食感も良い。つゆがらみも良い。もうほんと余裕で完全に店の味。それはもう、ちゃんとしたお蕎麦屋さんの蕎麦なのだ。
──というか、私が働いていた蕎麦屋の、私が働いていた時代の蕎麦(先代の蕎麦)の味と少し似ている……。更科だったんだけども、根本的な味がよく似ている。なぜだろう……。
それはひとまず置いておいて、「とにかくウマイ」のひとことに尽きる。何にもケチつけるところなし。
さらに言えば、どんな蕎麦にも合いますこれ。(断言) 目を閉じてイメージングしてみても、全部合う。
たぬきも、にしんも、カレー南蛮も。ひやた(冷やしたぬき)も、なめし(なめこおろし)も、鴨せいろも……ぜーんぶ合う。絶対に合う。
なんというか、全ての平均値が高い総合格闘家みたいな蕎麦なのだ。
たしかにインパクトというインパクトは薄いかもしれない。でも、一切の隙もない。ちょっと強すぎる選手というか。
格闘家に例えるなら、朝倉未来選手みたいなインパクトがあるわけでもないし、扇久保博正選手みたいな人間味があるわけでもない。強さが特徴になるような、堀口恭司選手とか、斎藤裕選手とか、そんな感じの強い蕎麦。
もうちょっとこれは “総合感” で1位に置かざるを得ない。だって、どんな位置からでも戦えるんだもん。打撃が上手い選手なだけではなく、寝技が上手い選手なだけではなく、“総合的に上手くて強いトップファイター” みたいな。
そんなことを考えていたら、
気づけばペロリと完食していた──。
「最もおとなしそう」と思ったから選んだのにこのレベル。奈良屋の蕎麦は、まだ他にも家にある。奈良屋以外にも「これはヤバそうだな」という蕎麦もある。
私は思った。福島、実はヤバイのではないか──と。サッカーに例えるなら、そば界のブラジルなのでは──と。
執筆:干し蕎麦評論家・GO羽鳥
Photo:RocketNews24