動物園で飼育されていたメスのワニが、オスと接触することなく卵を産んだことが初めて確認されたとの論文が発表されました。まるでクローンのように親とほぼ同じ遺伝子を持った子どもが生まれてくるこの単為生殖の事例は、同じ祖先を持つ恐竜の繁殖方法を知る上で重要な洞察をもたらすと研究者らは指摘しています。
Crocodiles can reproduce without males – and maybe dinosaurs could too | New Scientist
https://www.newscientist.com/article/2377168-crocodiles-can-reproduce-without-males-and-maybe-dinosaurs-could-too/
‘Virgin Birth’ Ability Discovered in Crocodiles For The First Time Ever : ScienceAlert
https://www.sciencealert.com/virgin-birth-ability-discovered-in-crocodiles-for-the-first-time-ever
今回単為生殖したことが確かめられたのは、コスタリカのは虫類動物園で飼育されていた18歳のアメリカワニ(Crocodylus acutus)のメスです。このワニは16年間にわたり隔離された状態で飼育されていましたが、2018年に14個の卵を産んでいたのが飼育員によって発見されました。卵生の動物はしばしば無精卵を生みますが、卵を光にかざすと半分の卵の中に中身があったとのこと。
単為生殖に詳しいバージニア工科大学のウォーレン・ブース氏の提案で、卵をふ化させることが決まりましたが、卵はかえりませんでした。そこで卵を開けてみると、7個のうち6個は黄身と細胞の塊が混ざったようなよく分からない物体でした。
しかし、残りの1個には死んでいたもののほぼ完全な形をしたワニの子どもが入っていました。そして、この子どものDNAと母親のDNAを比較したところ、ゲノム配列が99.9%一致したことから、子どもは父親がいない無性生殖で生まれたことが確認されました。
遺伝子がほぼ同じというとクローンが思い浮かびますが、単為生殖では卵子が生まれるときに余りとして発生する「極体」が卵子が融合することで胚が誕生するため、完全に遺伝子が同じクローンとは異なりわずかに遺伝子配列の入れ替わりが発生するとのこと。従って、この子どもは厳密にはクローンではありません。
ワニのようなは虫類以外にも、魚類や鳥などが無性生殖をしますが、その理由はまだ分かっていません。今回報告されたケースでは、母ワニはオスから隔離されていましたが、オスがたくさんいても無性生殖するケースがあるので、オスがいないことは無関係だと考えられています。
ブース氏は「この現象は1つの遺伝子によって制御されていると思いますが、ホルモンによって引き起こされているのかもしれませんし、他の要因もあるかもしれません」と話しました。
今回の事例は、ワニで観察された初めての「処女懐胎」でしたが、注目が集まっている理由はそれだけではありません。解析により、ワニで見られた単為生殖は、卵子が2回目の減数分裂で発生した「第二極体」と融合した「末端融合型オートミクシス」であることが示唆されました。そして、このタイプの単為生殖はヘビやトカゲ、鳥類でも観察されているとのこと。
このことから研究チームは、論文に「単為生殖はこれらの種が遠い共通祖先から受け継いだ可能性が高い」と記しています。これは、この生殖メカニズムの起源は少なくとも2億6700万年前に生きていた鳥類とは虫類の祖先にさかのぼるものであり、恐竜や翼竜のメスもオスなしで繁殖できた可能性が高いことを示唆しています。
今回は1つも卵がかえりませんでしたが、だからといってワニが単為生殖で繁殖できないと決まったわけではありません。研究チームは、論文の中で「今回の発見は、絶滅したワニや鳥類の親戚、特に翼竜類と恐竜類の生殖能力について、興味深い洞察を与えてくれます」と述べました。
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