株式会社KDDI総合研究所と、古河電気工業株式会社のグループ会社である米OFS Laboratoriesは5月18日、40Tbpsを超える大容量なコヒーレント高密度波長多重信号の伝送実験に成功したことを発表した。現在の光ファイバーで利用可能な波長帯である「O帯」において、超広帯域な光ファイバー増幅器を用いたもので、これにより、光ファイバー通信での大容量化が可能になるほか、低消費電力化が期待できるとしている。
現在の光ファイバー通信では、主に「C帯」「L帯」の波長帯が利用されているが、この2つの帯域を用いた光信号伝送では、信号の歪みを補償するために、高負荷なデジタル信号処理が必要になる。そのため、波長分散による影響が小さく、デジタル信号処理の負荷を軽減し、エネルギー効率を改善できるという特長をもつ、ゼロ分散付近の波長帯「O帯」の活用が注目されている。
一方で、高速かつ大容量な通信が可能な伝送技術として、光の強度のほかに光の位相を利用する「コヒーレント伝送技術」があるが、光の位相はほかの光信号成分に影響されて歪みやすく、ゼロ分散波長に近いほどその影響をより強く受ける。
これによって生じる非線形雑音は、一般的にデジタル信号処理技術で取り除くことが難しいため、これまでO帯ではコヒーレント伝送技術の適用は難しいとされてきた。
「O帯コヒーレントDWDM伝送技術」と「BDFA」で伝送実験に成功
今回、KDDI総合研究所は「O帯コヒーレントDWDM(高密度波長多重)伝送技術」を、OFSは「超広帯域なBDFA(ビスマス添加光ファイバ増幅器)」をそれぞれ開発した。これらを組み合わせ、非線形雑音の影響を最小化することで、O帯でのコヒーレント伝送技術の適用を実現した。
O帯コヒーレントDWDM伝送技術
O帯における非線形雑音の最小化を、高密度に多重化した波長信号ごとに送信光パワーを適切に設定することで実現。これにより、送信機側の信号の補正と受信機側の波長分散補償のプロセスを省いた場合にも、非線形雑音の影響を最小化し、平均240Gbpsを超える高いスループットの波長チャンネルを、190チャンネルまで多重伝送できる可能性を明らかにし、結果、40Tbpsを超える大容量なO帯コヒーレントDWDM伝送を可能とした。
機器構成は従来比2分の1に、データセンター間通信の低消費電力化も
O帯コヒーレントDWDM伝送システムは、「機器構成を縮小できる点」「ゼロ分散付近の波長帯を用いることで、デジタル信号処理を大幅に省ける点」に特長があり、いずれも低消費電力化が期待されるという。
従来のC帯+L帯を使った伝送システムでは2台以上の光ファイバー増幅器が必要だったが、O帯を使った今回の伝送システムでは、光ファイバー増幅器1台分と同等のエネルギー効率で大容量の伝送能力を発揮でき、省スペースにもなる。また、送信機側の信号補正と波長分散補償を行うデジタル信号処理のプロセスが削減可能となるため、電子回路の規模を大幅に小さくできる可能性がある。また、処理時間の短縮による低遅延化の効果も見込まれる。
Beyond 5G/6G時代には、現在よりもはるかに膨大で多様なデータがネットワークを流れることが想定されている。両社は、今回の伝送実験により、既存の光ファイバーの伝送容量を最大限まで引き出せるようになることが期待されるとしており、O帯コヒーレントDWDM伝送システムの実用化に向け、さらなる技術開発が期待されるとしている。
今回の研究の成果は、2023年3月5日~9日に開催された、光通信技術に関する世界最大の国際会議OFC2023(Optical Fiber Communication Conference & Exposition)のポストデッドライン論文として報告されました。