ニュースビジネス は「不採算事業」となってしまうのか:BuzzFeed News とハフポストの比較

DIGIDAY

2022年4月、BuzzFeedはBuzzFeed Newsの黒字化に向けて専属のチームを編成した。

2021年にハフポスト(HuffPost)の黒字化を達成したスタッフが招集され、唯一の不採算部門であるBuzzFeed Newsの立て直しが託されたのだ。BuzzFeed Newsの収益化に単独のチームが専念するのは初めての試みで、黒字化達成までに与えられた猶予はたったの1年だった。

ところが、その1年を待たずに時間切れが宣告された。

BuzzFeed Newsは徐々にありふれたプロダクトに

ハフポストはBuzzFeedのポートフォリオに残された唯一のニュース部門だが、そのコンテンツをいわゆる「ニュース」と呼ぶのは必ずしも正確ではない。ハフポストは年々コンテンツの幅を広げ、エンターテインメント、ライフスタイル、カルチャー関連の記事を増やして規模を拡大しつつ、その足下を固めてきた。

BuzzFeedのジョナ・ペレッティCEOが米DIGIDAYに語ったところによると、ハフポストの読者はBuzzFeed Newsの2倍以上で、結果的にその売上高もBuzzFeed Newsのそれを大きく上回る。なお、具体的な数字は開示されなかった。BuzzFeed NewsのトラフィックはBuzzFeed全体の約5%を占めるが、この比率は期間によって大きく変動したという。

ペレッティ氏によると、BuzzFeedの娯楽系コンテンツはBuzzFeed Newsの10倍規模だというが、具体的な数字はやはり開示されなかった。

元スタッフの多くが証言するとおり、BuzzFeed Newsのコンテンツも次第にカルチャーやエンターテインメントが中心となり、結果的に多くの広告主がニュースコンテンツに対して抱くブランドセーフティの懸念も軽減された。その反面、BuzzFeed Newsの本領とも言える調査報道が消滅してしまったと、元スタッフと現スタッフの双方が語っている。その後に残されたのは、広告市場のどこにでもある、ありふれたプロダクトだった。

それでも、黒字化という「達成不可能な目標」に向かって奮闘するチームは、正しい道を進んでいた。BuzzFeed Newsの財務状況を知る元および現従業員3人が米DIGIDAYに語ったところによると、BuzzFeed Newsは2023年第1四半期の売上目標を上回り、最近では大型のスポンサーシップ契約や広告キャンペーン案件を受注していたという。なお、出稿主のブランド名は開示されなかった。

また、BuzzFeedの広報は、BuzzFeed Newsが閉鎖にいたるまで黒字化にどれだけ接近していたかについても言及を避けた。

ソーシャルメディアプラットフォームの変容が痛手に

黒字化への道を順調に進んでいたにもかかわらず、なぜBuzzFeed Newsを閉鎖したのかという問いに、ペレッティ氏はこう答えている。「Facebookがニュース配信から撤退するなど、トラフィックの主な流入元であるソーシャルメディアプラットフォームで多くの変更がおこなわれた。こうした変更は、BuzzFeed Newsの行く手にさらなる困難が待ち受けていることを示していた」。

昨年の夏、Facebookは報道機関などのメディアに対して、「ニュース」タブに表示するニュースコンテンツについての契約を更新しないと伝えていた

Facebookからの収入がBuzzFeed Newsの収入の「大部分」を占めるわけではないが、ソーシャルプラットフォームでのさまざまな変化に加えて、最近Twitterで起きている大混乱などもあり、ペレッティ氏は「BuzzFeed Newsの黒字化への道はもはや閉ざされた」と考えるに至った。

同氏はさらにこう説明する。「ソーシャルニュースというビジネスモデルを構築し、黒字化に近づいてはいるものの、まだ黒字化には至っていないという状況で、我々が拠って立つエコシステムがよくなるどころか悪くなった。当然、ハフポストで働いてもらったらどうか、BuzzFeedに来てもらったらどうか、ニュースブランドを一本化したらどうかという話になる」。

しかし、将来起こりうる困難とは別に、ハフポストを1年で黒字化に導いた収益化戦略がBuzzFeed Newsでうまくいかなかったのはなぜか。両者はともにBuzzFeed傘下のニュースブランドとして2年間を共有していたはずだ。

ニュースビジネスモデルはなぜ頓挫したのか

複数のBuzzFeed News従業員が米DIGIDAYに語ったところによると、BuzzFeedが抱えるより大きな経営上の問題や、広告市場の現状を前提としたプレッシャーなど、あらゆる重荷を一身に背負わされたのがBuzzFeed Newsだったという。

また、BuzzFeedの広報は以前の取材でこう述べていた。「現在の業績と経済情勢に鑑みて、BuzzFeed Newsを閉鎖するという決断に至った」。

BuzzFeedの内情に詳しい関係者はこう話す。「広告主はニュースを買おうとしない。とくにこの2年はそうだった。業績が低迷しても、ニュース専業でないなら、ニュースをスケープゴートしてまるごと排除してしまうのは容易だ」。

昨年、同社は100人規模のスタッフを抱えるBuzzFeed Newsで早期退職者を募集した。その結果、編集長のマーク・シューフス氏を含むトップエディターたちが大量に流出し、BuzzFeed Newsの調査報道、政治、社会的不平等、科学などを扱うチームが解体された。残されたスタッフはたったの59人で、以降、BuzzFeed Newsのコンテンツは文化娯楽ニュースが中心になったと、複数の元スタッフは証言している。

BuzzFeed Newsのアルバート・サマハ上級記者によると、「昨年の退職勧奨による人員整理以降、残ったデスクの担当分野、具体的には文化、テクノロジー、最新のニュースに注力することになった」という。同記者は「その後も話題性のあるビッグニュースを追い続けた」というが、調査報道の担当記者の多くを失ったことで、ニュースルームから発信されるコンテンツはカルチャーやエンターテインメントが中心となっていった。

独自性の消滅、そして抱き合わせの販売

BuzzFeed Newsの広告主への売り込みも一変した。BuzzFeedの広告事業に詳しい2人の関係者によると、退職勧奨による人員整理の後、BuzzFeed Newsは「Z世代のためのニュースメディア」というキャッチフレーズを掲げ、2021年のピューリッツァー賞受賞をテコに厳格なジャーナリズムを市場戦略の大黒柱に据えていた。

この賞は、中国の新疆ウイグル自治区に大規模な収容施設が建設され、数十万人のイスラム教徒が拘束されているという一連の報道に対して授与されたものだ。退職勧奨を通じたリストラ以降は一転して、ポップカルチャーやエンターテインメント関連のニュースが販売戦略の要となった。

広告営業の担当者はこう語る。「ハフポストの戦略の再現にまるまる1年を費やした。その結果、広告販売は以前よりずっと楽になっていた」。

文化と娯楽に注力するという新たな編集方針を打ち出した結果、BuzzFeed Newsはある意味、BuzzFeed、ハフポスト、コンプレックス(Complex)、テイスティ(Tasty)といったBuzzFeed傘下のほかのメディアブランドと広告費を奪い合うかたちになった。

ある広告営業の担当者はこう話す。「ペレッティ氏はブランドセーフティ上、もっとも不穏な『news(ニュース)』という単語をタイトルに残したまま、文化と娯楽にフォーカスした新生BuzzFeed Newsをクライアントに売り込めという無理難題を課してきた。しかしその時点で、BuzzFeed NewsはBuzzFeedと差別化できないほどに酷似しており、もはや独自の価値提案は不可能な状況だった」。

この人物はさらにこう続けた。「独自の市場価値を生み出すために、BuzzFeed Newsはほかのメディアブランドとかぶらない健康分野に注力した。しかし、BuzzFeed Newsに広告費を呼び込む戦略でもっとも成功したのは、ハフポストとの抱き合わせで販売することだった」。

採算が取れるのはエンターテインメントに特化したもの

ハフポストのコンテンツのうち、ライフスタイルやエンターテインメント関連の記事に対して、ニュース報道はどの程度の比率を占めるのかという問いに、BuzzFeedの広報は「そのような内訳は我々のコンテンツの考え方や優先順位とは関係ない」と答えている。「エンターテインメント関連のニュースもニュースであり、健康関連のニュースもニュースだ」というのが彼らの言い分だった。

ペレッティ氏は4月20日に従業員に宛てたメールで会社の将来展望を語り、今後BuzzFeedはエンターテインメントニュース、インタラクティブなAIサービス、そしてクリエイターの起用に注力すると表明した。「大手プラットフォーマーを基盤とするコンテンツビジネスで、唯一持続可能で採算が取れるのはエンターテインメントに特化したものだけとなるだろう。我々がエンターテインメントに注力するのもそのためだ。インターネットをもっと楽しくできるBuzzFeedブランドにしていきたい」。

また、4月20日に発信した社内向けのメールのなかで、ペレッティ氏は「会社の財務を立て直すためにコスト削減努力を重ねてきた。BuzzFeed Newsの閉鎖は最後の手段だった。BuzzFeed Newsの仕事とミッションを愛していたがゆえに、過剰な投資をしてしまった」とも述べている。しかし結局のところ、ニュースコンテンツではジャーナリズムを支えるために必要な収入を確保できなかったのだ。

ハフポストはなぜ生き残ることができたのか

ハフポストの規模だけを見ても、BuzzFeed Newsには到底太刀打ちできるものではなかったようだ。BuzzFeed Newsの記者や編集者が総勢59人だったのに対し、ハフポストのニュースルームではその2倍の約120人が働いている。当然、配信されるコンテンツの数も大きく異なる(BuzzFeedの広報によると、ハフポストはBuzzFeed Newsの記者たちをハフポストで受け入れ、取材力を強化したい「考え」だというが、異動できる人数については開示しなかった)。

「ハフポストの規模であれば、運用型広告や物販で十分に利益を上げることができるだろう」とペレッティ氏は話す。さらに、ハフポストの「ヴォイス(Voices)」をはじめ、ライフスタイル系のセクションは、より「広告フレンドリーなセクションなため、スポンサーをつけることも可能だろう」との見通しを語った。

2023年3月から配布されているBuzzFeedのメディアキット(文末参照)によると、ハフポストの「総リーチ数」は4600万人で、BuzzFeed Newsは2100万人となっている。また、プラットフォームをまたいだフォロワー数はハフポストが4500万人で、BuzzFeed Newsは700万人である。

コムスコア(Comscore)のデータによると、2023年1月から3月のハフポストの月間平均ユニークビジター数は2260万人で、対するBuzzFeed Newsは2000万人前後となっており、ハフポストがわずか13%多いにすぎない。そして配信する月間の記事数に関しては、ハフポストがBuzzFeed Newsを大きく上回っている。

広報や報道向けのツールを提供するマクラック(Muck Rack)から提供されたデータによると、2023年3月にBuzzFeed Newsが配信した記事は497本で、ハフポストが同期間に配信した記事は1882本だった。

ブランド認知の差

BuzzFeed Newsの従業員2人が米DIGIDAYに語ったところによると、BuzzFeed Newsはリーチと広告収入を伸ばす努力の一環として、配信する記事数を増やすことに注力したという。マクラックのデータ(同社広報によると、社内データベースと同社サイトのサイトマップから抽出)によると、BuzzFeed Newsが配信した記事数は、2022年11月(377本)から2023年3月のあいだに32%増えている。なお、BuzzFeed Newsが2022年3月に配信した記事は314本だった。

「それは明確な方針であり、配信する記事数を増やすことは収益戦略の一部だった」。あるBuzzFeed Newsの従業員はそう述べていた。

BuzzFeedの広告事業に詳しいある関係者はこう話す。「広告在庫が増えれば、運用型広告のオープンマーケットプレイスから入る収入は確かに増えるだろうが、BuzzFeed Newsよりもハフポストに広告費が集まる理由はブランド認知だ」。

この人物はさらに、「ジャーナリズムにそれほど関心のない広告主にとって、BuzzFeed NewsはBuzzFeedという看板ブランドの陰に隠れてしまうが、ハフポストはブランドとして自立している」と続ける。

ペレッティ氏は4月20日付けのメールのなかで、「読者がニュースを求めていることに変わりはない。ただ、娯楽に逃避しているときに、ニュースにその楽しみを台無しにされたくないだけだ」と述べている。

「BUZZFEED NEWS」および「HUFFPOST」のメディアキット

[原文:Why BuzzFeed News couldn’t replicate HuffPost’s business model

Kayleigh Barber and Sara Guaglione(翻訳:英じゅんこ、編集:島田涼平)

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