ドッキングステーションをケーブル1本でノートPCなどに接続すれば、ドックに接続されているあらゆる機器が一度に目を覚まして、そのPCから使えるようになる。近年は、電源供給についてもUSB PDが使われるようになり、双方向利用での汎用性も高まっている。
映像出力専用ポートを持たない珍しいドック
MicrosoftがSurface Thunderbolt 4 ドックを発売した。実装するポートはシンプルだ。公式技術仕様として公開されているポートを列挙しておくと、
- 165W電源(パススルー96Wまでの入力)
- LED充電インジケータ付きThunderbolt 4直付けケーブル(80cm)
- 前面 USB Type-A×1(USB 3.1 Gen 2、7.5W)
- 前面 USB Type-C×1(USB 4 Thunderbolt 4、ビデオディスプレイ対応、15W)
- 背面 USB Type-A×2(USB 3.1 Gen 2、7.5W)
- 背面 USB Type-C×2(USB 4 Thunderbolt 4、ビデオディスプレイ対応、15W)
イーサネット×1(2.5Gbit/s)
3.5 mm オーディオ ジャック
となっている。
電源については、同梱されている165Wの電源アダプタの丸型プラグで供給、本体消費分と96Wまでのパススルー電力供給、つまり、ドックそのものは最大69Wを消費することが想定されている。
直付けの80cm USB Type-CケーブルでPCと接続し、データ転送とPCへの電力供給をまかなう。
一覧で分かるように、USB Type-AポートとUSB Type-Cポートを3基ずつ装備しているほか、2.5Gigabit Ethernetポートと、3.5mmのオーディオジャックを装備する。これだけあればデータ伝送について不自由することはまずないだろう。
USB Type-Aポートは3ポートとも10Gbps、USB Type-Cポートは3ポートともThunderbolt 4だ。もちろんThunderbolt 4を使うには、直付けケーブルを接続するPCのポートがThunderbolt 4に対応している必要がある。
興味深いのは、このドックが映像出力専用のポートを持たないことだ。もちろん、USB Type-Cポートは、Display Port Alternate Modeに対応していて、4Kモニター2台の接続が可能。だから、モニター2台を使える。ただ、欲しいことが多いであろうHDMIポートやDisplayPortポートが装備されていない。
USB Type-Cポートで映像を入力できるモニター製品は比較的新しいもので、ほとんどの場合、接続時には60W超の電力を接続されたPCに供給できる。
仮に、そのようなモニターをこのドックに接続すれば、モニターから電力をもらって電源アダプタなしでのドック運用ができそうに思うのだが、仕様的にそうはなっていない。電源アダプタなしでは使えない。
つまり、手元のモニターがUSB Type-Cポートを持たず、HDMI等のポピュラーな接続で映像を入力するしかない場合、このドック単体では無理で、何らかの変換アダプタなどを用意する必要がある。ノートPCにHDMI端子があればそれを使えばいいが、それではドックの意味がない。
そういう意味では、このドックは、外付けモニターを接続することよりも、高速なデータ伝送が求められる周辺機器を接続しておくことを重視しているようにもみえる。
クラウドへのアップロードが完了するのを待つのもたいへんなくらいに大容量のデータをSSD等の高速ストレージに保存したり、そのストレージのバックアップをとったりといった具合だ。
動画配信のために撮影した素材を撮影から戻ったときにコピーして編集したりといったことにも重宝しそうだ。あれこれの周辺機器を、外出から戻ってくるたびにノートPCに再接続するのはめんどうだが、こうしたドックを使えばケーブル1本を接続するだけで済む。
あるいは、昨今、バリエーションが充実しつつあるモバイルモニターを積極的に活用することを想定しているのかもしれない。モバイルモニターの多くは、PCから電源をもらうか、別ポートから電源を入力するようになっている。
USB PD 15WをサポートするこのドックのUSB Type-Cポートなら、モバイルモニターの駆動程度には十分な電力を供給することができそうだ。
斜め上からの見方をすると、この製品にSurfaceブランドを背負わせたMicrosoftの考え方としては、将来的にあらゆる機能を単一のポート形状に統合していきたいということなのだろうか。
USB Type-Aはまだ外せていないのが中途半端だが、HDMIはいらないという判断をしているのが興味深い。時期尚早だが、誰かがそれをやらなければならないということか。
こうした明確なビジョンで仕様を理解した上で選ぶ製品としては秀逸だ。大容量の電源アダプタも他製品に比べればコンパクトだ。本体よりわずかに厚みはあるが、フットプリントは同等だ。
本体についてもゴツゴツとした無骨な周辺機器というイメージはなくエレガントな印象だ。USB Type-CポートしかもたないMacBook系のPCと組み合わせても似合いそうだ。
拡張性は汎用性の証
ドックに接続したい機器としては、モニターやストレージ以外に、HIDとしてキーボードやポインティングデバイスがある。
これらのデバイスはBluetoothで接続することもできるが、その場合、PCごとにペアリングが必要になり、ほかのPCをつないで使うときに再ペアリング等の操作が必要になる。
だが、メーカープロプライエタリなUSBレシーバ等での通信ができれば、そのレシーバをドックに装着しておくだけでいい。
別のPCを接続したときにも、いつものようにいつものキーボードやマウスが使えるのだ。有線接続のキーボードやマウスでもいいが、さすがに今どきのエンドユーザーからは有線接続は敬遠されるだろう。
PCは、その拡張性が汎用性の証であり、たくさんのインターフェイスをサポートしていることが拡張性を担保していた。
かつてはマウスやキーボードはPS/2、プリンタはパラレル、通信はシリアルと、用途ごとに異なる規格のポートが必要だった。
それがUSBの登場で汎用化され、今では、ドックに直付けされたケーブル先端のUSB Type-CプラグをPCのポートに装着するだけで、目の前にある機器類がすべて同時に稼働をスタートするようになった。
しかも、充電までたった1本のケーブルでまかなえるというのは、古くからノートPCを使ってきたユーザーには夢のようだ。
その一方で、LANがWi-Fiによって無線化され、さらにクラウド利用が一般化したことで、データについては、よほど巨大なものでもない限りは、PC本体のポートに外部ストレージをつながずに、クラウドにアップロードしてすませることも多くなった。NASが使われている現場もある。人によっては、PCに装備されているポートは使ったことがないということもありそうだ。
そんな環境下では、ドッキングステーションの出番は少なくなる。でも、映像出力と、映像用ストレージは話が別だ。
ハイブリッドワークにおいてフリーアドレスなどでのPCの表示環境の充実は、本当にストレートに作業効率の向上につながるし、その接続が充電を含めてケーブル1本で済むという便利さは、一度でも体験すれば手放せなくなる。
オフィスではノートPCのディスプレイは使わないという選択肢まで含めて、PCの使い方を変えてしまう。いつもしつこいくらいに言っていることだが、モニターの重要性を受け入れてほしい。だからこそUSB Type-Cポートをサポートするモニターが増えてほしいと思う。
とは言え、ドックに直付けされたケーブルの80cmという長さは、その汎用性を少し損なってもいる。多くのドック製品の直付けケーブルは、このくらいの長さだが、これでは短くて機器のレイアウト等に困ることもありそうだ。縁の下の力持ちにしたい割には短すぎる。
Thunderbolt 4では2mのケーブルもサポートされているのだから、その採用などの柔軟性もほしい。便利なドックではあるが、規格に沿うためのケーブル長と、電源にまつわるさまざまな不便が今後の課題だ。
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