デジタルオンデマンド交通の仕組みをアナログな対面サービスで届ける–Via Mobility Japan 加藤忍氏【後編】

CNET Japan

 企業の新規事業開発を幅広く支援するフィラメントCEOの角勝が、事業開発に通じた各界の著名人と対談していく連載「事業開発の達人たち」前編に続き、Via Mobility Japan日本代表の加藤忍氏との対談の様子をお届けします。

 後編は、Via Mobility Japan(以下、Via)の今後の事業展開の方向性や戦略面、さらに加藤さんのモビリティビジネスに対する思いについて伺います。

Via Mobility Japan 日本代表 加藤忍氏(右)
Via Mobility Japan 日本代表 加藤忍氏(右)

理想的に展開した茅野市の導入事例

角氏:茅野市の案件はすごく成功していると思います。記事にもなり、うちにもという話がたくさん来たと思いますが。

加藤氏:当社への問い合わせだけでなく、茅野市に視察に行かれた自治体も多かったようで、影響はすごくありましたね。

角氏:いい案件が成立して事例があれば、それがお客さんを呼んできてくれる。それでいうと茅野市の案件はスピードも速いし、最初からPoCにお金も出してくれているし、いい事例になっている。それをどう他の自治体に展開していくのでしょうか?

加藤氏:Viaのソリューションは、同じプラットフォームでも自治体の規模によってプロダクトの出し方、使い方が変わってきます。茅野市の規模であれば、バス会社の赤字問題や人口規模が指標になりますし、小さい自治体ではタクシー会社が撤退してしまった地域もあるので、それに合ったソリューションを提供できます。例えば、タクシー事業者がいない地域では自家用有償旅客運送というスタイルがあり、運輸局に届けを出した上で公認された白タクが走っている地域もあるのですが、そのような局面でもご提供できます。

角氏:そのようなエリアだと免許返納もできないという形になりがちですが、そこにも救いの手になっていますね。

加藤氏:役場がドライバーに研修をして、車にスマホを置くだけで始められますからね。空き時間や一般住民の助け合いで運行している地域や、シルバー人材が活躍しているケースもあります。

角氏:タクシードライバーの高齢化も進んでいるので、福音だと思います。売上やユーザーはどうやって増やしていくのですか?

加藤氏:基本的には1つのエリアで契約していただくのですが、走る車が増えると費用も上がる形で、エンドユーザーが増えるほど車両も増え、結果システム利用料も増えていきます。地域が増えていくことと地域内での利用者が増えるという2点が、サービスが広がる指標ですね。

公共交通に困る自治体と大都市圏の2系統で展開

角氏:それは利用者側に納得感がありますね。導入を狙う戦略的なエリアはあるんですか?

加藤氏:導入を目指すにあたり、2つテーマがあります。1つは公共交通に困っている自治体です。茅野市や公認白タクもそうですが、地域の交通事業者が事業を残されていて、公共交通に協力する事業者がいるような自治体です。

 2つ目は、大都市圏でのMaaS事業です。3月に、米国のViaが「Citymapper」(シティマッパー)という移動を楽しくエンターテインメントに感じさせてくれる行き方検索アプリを提供する会社を買収しました。同アプリは移動ルートを検索した際に電車やバスのルートのほかに、歩くと何キロカロリー消費できるとか、レンタサイクルの場所とか、ちょっと動くことが楽しくなるユーザビリティを備えていて、それが大都市圏の自治体との事業に展開できないか、検討している段階です。

角氏:国内地図情報と連携はできているのですか?

加藤氏:シティマッパーは、年ごとに地域の交通事業者の情報や、データを全部インポートしてリアルタイムに反映させるための作りこみ作業が必要になります。日本で対応しているのは東京だけですが、今後取り入れたいという自治体が増えれば、新しい都市にも対応していくでしょう。

 シティマッパーでは、さまざまな手段に基づく移動データを取得しているので、自治体が人流や統計の情報が取れます。ユーザーがどんな検索をし、どんな行き方を選んだのかログとして残るので、人気のある目的地をヒートマップ化できます。そのようなデータは今後の都市計画に使えますし、インバウンド需要を見込んでいる自治体が、旅行アプリやMaaSアプリをインストールさせなくても世界中にユーザーがいるこのアプリがあればサービスが提供できるようになります。

角氏:それはすごいですね!

加藤氏:ほかにも、「リミックス」という交通計画を作るエンジンを積んだソフトウェア会社も買収しているんです。同社のソフトを使うと、地図上に公共交通の路線を置き、人口統計のヒートマップをマージして交通計画を検討できます。シティマッパーがなくても、自治体が保有している人口データやバス会社から提出されている情報があれば人流データも入れることができ、人の動きや分布に対して路線がどのような関係性で配置されているとか、どこに何分で行けるかを、自動で算出するツールも備えています。

 実は2022年夏に、国交省が自治体主導で交通計画を立案するように通達しているんです。我々には計画をたてるための計画ツールがあり、どういう交通網がその街に合っているのかを考える際に、ヒントになるツールもあります。その結果、オンデマンド交通を使いたいというニーズが生じた際にはシステムもある。導入後は配車履歴がデータ化され、エリアの増減を分析しながら継続的に交通網を拡大していくためのツールもあります。計画から実行、そこから出たデータを分析する仕組みがあり、かつ大都市圏にはシティマッパーがある。そこでオンデマンド交通を利用するだけでなく、その中で人の動きを全体的に取得することができるのです。

角氏:商材が一通りそろっているんですね。

加藤氏:日本法人はまだ小さいですが、世界には1000人社員がいます。海外市場が停滞する中で、2023年の第1四半期に1億1000万ドルの投資が入り、評価額が35億ドルになっています。オファーできるプロダクトがそろっていますし、世界の事例は日本にも当てはまるものもあるので、世界の成功モデルを参考にできることも大きいと思います。

ユーザー数を増やしつつ導入後のサービス品質も高める

角氏:ディフェンス的なビジネス話が最後はオフェンス的な話になっています(笑)。加藤さんは仕事ができる方ですね。ではもうひとつ。自治体では外資が撤退したらどうすると議会が突っ込んできますが、そこへの解は?

加藤氏:その点は、森ビルさんと伊藤忠さんに感謝しています。もちろん本社も、日本市場は時間がかかるということを理解したうえで来ていますし、撤退は困るという部分に対しては、両社がそういうことは無いと判断して出資してくれているので、そこは大丈夫です。

角氏:満点の回答だと思います(笑)。では次にこれをやりたいというものは?

加藤氏:現在国内の11地域でサービスを提供していますが、まずはこれからどれだけ増やしていけるかが大事だと捉えています。増やした後も、自治体、ドライバーや運行管理者、乗客を含めた皆様にちゃんと使ってもらい、満足していただけるようにサービスの質を高めていく活動も加速させていきたいですね。ですので、地域を増やし、導入した後もずっと改善していくという2つの活動に注力していきます。

角氏:人手がかかるビジネスモデルという事でしたが、社員を増やすことは考えていますか?

加藤氏:社員も増やしますが、それよりもパートナー戦略ですね。現在、みちのりホールディングスが私たちのプロダクトの提案、販売をして、説明会やアフターケアも実施しています。そのように活動の価値を理解して、私たちのプロダクトを取り扱いたいというパートナーが増えたら、そこを通じたスケールの仕方があると思っています。

角氏:単なる代理店ではなく、事情をよくわかっている交通事業者が展開していくと。

加藤氏:アナログなアフターケアが必要なので、そこを理解した上で販売できるかが重要ですね。

90歳のおばあちゃんがアプリ配車で病院に通う

角氏:ちなみに導入地域の方に対しては、どのようなメリットが生まれるのでしょうか?

加藤氏:まず、コールセンター人員は新たに募集することが多いので雇用が増えます。その上で市民に近い仕事なので、人と人の接点が増えるのです。ドライバーは正直忙しくなるのですが、決まった時間に決まった人が乗ってくることが多く、モビリティがコミュニティになって馴染みのお客さんたちと井戸端会議が始まるんです(笑)。なので、利用者さんはそこが楽しいとおっしゃいますよね。

角氏:面白いですね(笑)。コストカットとか殺伐とした部分を想像してしまいがちですが、お話を伺っていると全くそういう感じではなく、付加価値として移動を通じた喜びや出会いがある。そういう生き生きとしたソリューションだと感じました。

加藤氏:後は見守りにもなりますよね。帯広市の十勝で大きな団地内で回っている車があって、乗客はみな友達でドライバーさんが見守り役になっています。

角氏:このビジネスに取り組むにあたって、ご自身の原体験と紐づいている経験や思いもあるんですか?

加藤氏:自分の親の世代は免許の返納に悩んでいて、私も両親に早く返納してもらいたいと思っているのですが、交通網が不便なので免許を手放してくれません。そこの問題を解決してくれる、すごく身近に感じる課題にアプローチできるというのが、個人の体験として結び付くところです。

 ほかにはお客様との接点ですね。実際に各地に赴いて乗客やドライバーの方々と会うと、その度に感動します。研修や住民説明会をするのですが、後者では最後はだいたいスマホ教室になって(笑)、90歳過ぎのおばあちゃんにアプリの使い方を教えてあげたら、週に1度自らアプリで予約をして病院に行ってくれたりするんですよ。

角氏:実際に説明会を開き、アプリの使い方を教えるというのはITスタートアップの展開の仕方ではないですね(笑)

加藤氏:そこが面白いんです。例えばブロックチェーンなどの最新テクノロジーを扱っていると、数字の上ではビジネスがうまくいっても、実際に肌でユーザーの温度感を感じることはできません。でも交通のプロダクトを始めてからは、色んな年代の乗客の方と接して、どう役立っているのか実感できています。そういう意味では、Viaはテクノロジーも面白いのですが、お客様との接点があるから面白いのだと思います。

角氏:根掘り葉掘り聞けて楽しかったです。仲の良い自治体の組長さんが何人かいるので、お話ししてみたいと思いました。今日はありがとうございました!

【本稿は、オープンイノベーションの力を信じて“新しいことへ挑戦”する人、企業を支援し、企業成長をさらに加速させるお手伝いをする企業「フィラメント」のCEOである角勝の企画、制作でお届けしています】

角 勝

株式会社フィラメント代表取締役CEO。

関西学院大学卒業後、1995年、大阪市に入庁。2012年から大阪市の共創スペース「大阪イノベーションハブ」の設立準備と企画運営を担当し、その発展に尽力。2015年、独立しフィラメントを設立。以降、新規事業開発支援のスペシャリストとして、主に大企業に対し事業アイデア創発から事業化まで幅広くサポートしている。様々な産業を横断する幅広い知見と人脈を武器に、オープンイノベーションを実践、追求している。自社では以前よりリモートワークを積極活用し、設備面だけでなく心理面も重視した働き方を推進中。

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