ジャンボ! チャオスです。ケニアの首都ナイロビでタクシー運転手やってるチャオスです。
さ〜って、今回もリクエストボックスに届いた質問に答えていこうかな!! 今回の質問内容はオレの得意分野!
「わたしはタクシーメーターを取り付ける仕事をしてます! そして日本は一年に一回タクシーメーターの機器を点検しなければなりませんが、ケニアではそもそもタクシーメーターってどうやってるのですか?」
すばらしい質問だ。ありがとう! それでは答えていこう。ケニアのタクシーのメーターは……
ないぞ。
もう一度言おう。
ケニアのタクシーにメーターは、ないぞ。
オレがタクシー運転手を始めたのは10年以上も前の2011年からだけど、その頃からなかった。というか、そもそも昔から無いのかもしれない。
ということで質問に対する回答は終わってしまったのだが、せっかくなので今現在におけるケニアのタクシー事情について書いておこうか。
・UberやBoltが世界を変えた
今、ケニアのタクシーのメーター代わりになっているのは、ずばり「スマホ」だ。正確にはスマホのアプリ。知ってる人も多いと思うが、『Uber(ウーバー)』と『Bolt(ボルト)』の2大アプリが使われている。
もっと大袈裟に言えば、いま、ケニアにおける大多数のタクシーはUber(ウーバー)とBolt(ボルト)で成り立っている。
このアプリはすごい。メールアドレスと携帯電話番号さえあれば、簡単にタクシー運転手になれてしまうのだから。
あと必要なのは、小型車だ。 680ccくらいの小型車。もしくは中型車。なぜ小型車〜中型車が必要なのかは後述する。
・便利の始まりは地獄の始まり
どちらのアプリもレートは低い。だいたい1kmで31kes(約31円)だ。このアプリが登場する前のレートは、1kmで100kes(約100円)だったから1/3以下になってしまった。
なので、お客にとってはウハウハだけど、オレたちタクシー運転手にとっては厳しい世界が始まったんだ。
このアプリは、毎週、報酬を受け取れるが、手数料もかかる。各移動(仕事)につき25%もの手数料を持っていかれる。
もしもドライバーが手数料をアプリに支払わない場合は、アプリの使用ができなくなるので(商売できなくなるので)、支払わざるを得ない。
しかしながら、簡単に参入できるとあって、多くの人々がタクシー業界に入ってきた。日本のゴー(羽鳥)がケニアのリゾート地モンバサでデミオのUberを利用していただろ。あれもおそらく新規参入組だろう。
・求められる小型車
さて、なぜ小型車〜中型車が必要になるのかというと、ずばり、「大型車はアプリに対応していないから」なんだ。
オレの愛車のように1500ccを超える排気量の自動車は、アプリ側が対応していない。また、対応しているかどうかをすっ飛ばして利用しようとしたとしても、料金(運賃)が安すぎて商売にならないんだ。
なので、俺はUber(ウーバー)もBolt(ボルト)も使っていない。では、どのようにタクシー稼業を進めているのか?
いつかも書いたかもしれないが、オレは基本的に「空港からの送迎」と「仲の良いホテルに待機してのホテル客の足がわり」、ならびに「街を流しての一般的なタクシー業務」の3本柱で仕事を進めている。
比率で言うなら「仲の良いホテルに待機してのホテル客の足がわり」と「空港からの送迎(空港への送迎ふくむ)」が圧倒的に多く、それゆえ大型車に乗っているわけで、「街を流して〜」はサブ的な仕事となる。
しかしながら「街を流して〜」で仕事をとるときもあるけど、その時はオールドスタイルというか、「どこどこまでいくら」みたいな交渉制をとっている。
・ほぼ絶滅した交渉制タクシー
この「交渉制タクシー」、一応まだ存在するけど、かなり稀(まれ)な存在になったと思う。なぜなら、ほとんどのお客さんがUberやBoltを使うから。「その両方を使えない人」しか交渉制は使わない……みたいな感じだね。
そんなこんなで、オレみたいな「大型タクシー」で仕事していた人たちは、大型車を売り払い、小〜中型車を買い直し、UberやBoltでタクシー稼業をリスタート……ってパターンになる人も多かった。
つまりUberとBoltは、ケニアのタクシーは、タクシーの車種さえも変えてしまったんだ。
だが、話はまだ終わらない。小型車になったらなったで、いくつもの問題が発生したんだ。
・負の連鎖
結果として、最もUberやBoltに適した車である680cc〜の小型車は、めちゃくちゃ高価になった。中古車の価格的には1,000,000kes (約99万円)〜1,500,000kes(約149万円)くらいで買える。
しかし、買った彼らからの評判はイマイチだ。UberとBoltの台頭で、小型車を持つ彼らの仕事量は増えた。頻繁に移動し、走行距離もグングン上昇。よって、部品の消耗具合や、故障する頻度も飛躍的に向上。
しかし先述の通り運賃の儲けも低いので、車に機械的な問題が発生した時、財政的に修理をするのが非常に難しかったりもするんだ。
仕事(客)は増えた。でも、そこまで儲からない。車は壊れる。修理できない……みたいな。
・来る人、去る人
一方、タクシー稼業に新規参入しようと、銀行からお金を借りて小型車を購入する人もいる。UberやBoltの稼ぎで、その支払いができるかどうか……という問題もある。
その一方で、タクシー稼業でやっていけなくなった人たちの自動車が、オークションに次々と出品されている。
UberやBolt(ようするにスマホやアプリ)についていけなくなった多くのタクシー運転手も職を失うことになった。待てど暮らせど客は来ない。なぜならお客はUberやBoltでタクシーを呼ぶから。
オレは、ありがたいことにロケットニュースのライターの収入もあるから、少し余裕をもって、そんなタクシー業界のサイクルを遠目から眺めている。この先どうなっていくのだろう……と思いながら。
長くなりすぎたのでこのへんで。クワヘリ!
執筆:チャオス(カンバ族)
超訳:GO羽鳥
Photo:RocketNews24.