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食料・飲料の新興企業のあいだで、D2C販売はしだいに時代遅れとなりつつある。
ほんの数年前、D2CのCPG(消費者向けパッケージ商品)ブランドは人気絶頂だった。パンデミックがはじまった頃、食料・飲料を扱うの多くの若い新興企業はD2Cに移行することで爆発的に売上を伸ばした。しかし、冷凍食品分野のデジタルフルフィルメントは長いあいだ、配送コストの高さや、パッケージ破損の恐れ、ドライアイスの確保が困難なことなどの課題に直面してきた。小売が、若いブランドの売上の大部分を占めるようになってきた今、D2Cチャネルは不要な負担になってきた。
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D2Cが重荷になりはじめた
プラントベースのスムージーブランド、スウィートナッシングス(Sweet Nothings)が、3月初めにウェブサイトでのフローズンスムージーの注文受け付けを取りやめたのも、このような理由からだ。
共同創業者でCEOを務めるジェイク・ケネラー氏は、D2Cの売上が急速に小売での売上を下回りはじめたことから、この決定を下したと語る。昨年同社の売上は3倍になり、今年も同様な成長を達成する見込みだ。新しい小売業者からの需要を満たすため、財務リソースと従業員の時間をより効率的に割り振る必要があったと、同氏は述べている。
スウィートナッシングスがオンラインでの注文を受け付けはじめたのは、パンデミックのためだった。同社は2019年後半に設立され、パンデミックがはじまったときには、まだ小売で広く販売されていなかった。当時、同社のビジネスのほとんどは企業へのフードサービスによるもので、Appleや、ゴールドマンサックス(Goldman Sachs)、メタ(Meta)などのオフィスに自社ブランドの冷凍庫を置いていた。
ほかの食料・飲料の新興企業と同様、スウィートナッシングスも、パンデミックの食料品店ブームのあいだにバイヤーからの勢いを獲得し、ホールフーズ(Whole Foods)やスプラウツ(Sprouts)などのチェーン店と契約を結んだ。2020年に同社の売上の過半数を占めていたD2Cの売上は、時間の経過につれて減少し、毎月の収益の5%から10%で安定するようになった。「2022年の終わり近くになって、D2Cは、役に立つよりも重荷となりつつあることに気がついた」と、ケネラー氏は述べる。
D2Cが難しかった理由のひとつは、冷凍食品をオンラインで販売するのが非常に高価だったことだと、同氏は語る。「ブッチャーボックス(Butcher Box)のような規模のサービスを行わない限り、フルフィルメントはサードパーティーのパートナーに大きく依存することになる」。昨年終わりになって、商品が輸送中に溶けた、パッケージが破損したなどの問題が、同社のCX(顧客体験)チケットの約90%を占めるようになった。「当社の運用および物流チームのメンバーは、ビジネスのわずかな部分にほとんどの時間を費やしていた」と、同氏は述べている。
利益の出ていないチャネルの終了
冷凍食品のD2Cストアを閉鎖してからわずか1カ月で、同社はビジネスのその部分の維持に費やされていた時間と労力を解放できた。従業員はスウィートナッシングスの商品が販売されているスライブマーケット(Thrive Market)やグッドエッグス(Good Eggs)などのオンラインマーケットプレイスも含め、ほかのデジタルパートナーシップを運営することに集中できるようになったと、ケネラー氏は語る。
同時に、熱心なサブスクリプション会員を満足させ続けることも望んでいた。そこで同社は、eコマースの顧客を、地元の小売店、またはAmazonフレッシュ(Amazon Fresh)やフレッシュダイレクト(FreshDirect)といった同社の商品が販売されているオンラインサービスに移行させることに重点を置き転換を行った。D2Cストアの閉鎖に先立ち、同社は3万人の会員にこの決定について説明するメールを送信し、返信した先着100人に対して、小売クーポンや無料商品の提供も行った。
「当社の商品は十分な数の店舗で扱われるようになったため、どこに居住している人々にも、近くにある店舗を紹介できるようになった。パートナーとのあいだで売上を急速に伸ばすことは重要なので、当社はD2Cの収益を小売業者に回している」。配送の心配をしなくてもよくなったことで、倉庫の選択肢も増加した。ドライアイスによる配達が必要でなくなるということは、通常、月々の料金も安くなることを意味する。そのため同社は、対象地域へのサービス向上のため、ニュージャージーと北カリフォルニアにあった施設を、カンザスシティと南カリフォルニアに移した。
重視するのは利便性
D2Cを捨てた冷凍食品ブランドはスウィートナッシングスだけではない。シミュレート(Simulate)のプラントベースのナゲット、ナッグス(Nuggs)も、同社のウェブサイトでの販売を終了している。同社は2019年の創設当初はD2C専業だったが、その後小売に移行した。
一方で、植物ベースのチキンの新興企業であるデアリング(Daring)は1年前、一連の新しい小売パートナーに対応するため、D2Cビジネスの閉鎖を決定した。同社の素焼きチキンは現在、ターゲット(Target)や、ウォルマート(Walmart)、クローガー(Kroger)など全国で1万2500店舗以上の小売店舗で販売されている。同社はもともとCovidの最中、必要に迫られてD2Cビジネスを発足した。
同社の創業者でCEOを務めるロス・マッカイ氏は、特にワクチン接種の開始の頃に、D2Cチャネルの管理が急速に難しくなり、ドライアイスと断熱パッケージを確保しようとして、競合するようになったと、米モダンリテールに語った。「その時点でD2Cはビジネスのわずか10%程度であり、長期的に利益をもたらすと予測されなかったため、小売とフードサービスへの転換を迅速に行った」と、同氏は語る。顧客の不満を生まないよう、食べられなくなった食品の交換が必要だったことも、さらにコストを高くした。
しかし、この決断は有意義で、同社は多くの人が冷凍食品を購入しているチャネルに移行できた。「当社がドットコムを廃止したとき、不満を抱いた顧客もたしかに存在した」と、マッカイ氏は語る。しかし同社は、そのような顧客を、同社の商品が販売されている別のオンラインサービスに誘導することができた。
「当社がD2Cビジネスを再開するかどうかは決まっていない。当社がもっとも重視しているのは利便性だ」と、同氏は述べる。同社は今年、調理済みの冷凍食品の新商品ラインを発売する準備を行っており、この商品ラインは3月に開催されたエキスポウエスト(Expo West)で発表された。
損益の心配はしていない
デジタル販売を引き払ったにもかかわらず、スウィートナッシングスのウェブサイトの大きな落ち込みはないと、ケネラー氏は語る。しかし今年、その役割を見直すつもりだ。長期保存できるナッツバターの一口サイズの商品ラインを販売し続けるため、D2C販売もまだ維持している。しかし、その多少のデジタル販売を活用するために、ウェブサイトへの訪問者をAmazonに誘導するための埋め込みコードを検討していると、同氏は語る。
スウィートナッシングスは初期の頃、同ブランドのウェブサイトでの販売は、新規顧客の獲得やブランド紹介に最適だったと、ケネラー氏は語る。D2C型の食料品店の将来については、ほかのチャネルで補填されるため、収益の損失は心配していないと同氏は述べる。「我々には、デジタル注文のフルフィルメントを行ってくれる世界のインスタカート(Instacart)がある」と、同氏は述べている。
[原文:Frozen food brands are putting DTC on ice to focus on retail expansion]
Gabriela Barkho(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:戸田美子)