クライアントの DE&I にも取り組み始めるエージェンシー勢:「これらの分野における責任を遂行するよう、クライアント側も要求してくる」

DIGIDAY

「ポスト・パンデミック」において多くの気付きを企業たちは得てきたが、エージェンシーはより包括的な業界をサポートするために、多様性の取り組みを拡大する役割を認識している。

エージェンシーたちは自社の従業員の多様性を向上させるだけでなく、クライアントにおける採用、定着、そのほかのクライアントサービスに焦点を当てることで、クライアントに対する「DE&I(多様性、平等、包摂)」の取り組みも拡大している。

DE&Iに投資するエージェンシー

広告代理店である米ピュブリシスグループ(Publicis Groupe U.S.)の最高ダイバーシティ責任者であるジェラルディーン・ホワイト氏は、同社のDE&I戦略が「職場から市場へと広がっている」と説明した。米国で約2万6000人、世界で10万人のスタッフを抱える同社では、多様性を増やすアプローチはクライアント、チーム、ブランドとどちら側にも関与する必要があるという。これは、同社の大きさ、そして偏見が多くの分野で気づかれないまま根ざしていることを考えると簡単な問題ではない。

「残念ながら、これらの会話は新しいものではない」と同氏は米DIGIDAYに語った。「体系的に埋め込まれているものがたくさんあるため、それを解きほぐすためにはシステム思考、変更管理、ガバナンスを適用する必要がある。それは、私たちの業界だけでなく、それ以外の業界でも同様だ」。

2022年6月、パブリシス・グループは2021年に比べて非白人スタッフの割合が17.5%増加し、全社で34.4%に達したと報告した。グローバルでは労働力の51%は女性である。これらの数字を毎年更新するとともに、同社は「多様性、包摂、および社会正義」分野に3年間で4500万ユーロ(約65億9019万円)を投資すると発表した。資金は、黒人の人材育成や多文化人材パートナーシップ(Multicultural Talent Partnership)と呼ばれるインタラクティブなフォーラム、職業訓練生制度、人種差別や格差と闘う組織への支援などのプログラムに充てられる。

自社だけでなく、クライアントも巻き込む

エージェンシーは、取り組み強化を求めるクライアントからの圧力を感じているようだ。ホワイト氏は、「エージェンシーにこれらの分野における責任を遂行するよう、クライアント側も確認してくる」と述べた。「RFP、RFI、成長に関する議題の大部分では、多様性への取り組みについて尋ねられるが、実際にどのように行動し、達成しているかも尋ねられる。成果を透明性を持ってクライアントと共有することで、クライアントとのより深い関係につながる」。

22スクエアド(22Squared)の母体であるガイデッド・バイ・グッド(Guided by Good)は、従業員向けの研修、採用、フォーラム、メンターシップなど、内部プログラムを提供している。しかし、同社のEVP兼インクルージョン戦略のエグゼクティブディレクターであるジャニス・ミドルトン氏は、「現在、クライアントやサプライヤーのレベルで、多様性がどのように関与するか考えているところである」と認めた。

「私はいつも頭の片隅で、クライアント側への取り組みに回帰しなければならないと思っていた」と彼女は語り、「自分たちの裏庭を綺麗にした(これらの分野を自社でしっかりと取り組んだ)ことで、クライアントを巻き込める段階に来れた。自分が状況を理解できていない状態で、他人を導くことはできない。自分たちが何をしているのかさえわからない状態では人々を導くことはできない」と話した。

クライアントがコントロールできる支出の割合にコミット

最近、同社はクライアント向けにエンブレイス(Embrace)というプログラム提供を開発し、包括的な仕事と文化を構築する支援を行なった。また、従業員に「実行可能な習慣」や「嘘のない自分」といったトピックのワークショップを提供している。

「サプライヤーの多様性は全く新しい取り組みであるが、取り組むべき時が来たと思う」とミドルトン氏はいう。「適切に(成果を)追跡するための仕組みを整えたい。メディアの観点から、制作の観点から、フリーランスの観点から、サプライヤーの多様性に焦点を当てる時だと思う」。

プブリシス・メディアのマルチカルチュラル部門プレジデントであるリサ・トーレス氏も、「エージェンシーのサプライヤー側の多様性に関する最近の取り組みは、マイノリティ所有のメディアに対する支出を短期的に増やすことに焦点が当てられている」と述べた。その結果、「時に自分たちがコントロールするのではなく、クライアントがコントロールできる支出の割合にコミットすることがある」という。

また、「そもそも(多様性を持つメディアの)供給がなかったり、または供給があっても広告主に提供する手段を持っていなかったりした場合、どうやって多様な在庫購入を増やすことができるというのか」と同氏は話した。

2021年、パブリシスは多様なメディアサプライヤーに対してより公平なレプリゼンテーション(表象、代表性:さまざまなマイノリティが各分野において適切に描かれる・代表されること)を実現するために、ワンス・アンド・フォー・オール連合(Once & For All Coalition)を立ち上げた。同社によると現在、サプライヤー、ブランド マーケター、業界団体で構成される約60のメンバーが非メンバーよりもマイノリティメディアに50%多く予算を割り当てており、40%多様な所有およびターゲットサプライヤーと関与しているという。

将来の人材とエンゲージメントをもつ

広告代理店による外部に向けての活動のなかには、学校や大学とのつながりを築き、採用プロセスの早い段階で人材パイプラインを埋めることをめざすものもある。

IPGのUMワールドワイド(UM Worldwide)で最高ダイバーシティ責任者を務めるジェフ・マーシャル氏によると、カリキュラム(Curriculum)というプログラムを通じてメディアと大学のパートナーを築きたいと考えており、大学キャンパスを訪問して募集活動を行っている。

同社によるヴォックス・メディア(Vox Media)とのパートナーシップのひとつでは、大学生を対象に無料のメディアと広告コースが提供されている。この9つのモジュール構成になっているコースでは、メディアと広告業界に関する情報、プライベートイベントへの招待、そしてコース終了後にはリンクトイン(LinkedIn)バッジが提供される。同氏によれば、現在の平均修了率は1学期あたり100人となっており、この学生数を増やすことが目標でもある。

「大学や学生と話し合い、人材に当社に興味を持ってもらおうとする際に、非常に興味深い方法で色々と試みる機会を与えてくれている」と同氏は語る。

リーダーシップの多様性、マイノリティへのキャリア支援

PMGのストラテジー・インサイト担当者であるアンジェラ・サイツ氏も、学生や卒業生とエンゲージメントを持つという同様の目標を語ってくれた。同氏は2020年に設立されたダイバーシティ促進委員会のメンバーでもある。2022年には、PMGはタラント郡カレッジ(Tarrant County College)と提携してデータ、アナリティクス、eコマースに関するデジタルキャリアトレーニングを提供。目標は2028年までに1000人以上の学生を教育し、今後5年間で50人の学生にPMGによる5万ドル(約666万)の奨学金を提供することだという。

パブリシスもまた、多様なコミュニティ向けの研修やキャリア開発を展開している。同社の遠隔学習プログラムであるオープン・アプレンティスシップ(Open Apprenticeship)は、クリエイティブ産業を横断したさまざまな職種の研修が構成されており、実際のクライアント向けのライブ・ブリーフにアクセスして実践を学ぶことができる。柱となるのは、ブランドマーケティング、クリエイティブ、テックとデータ、メディアと広報だ。

ホワイト氏は、エージェンシーはジェンダーや人種・民族の代表性を追求する必要があると認めつつも、「リーダーシップの多様性やバランス、キャリア支援の分野を見過ごしてはならない」と述べている。

「(男女が)数字のうえでほぼ同等に近い状態にあることは素晴らしいが、キャリアのコースという観点からも、このことはどういう意味があるのか考えないといけない」と同氏はいい、「女性のリーダーシップにおいてそれがどういう意味を持つのか、それをどのように確立していくのか、といった問いに答えないといけない。繰り返すが、単に数値だけではなく、単純な代表性を超えた、我々が持つ責任とは何なのかということが重要だ」と説いた。

[原文:How agencies are shaping the future of DE&I beyond their own walls

Antoinette Siu(翻訳:塚本 紺、編集:島田涼平)

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