グッチを味方に。ビッグネームとの コラボ はいまもブランドを有名にするか?【ファッションブリーフィング】

DIGIDAY

新しい日、新たなコラボレーション。

最近のデジタル広告の大改革の中で新たなマーケティング戦術を試みているにも関わらず、注目を争うアパレルブランドは引き続きいちかばちかの製品コラボレーションに賭けている。そうしたブランドに、グッチ(Gucci)とのパートナーシップを拡大し、今年「驚異的な」成長を遂げることを視野に入れている創業3年のヘッド・スポーツウェア(Head Sportswear)がある。

以下では、成功に必要なもの、失敗する可能性のある点などを含む、同ブランドの大規模な計画の概要を紹介する。

ブランドをスタートする

1995年にオーストリアに本拠を置くスポーツ用品会社ヘッドの完全オーナーとなったヨハン・エリアシュ氏は、2000年に株式を公開、そして2013年に非公開にした後、2016年に新たなグローバルスポーツウェア部門を率いてもらうべく、ローマン・ステペック氏に協力を求めた。ヘッドのテニスラケットやスキーなどのハードグッズ事業は、65年間にわたって同社を支配しており、特にその前の5~6年は連続して記録的な売上を達成するほどの牽引力があった。スポーツウェア事業の復活は、エリアシュ氏の次のミッションだった。

複数のスキーウェアブランドで働いた経験のあるステペック氏によると、エリアシュ氏と話し合いを行ってから2年後に同社と契約することを決めたという。テキスタイルエンジニアを職業とするステペック氏は、スポーツ用品における同社の歴史と実績を考慮すると、社内で必要なサポートを得ることが課題となるだろうと思った。スポーツウェア部門に対する彼の前向きなビジョンを考えるならなおさらだ。

「私はヨハンに、これを成功させるにはゼロから始めなくてはならない。それどころか10から15ほどマイナスからスタートする必要があると伝えた」とステペック氏は言う。「すべての事業部の意識を変えることが不可欠だということがわかっていたからだ」。

当初の懸念は思った通りだったことが判明し、入社して最初の2年間はステペック氏は同僚から避けられていたという。徐々に彼を信頼する「自由な発想を持った非常に若い人たち」から成る新しいチームを形成していった。

ステペック氏の最初の仕事は、高品質なアパレルで知られるブランドの土台を築くことだった。それは、まったく新しいサプライチェーンを確立し、メンズとウィメンズのフィット感とサイジングを完成させることからスタートした。次の課題は少量の注文に対してリーズナブルな価格で取り組んでくれる製造パートナーの確保。またステペック氏がすぐやるべき仕事は、国際的な営業部隊のスポーツウェアに対する注力の拡大と、スポーツウェアに特化した米国のセールスディレクターの雇用だった。ゴールドバーグラグジュアリースポーツ(Goldbergh Luxury Sports)とボグナー(Bogner)でローカルセールスディレクターを務めていたジェシカ・グッドマン氏は、2022年に同社に入社した。

最初のスポーツウェア製品は、3年前にブランドのeコマースサイトを通じて市場に出た。しかし、ヘッドの他部門と同様に、市場でブランドを確立するにあたって同ブランドは主に卸売に重点を置く予定である。

現在、ヘッド・スポーツウェアの売上のうち、米国市場が牽引しているのはわずか10%で、大半は欧州やアジアからだ。しかし米国でのビジネスは今後数年で「驚異的な成長」を遂げるとステペック氏は言う。この夏、米国でテニスラインをローンチするほか、サックス・フィフス・アベニュー(Saks Fifth Avenue)などの地元小売業者が冬のブランドとして取り扱っている。

2020年から2021年のシーズンにイタリアとオーストリアのスキーリゾートが閉鎖されて「まったくビジネスがなかった」時期を経て、パンデミックによってヘッド・スポーツウェアの米国への注力が加速したとステペック氏は述べた。

しかしヘッド・スポーツウェアは、過去3年間にブランドが経験した共通の課題の多くをかわしている。米国と同様に欧州でもテニスブームが起きた。またヘッドが出荷や品質の問題を回避できたのは、潜在的な障害に対する社員の賢い解決策によるものだとステペック氏は考えている。たとえば、東アジアの工場で働く人たちとFaceTimeで会話するために、社員らは現地の言葉を話せる人を採用している。同ブランドの担当者によると、ヘッドはこの2年間で「大幅な成長」を遂げた。具体的な成長率や売上高の数値については公表を避けたものの、最近の年次決算報告書となる2000年度には、ヘッドは3億9860万ドル(約520.6億円)の売上を計上している。

パートナーの活用

ステペック氏が最初に取り組んだのはテニスアパレルで、デザイン重視、プロフェッショナル志向、高品質にすることに重点を置いた。それを始めるにあたって、彼はハードグッズの分野で確立されたヘッドの草の根プログラムとプロのプログラムの連携を図っている。前者は、テニス界の次のビッグスターとなる可能性を秘めた10代のテニスプレーヤーとのパートナーシップを中心としたものだ。テニスプレーヤーは、バッグやラケットにひとつのスポンサーをつけ、ウェアやシューズには別のスポンサーをつけるのが一般的だが、ヘッドの選手はいまや全身ヘッドのブランドを身につけている。現在、ヘッドがスポンサーを務めているプロの選手にはクロアチアのマリン・チリッチ選手がいる。チリッチ選手は練習や大会で自分の好きな色のオーダーメイドのヘッド・スポーツウェアを着用している。

ステペック氏によれば、このカテゴリーでの努力はすばやく結実している。テニスウェアのビジネスは、いまやヨーロッパでは「確固たる地位を築いている」のだ。実際、ドイツ、イタリア、オーストリアなどの市場では、ヘッド・スポーツウェアは売上高でナイキ(Nike)に次ぐ第2位のテニスアパレルブランドとなっている。2024年には、ヘッド・スポーツウェアが米国の大手ファッション誌とコラボしたテニスアパレルをローンチする予定だ。

一方でスキーウェア事業の成長はより困難だったとステペック氏は述べた。彼はまず、現在レース(Race)に分類されている既存のパフォーマンスベースのスキーウェアを元に、レガシー(Legacy)とコア(Kore)という新たなサブカテゴリを確立した。また、アスリートを活用し、知名度と権威を高めることも重要な戦略だった。

1月、ヘッド・スポーツウェアは従来のスキーウェアに「エレガントで洗練された」アプローチを取り入れたこのラインに注目を集めるべく、引退したオリンピックスキーヤーのリンゼイ・ボン氏(インスタグラムのフォロワー数220万人)とのレガシー・コラボレーションをローンチした。ステペック氏はこのラインのインスピレーションに「70年代のロバート・レッドフォード」を挙げている。ボン氏は以前、約10年ほどヘッドがスポンサーとなっていて、レガシーのローンチ当初からの顔を務めている。「彼女は(スキー)リゾートに姿を見せ、消費者に話しかけ、クライアントと語る。そして、素材やフィット感を理解している」と、ステペック氏はパートナーとしての彼女の強みを説明した。

一方、フリーライドや全地形対応のスキーヤーやスノーボーダーに向けた「クール&ヤング」なコアのラインを開発するため、ヘッド・スポーツウェアのデザイナーは、フリーライド・ワールドツアー(Freeride World Tour)に参加する女性3人と男性3人とチームを組んだ。チームはデザインのコンサルティングを行うとともに、コアのアンバサダーとして活躍する。

グッチを味方につける

2022年初頭、ステペック氏がグッチとの提携に関心があると判断したボン氏は、彼をグッチのエグゼクティブに紹介した。ステペック氏はグッチとの提携について長いこと考えていたが、最初のミーティングでチームは意気投合し、すぐにグッチヴォールト(Gucci Vault)とのコラボレーションの構想を開始する。計画では、ヘッドがシルエット、生地、フィット感、生産を担当し、グッチはスタイルのカラー、アプリケーション、ロゴを決定して関連する写真撮影やマーケティングを実施するというものだった。そして4カ月後の2023年1月、グッチヴォールトのサイトでコレクションが発表された。

「チャンスは一度しかないのだから、絶対にすばらしいものにしなくてはならない、と我々は話していた」とステペック氏。「(ヘッドの)チームに対する私の目標は、非常にハイエンドな方法で製品を完成させ、期限内に納品することだった。非常に特別なものにしなくてはならなかった。たとえば、ただプリントして衣服に貼るだけというわけにはいかない。(そうではなく)イタリアでひとつひとつ手作りされたソフトパッチを使用した」。

2021年9月、グッチはオンラインコンセプトストアとしてグッチヴォールトをローンチ。それ以降、同社はカスタマイズされたアーカイブアイテムやその他のヴィンテージスタイルのほか、新進デザイナーによるコレクションやヴォールト限定のコラボレーションも提供している。ヴォールトは、Z世代に人気のファッションブランドのプレイング(Praying)やストリートウェアの人気ブランド、パレース(Palace)ともコラボレーションを行っている。3月初めには、ヴァンズ(Vans)とのコラボレーションがサイトに登場した。

ヘッド・スポーツウェアとのコラボレーションは、スキーウェアに特化したグッチヴォールトのカプセルコレクションの一環だった。ほかのブランド・コラボレーターには、ムーンブート(Moon Boot)、エルダーステイツマン(The Elder Statesman)、ユニック(Yniq)があり、後者は他のスタイルの中でゴーグルを共同制作している。ヘッド・スポーツウェアとグッチヴォールトのスキージャケットとパンツは4500ドル(約58万7800円)で、クリス・ジェンナー氏が、ボン氏から贈られたこのセットの写真を投稿して話題となった。ステペック氏はほかの話題にも触れつつ、ヘッドのコアのアンバサダーの多くが「グッチのジャケット」をリクエストしてきたと述べている。

ステペック氏は、このコラボレーションの売上についてはコメントを避け、「非常に成功した」と述べるにとどめた。ヘッド・スポーツウェアとグッチとのコアラインのコラボレーションが実現すると彼は示唆している。

ヴォールトのラインには「みんな満足している」とステペック氏。「いまはさらに多くの話し合いが行われている。サンモリッツでグッチのエグゼクティブと会ったばかりだが、おそらくもっと長期間(パートナーシップを)継続することになりそうだ。中期的あるいは長期的な契約を結んで、ヴォールトだけでなく、グッチと直接さらにいくつかのコラボレーションをしたい。それにもっと楽しい、ちょっとクレイジーなことをやりたい」。グッチからはこの記事に対するコメントをもらえなかった。

さらに、ステペック氏はポルシェ(Porsche)と5年間のパートナーシップを確立しており、7月にキーリング、ウェア、ヘルメットなどを含む完全なメンズウェア1点をローンチしている。2024年には、両社が共同開発したウィメンズ用のスタイルもリリースする予定だ。

「ブランドを次のレベルに引き上げるために、コラボレーションが必要だ」とステペック氏は言う。彼が考えているように、ポルシェはブランドの高い性能をアピールし、グッチはラグジュアリー志向の買い物客の間で信頼性を高めることができるのだ。

勢いに乗る

2022年初頭、Glossyはスキーウェア市場の成長について報じ、さまざまなブランドが新たにこのカテゴリーをローンチし、数十年来のブランドが売り上げを伸ばしていることに触れた。そして、ケイト(Khaite)を含むファッションブランドは、その後も市場への参入を続けている。2022年の冬季オリンピックではプラダ(Prada)のスノーボードが物議を醸すなど、この分野では、ほかのラグジュアリーメゾンがスポーツウェアとハードウェアの両方において長く活躍している一方で、グッチはまだ本格的には参入しておらず、主力製品はアフタースキーのカプセルコレクションのみの提供だ。Googleで「Gucci skis」と検索してもヒットしないが、ヘッドとポルシェのペアがスポンサードとして結果に表示されるのは注目すべき点である。

今後に向けてステペック氏は、引き続きより若いオーディエンスに向けてレガシーラインをファッションのカテゴリーに加えていく計画だと述べた。夏には旅行からインスピレーションを得たラインも登場する予定だ。

また、グッチとのパートナーシップを考慮し、ヨーロッパでのセールスディレクターの採用が急務だという。「ヨーロッパのセールスをコントロールし、適したチャネルを持ち、方向性について適切な人物と話せる人材が必要だ」。

「全体としてヘッドのルック、洗練されたラグジュアリー感を完璧にして、若いオーディエンスにも印象づけたいと考えている」とステペック氏は述べている。

だが、BCEコンサルティング(BCE Consulting)のシニアアドバイザーでスポーツ業界の専門家であるマット・パウエル氏によると、グッチ×ヘッドのコラボレーションは、ステペック氏が期待しているような形でブランドを後押しすることにはならないかもしれない。つまり、バレンシアガ(Balenciaga)がクロックス(Crocs)で行ったように、ファッションのアウトサイダーのためにコラボレーションを行うことは稀になったということだ。だがもしそれが実際にインパクトのあるものとなるのであれば、ヘッドはその勢いに乗るための準備をしておくべきだ。

「ブランドは、相手のファンに自分たちを知ってもらうためにコラボレーションをするが、いまは単純にあまりにも多くのコラボレーションがリリースされすぎており、ただのノイズになってしまっている」とパウエル氏は指摘した。さらに「ブランドは、コラボレーションのために作られた典型的な少数のユニットを商品化するための道筋を見出せないことが多いのだ」。

[原文:Fashion Briefing: Can a big-name collaboration still put a brand on the map?]

JILL MANOFF(翻訳:Maya Kishida 編集:山岸祐加子)

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