黒く焦げた広大な草原、熊本県の阿蘇(行ってかよかった市区町村)

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はじめに

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黒く焦げた広大な草原、熊本県の阿蘇
(地主恵亮)

3/24 地主恵亮 

黒く焦げた広大な草原、熊本県の阿蘇

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いつだったか、僕は一人、阿蘇の草原の中に立っていた。目の前では枯れた薄い茶色の草が冷たくも暖かくもない風に揺れていた。その向こうには黒く焦げた景色が広がっていた。曇天の弱い光に照らされ、黒くなった草だったものが鈍く輝いて見えた。

いつのことだっただろう、とこの原稿を書きながら必死に考えてみたけれど、思い出すことはできなかった。昨日のことのようにも思えたし、十年も前のことのように思えた。撮った写真のタイムスタンプを見ればわかるけれどそれはしなかった。

この地域では千年も前から人々が草原を焼いてきたのだ。昨日だろうと、十年前だろうと、二十年前だろうと千年という時間の前ではもはや誤差のように思えたからだ。いつだったにしろ、僕の目の前には茶色と黒の景色が広がっていたわけだ。

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黒く焦げているのはこの地域で有名な野焼きのためだ。野焼きを行うにはいくつかの理由がある。たとえば低木の成長を抑えることで牛や馬が好むイネ科の植物の成長を促すため。またダニなどの害虫を駆除するためでもある。ダニは牛や馬の血を吸うのだ。

阿蘇では「あか牛」が有名だろうと思う。起源は韓牛と言われている。1944年に登録された和牛だ。この辺りの街を歩くと「あか牛」と書かれたノボリをよく見かけた。食べてみると確かに美味しい。和牛ではあるけれど、脂肪分も過度ではなくいくらでも食べられる感じがした。

昔から「あか牛」が注目を集めていたかと言えばそうではない。阿蘇の街の「小国」では戦後にオーストラリアから角のない牛「アバディーン・アンガス」を導入している。あか牛は名前からもわかるように褐色。戦後は食用には黒牛がいいということになり、小国はアバディーン・アンガスの導入に踏み切ったわけだ。日本の黒牛より多く肉が取れて飼いやすいとのことだった。

しかし、ダニに弱かったりとなかなかに苦労したようだ。また人々の食の好みが変わったからなのか、現在ではアバディーン・アンガスをここでは見ることはできない。日本全体で見てもそんなには飼育されていない。代わりに「あか牛」が阿蘇に来る人々の食を担うようになった。

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阿蘇は火山灰土が多い。木々も育ちがよくないようで杉が多い。これも植林されたものだ。杉は火山灰土でも育つ木なのだ。また育つ作物にも偏りがある。トウモロコシやソバやアワなど。そのため古くは苦しい生活が強いられる場所だった。

古い写真を見た。発展しているとはなかなかに言いにくい景観をしていた。ただ今では多くの観光客が訪れる。僕だってその一人だ。ミシュランで星を獲得している温泉街だってある。この発展には「やまなみハイウェイ」の開通が大きいのではないかと思う。

熊本から大分をつなぐ道路で阿蘇を通る。この開通により物流が変わった。たとえば、大分には別府という日本を代表する温泉街がある。開通以前は別府で出される海産物は瀬戸内海で採れたものが多かった。しかし、やまなみハイウェイの開通により熊本のものが使われるようになった。

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さらに観光客もやまなみハイウェイを使うようになった。道路の開通が阿蘇を人気の場所にしたのではないだろうか。車を走らせると他の地域では見ることのできない景観で気持ちがよかった。人気になるのも頷けた。

ただ僕が黒い草原を見ている時、誰も車を止めてその景色を見ていなかった。車を止める場所だってあるのに僕は一人だった。誰かにとってはもはや見慣れた風景なのかもしれない。僕は一人冷たくも暖かくもない風に吹かれた。空はいつまでも鉛色だった。

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終わってふたたび解説です

文中にでてきた、やまなみハイウェイは景色も良い明るい感じの場所ですが、地主さんが推すのは、野焼きのため黒く焦げている草原だそうです。意外!

今から入会しても、過去に掲載したコラムのバックナンバーは、はげます会専用ページで全部読めます。(はげます会担当 橋田)

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