いま、米 マーケター やメディアバイヤーが抱える課題とは?:DIGIDAY Media Buying Summitレポート

DIGIDAY

実験的マーケティングは、多額の予算をつぎこめば成果が上がるかというと、かならずしもそうではない。一部のマーケターは、少ない予算での小規模テストを繰り返したほうがいい結果を生む場合もあると主張する。

米ルイジアナ州ニューオーリンズで3月6日~8日に開催された春のDIGIDAY Media Buying Summit(以下MBサミット)では、マーケティング施策、人材の多様性と定着、プラットフォームの進化、景気減速に至るまで、さまざまな課題をめぐる議論が交わされた。なかでも、業界各社が乗り越えなければならないハードルとして、プラットフォーム仕様の透明性と適格な人材の確保が挙げられた。

データをめぐる課題

MBサミットに参加したメディアバイヤーやブランドのマーケターたちは登壇中、セッション前後の会話でもデータをめぐる課題に言及。デジタル広告プラットフォームのデータ仕様変更の影響でデータシグナルに一貫性がなく、キャンペーンの結果にも整合性がないと語っていた。データ不足問題を乗り切るため、マーベル・エンターテインメント(Marvel Entertainment)はダイレクト・エージェンツ(Direct Agents)と連携し、親会社であるディズニー(Disney)が提供するセカンドパーティデータとファーストパーティデータを活用して、消費者訴求の新たな方法を探ろうとしている。

マーベルのマーケティング担当バイスプレジデントであるジェシカ・マロイ氏は3月7日、ダイレクト・エージェンツ統合メディア担当バイスプレジデントのコーリー・レヴィン氏との対談形式の講演に登壇した。マロイ氏は同社のマーケティング部がダイレクト・エージェンツとの協業により、プラットフォーム上で一度にひとつの実験的施策を推し進める一方、ほかのキャンペーンは複数プラットフォームを使って効率よく実行できるよう工夫していると述べた。この方法は、具体的な成果が見えてくるまでに一定の時間を要する。しかし、両氏によると最大の懸念は、主要ソーシャルメディアプラットフォームとのやり取りにおける透明性の欠如だという。

「プラットフォーム機能の詳細は我々にはわからない。しかし実は、プラットフォーム運営会社側の理解も十分ではない」と、マロイ氏は指摘する。「担当者と話しても、プラットフォームの仕様や機能について詳しくない場合が多い。会社が用意したメニューを見せて『このプランを試してみませんか』『こちらはどうでしょう』などと提案するだけで、担当者自身も、開発者側がもっている社外秘の技術詳細情報を知らされていないらしく、個人的にはこの状況にいらだちを覚える」。

レヴィン氏によると、プラットフォームの仕様変更の影響でオーディエンスデータのマッチ率が大きく低下するなか、企業はキャンペーンの成否を判断するにあたり、ピクセル計測データの偏重を避け、顧客獲得コストをより大局的な視点からとらえようとしている。ダイレクト・エージェンツでは、ピンタレスト(Pinterest)とTwitter上のキーワードから抽出した興味関心にもとづくターゲティングの利用拡大も功を奏しているとレヴィン氏はいう。

「AIと機械学習を使う際、ブランドやエージェンシーはしばしば、過去のルールにしたがって成果を出そうとする」と指摘するレヴィン氏はいい、「いまやもう、入札のプロセスを手作業でおこなう時代ではない。毎日のように入札条件を変更したり、単価の上限値を設定したりといったシステム対応が当たり前になっている」と続けた。

広告効果計測の標準化など課題が顕在化

MBサミットに参加したメディアバイヤーのなかには、「クライアントが自社の事業目標を共有しようとしないため、キャンペーン企画の策定が難しい」と訴える者もいた。また、マーケティング活動の効率悪化を招く要因として、広告への期待値と事業目標の乖離(かいり)が指摘された。ガートナー(Gartner)が実施した最近の調査では、回答者の62%が「有望なリードとは何かという定義について、営業部とマーケティング部で認識が異なっている」と回答している。そういった認識の食い違いは、「非効率的で非効果的な顧客エンゲージメント」につながる場合が多いという。

メディアモンクス(Media Monks)のシニアバイスプレジデントであるメリッサ・ワイズハート氏もMBサミット2日目に登壇し、広告効果計測の業界標準を確立して関係者の懸念を払拭すべきだと語った。デジタル広告における大きな諸課題がコネクテッドTV領域でも顕在化していると指摘した同氏は、解決策として短期的な数値目標ばかり追いかける傾向を見直すべきだと述べ、加えて「神聖にして侵すべからざるものであるCPMへの依存」を減らす必要性を論じた。

「企業は、広告効果の測定と事業目標の達成が思うようにいかないため、手っ取り早い指標としてしばしばCPMに頼る。それは厳然たる事実だ」とワイズハート氏はいう。「しかしこの状況は改善できるだろう。業界全体で取り組んで、CPMの代替となる指標をクライアントのニーズに応じて提案するのが望ましい」。

リスク回避志向になるマーケター

景気の先行き不安を受けて、一部の企業ではマーケターのリスク回避志向が続いている。総合型広告エージェンシーのフィッツコ(Fitzco)でメディア部門を率いるクレア・ラッセル氏によると、そうした場合はキャンペーンを厳選し、パラメーターを絞って重点的に実施する方法が有効だという。MBサミット3日目のトークセッションに登壇したラッセル氏は実験的施策について、短期に区切って効果を測定し、パフォーマンスがよかった施策を年間通して継続して、全体的な影響を推し量る方法を推奨した。

実験として施策を打つ場合は大きな賭けに出る必要はなく、「小規模で、ある程度リスクを回避した、納得できる内容のキャンペーンが望ましい」とラッセル氏はいう。新たなプラットフォームやCTV広告を試したり、マイノリティ所有や屋外広告専門のアドテクパートナーと新規に組んだりといった実験を通じて、コロナ禍後のマーケティングにおける存在感を示すのが狙いだ。

多様性の推進

データ関連以外の課題としては、人材と多様性に関する取り組みに改善の余地がありそうだ。

エージェンシー各社は優先課題として「多様性、公平性、包摂性:以下DEI」の推進を挙げているが、業界全体としてはいまだ大きな進展がない。MBサミットで3月7日に登壇したPMGの戦略/インサイト部門責任者であるアンジェラ・サイツ氏は、業界内の企業全般に女性管理職不足や、多様なコミュニティを代表するリーダーの少なさといったDEIの課題があると指摘する。

「社内でも、世界全体を見渡しても、さまざまな形での公平性の欠如がみられる」と同氏はいう。「当社ではまだ、経営陣を含め、組織内の全階層で人種的公平性が保たれているわけではなく、リーダーの役職についている女性の数も十分とはいえない」。

PMGでは、共通点をもつ従業員同士により構成される「従業員リソースグループ」(employee resource group)が、DEI支援の有益なツールとして使われている。また同社では、各コミュニティの代表者の参画を促す部門横断的な多様性推進委員会を設置している。ただしサイツ氏は、何もかも自社単独でやるというより、すでにDEIプログラムを開発している既存のNPOや支援イニシアチブとの連携も重要だと述べた。

「従業員リソースグループの活用は、当社のDEI戦略の根幹をなすものといっていい。リーダー層の多様性という面で、まだ克服すべき課題が残っているだけになおさらだ。DEIの取り組みを組織全体に浸透させれば、従業員のもつ多種多様な考えが公平に扱われるようになるだろう」。

人材定着の難しさ

一方、ガイデッド・フォー・グッド(Guided For Good)最高人事責任者のアカシュ・セン氏は、MBサミット最終日のトークセッションで従業員に関するもうひとつの側面として人材定着と、最近の大量退職をめぐる課題を取り上げた。「メディアエージェンシーではどの層の従業員の離職率が高いか」という質問に対し、同氏は「退職者の多くがZ世代とミレニアル世代である」と答え、従業員向けプログラムにもさまざまな種類があるように、離職防止には「どんな場合でも有効な万能の方策は存在しない」と語った。

「給与および各種手当、金銭的なインセンティブなど、厚い処遇は求心力があり重要ではあるが、離職防止効果は長続きしない」とセン氏はいう。「企業としては従業員にコミュニティ意識と帰属意識をもたせる方法を考えなければならない。また、従業員が担う職務の目的を明らかにし、それが個々人の目的とどう重なりうるか、会社の事業目的のどこにどうはまるかを示す必要がある」。

[原文:Transparency and talent remain top challenges for media buyers and other marketers

Marty Swant and Antoinette Siu(翻訳:SI Japan、編集:島田涼平)

Source