報道されないシリア情勢① 機密解除文書から紐解く米国の政権転覆手法

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2023年2月6日、トルコとシリアで大地震が発生、5万人以上が死亡した。この地震について、トルコ側の情報は比較的多く日本に入ってくるものの、それに比べてシリア側の悲惨な状況についてはあまり報道がされておらず、やきもきしている人も多いのではないか。

そんなシリア側の状況について、独立系報道機関「UK Column」の2023年2月6日の報道が興味深い指摘をしている。

シリアではNATO諸国やイスラエルなどの支援を受けたテロリスト部隊が多くの地下トンネルを作っており、そのため建物が構造的に脆弱になっていたところに地震が発生し、多くが崩壊した。

ここでいう「テロリスト部隊」とは、アサド政権に抵抗してきた「自由シリア軍」のような抵抗勢力を指しているが、彼らの多くの実態はISやそれに近い過激派組織であった。そのシリアでは約100年前の1920年代に、フランス植民地支配との戦いのために多くのトンネルが抵抗勢力によって初めて使用されたのであるが、近年ではアサド政権と戦う武装テロ組織が、戦場で捉えた何千人もの捕虜などを使い、建築技術の進歩もあってシリア中に地下都市を作り上げている。これらの地下都市がなければ、今回の地震で建物ごと崩れるといった被害は少なかったのかもしれない、というわけだ。

さらにUK Columnは「西側諸国の経済制裁により必要な物資が届かず、そのことが人命救助活動を困難なものにしている」とも指摘するが、日本の大手メディアの報道では「シリアは独裁的なアサド大統領により率いられた国であり、経済制裁も致し方ない」という風潮で報道されているように筆者は感じている。しかしこれは米国側の報道側のあり方を批判なく受け入れ広まったものではないのか。

これらのUK Columnによる指摘の中でももっとも興味深いのは、以下のものだ。

政府団体でもなく民間の一団体に過ぎないホワイト・ヘルメット(シリア民間防衛隊)がアルカイダ実効支配するイドリブで緊急事態宣言を出し、寄付を募り、資金獲得の機会にしているのは皮肉なものだ。ホワイト・ヘルメットの設立以来PRエージェントを務めているBBCが同団体による幼児の救出の模様を報道し、資金調達に一役買っているのは冷笑ものである。

この指摘に触れた読者諸賢の中には、ホワイト・ヘルメットに対する厳しい批判に驚かれる向きもあるかもしれない。

同団体は表向きには、シリアとトルコで活動するボランティア組織であり、アサド政権やロシア軍などの攻撃を受けた地域における被害者への救助や医療支援などを行っており、いかなる政治組織や軍事組織とも関係を持たずに活動していると宣言している組織だ。過去にはノーベル平和賞にもノミネートされたこともあり、日本では崇高な「人道支援団体」としてのみ紹介されているため、ポジティブなイメージを持つ人も多いだろう。

だが、ホワイト・ヘルメットの「人道支援団体」の顔は活動実態のごく一部に過ぎず、彼らの活動範囲もまた反政府武装勢力が活動する地域に限定されており、さらに同団体は反政府武装勢力と共に数多くの残虐行為にも手を染めていることさえ海外では多数報道されている

つまり、その実態が武装過激派であるに過ぎない自由シリア軍のみならず、人道団体であるはずのホワイト・ヘルメットでさえ、欧米やイスラエルの支援を受けてシリアに投入された戦争の道具に過ぎないということであるが、このことは日本でももっと報道されるべきであろう。

米国の覇権支配拡大の手法

こんな組織を米国は長年、巨額の資金を投じて支援してきたわけであるが、「特にソビエト連邦崩壊後、米国は世界の国々を支配下に置くべく経済戦争を含むあらゆる手段を用いてきた。経済制裁は各国の国民を服従させることを目的としたものである」と指摘するのは、独立系メディアSyriana Analysisの設立者であるKevork Almassian氏だ。

米国はこのような申し立てを長年否定してきたが、例えば機密解除されたCIAの1993年2月2日の文書では、『米国の制裁によりセルビア経済は衰えたが、反政府運動への機運を高めるほどには現地の消費者を十分に苦しめるに至っていない』とある。これは、セルビア国民が米国からの経済制裁に苦しみ、結果、国民が反政府運動を起こすことで米国の都合の良いように物事が進むことを目的としていると言えるだろう。

米国は国民を苦しめて政府転覆を行わせる手法をとる、との指摘を聞いた読者は信じがたい思いでいっぱいかもしれない。しかし、これは実際に米国が使ってきた基本的な手法である。筆者がごくごく普通のイラン人の知人から聞いていたこととも一致する。

例えば筆者の知人のイラン人は、現在、イラン以外の中東某国に住んでいるが、国籍がイランであるというだけで、現居住地やその他いくつかの国では銀行口座さえ作らせてもらうことができないと言う。そこで、別の国籍を持つ遠縁の親戚に銀行口座を貸してもらっているらしいのだが、知人が他に頼るあてもないことにその親戚がつけ込み、口座の貸し出し料をどんどん値上げしているとのことだ。そのため知人の手元には振り込まれた金額のわずかしか残らない、というトラブルに直面している。

その知人は筆者に対し、「イランの高官は制裁を受けておらず、苦しむのは一般市民ばかりなのだ。米国はイランの市民を怒らせて反政府活動を展開させたがっているのだが、無力な市民にそのようなことができるだろうか。」と愚痴をこぼしていた。このように国内の社会階層に大きな経済的分断を生じさせ、苦しみ怒った国民を背後から煽動して政権を転覆するのが米国の長年のやり方というわけだ。まさに分断統治の手法である。

前述のイラン人の話を聞いてから数ヶ月後、イラン国内では反スカーフデモがおき、国内の体制が大きく揺れるという事態が発生した。イランでは過去にも、1953年に発生し、民主的に選ばれたモサデク政権を崩壊させたクーデターはCIA主導であったことが明らかになっており、今回のイランのデモにおいても、外国情報機関の関与の可能性は当然あるのではないかと筆者は考えている。

日本でも経済格差の拡大や新型コロナウイルスのワクチン接種を巡る状況など、国内には大きな分断ができつつあるようにも感じるが、こういった海外の現実がある以上、日本国内でお互いに対立していがみ合い国内で消耗するのは決して得策ではあるまい。それよりも、このような社会的分断の背後にはどのような力学が働いているのかという点に対してより冷静な洞察力を働かすことがいま、最も必要とされていることではないだろうか。

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