原発処理水放出へ

アゴラ 言論プラットフォーム

原発処理水放出にむけてようやくハードルをクリアしました。国際原子力機関のグロッシ事務局長から調査報告書が交付され、安全が確認されました。今後、スケジュールを具体化し、早ければ今年の夏からの放出になりそうです。

ただ、放出と言っても数十年かけて極めてゆっくり行います。また、既に健康に有害な物質は除去され、トリチウムだけが残る状態です。つまり、常識的にも科学的にもそれによる海洋への影響はまず起こりえないと考えてよいと思います。

福島第1原発のALPS処理水タンク
資源エネルギー庁サイトより

私は科学者ではないのでこの「科学的根拠」については記載物を確認し、その結果を信じるだけでありますが、各方面で検証が繰り返されていることを鑑みればそれにいちゃもんをつける理由は皆無であります。

これに対して全国漁業協同組合連合会が風評被害を懸念し、反対しています。ただ、個人的には風評被害というより8年前に政府と東電が出した空手形に対しての矛盾の追求が焦点のように思えます。つまり、東電の社長名の「関係者の理解なしにはいかなる処分も行わない」という文言についてどう落とし前をつけてくれるのか、ということであり、一種の補償問題に絡ませようということかと思います。

福島の水揚げは確かに震災前に比べ漁獲高は2割、水揚げ金額は4割弱に留まっています。しかし、それは漁師も船も依然と比べ大幅に減ったこと、気候変動もありそもそもの水揚げが減っていること、さらには他県の船が他県で水揚げすることも影響しています。

漁業の場合、〇〇産というのはどこで水揚げしたかであり、福島沖で漁獲しても気仙沼や銚子で水揚げすれば福島の名前は出てこないのです。とすれば全国漁業組合からみれば反対する根拠は薄弱であくまでも福島を慮ることが主因ではないでしょうか?

また中国と韓国がこれに同調するように非科学的な主張を繰り返しています。が、自国の原発からのトリチウム排出は今回の福島の放出計画に比べ4-6倍の水準であることを考えてみれば天に向かって唾をはくようなものでいずれ自分のところに帰ってきます。

韓国などは「人のせいにする」ことが天性であり、悲劇のヒロインを演じさせるとピカイチの演技力があります。韓国では塩がスーパーマーケットから消えたとも報じられていますが、ここまでくると尋常の域を超え、笑い種になってしまいます。

一方中国の場合は外交交渉手段でこれでカードが一枚増えた、ぐらいにしか思っていません。放出が始まれば香港、マカオが当該地で取れた水産物について輸禁するとしています。日本政府が今後、長年に渡ってその輸禁解除に向けて交渉をしていくのでしょうが、そこで引き換え案が必ず出てくるのが中国のやり方です。アメリカ流ならば「ならば食わなければいい」ぐらいの強気ではないでしょうか?

今回の原発処理水放出はやむを得ない事情の中で日本は最大級の努力を重ねてきたと思っています。自然災害は必ず起きます。一方、現代社会はインフラを含め、複雑で精巧な仕組みの中で構築されているため、想定外の事態はどうしても起こります。それはどの国でも同じ話である程度の相互理解は必要であり、各国は各々の国民に論理性をもって理解を求める必要があると思います。

今回、たまたま海洋放出ということが問題になりました。端的に言えばマンションの共有部にゴミを置いてよいのか、という議論に近いわけです。日本は十分処理しているのでゴミではない、一方、中国と韓国は「いや、ゴミだ」と言う訳です。国際原子力機関は「ゴミではない」とお墨付きを与えたことは管理組合がそう判じたということでしょう。

では風評被害がまだ本当にあるのか、ですが、私がスーパーで魚を買う際に仮に福島沖で獲れた魚とステッカーを張っていたら喜んで買います。気にする人は気にするでしょう。が、それも時間が解決すると思います。コロナのマスクと同じです。初めはおっかなびっくりなのですが、徐々に慣れると思います。

最後に、漁業は風評被害よりも気候変動による魚の移動や漁獲高の変化が大きく影響します。獲れる魚は変わり、かつて庶民には当たり前だったサンマやニシンはすっかり高根の花、ないし、見かけることが少なくなりました。一方、近年の食卓では魚から肉、更には大豆ベースの代替肉も出てきています。食生活の変化に対して漁業をどう維持していくのか、そちらにもっと重点を置くべきでしょう。

中国、韓国、北朝鮮の漁船は日本の領域に入って漁業を平気で行っているわけですが、風評被害を気にするなら日本に入ってくるな、とも言いたいところであります。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2023年7月5日の記事より転載させていただきました。

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