東京ガス利益が2.8倍、風呂代が1.4倍になる理由

アゴラ 言論プラットフォーム

Richard-P-Long/iStock

ガス代が値上がりしている。

先月の倍になった。

去年の同じ月より1万円以上高い。

SNSでは高いガス代を嘆く投稿が目立つ。無理もない。電気代の値上げは報道で知っていた。ある程度の「覚悟」もあった。けれど、ガス代はノーマークだった。1月の消費者物価指数では、ガス代は前年同月比39.7%の上昇と、電気代の24.6%を大きく超えた(※1)。

値上げの要因は、都市ガスの原料である液化天然ガス(LNG)の輸入価格高騰だ。原料輸入価格の変動はガス料金に反映される。

その額は、ガス使用量「1立方メートル」あたり「78円」だ。昨年は「14円」。一昨年は「△22円」だった(マイナスなのは、輸入価格が基準額より安かったから)。一昨年と比べると100円の値上げということになる(※2)。

高い輸入価格を料金に反映した結果、ガス会社の多くが増収(売上増)となった。そればかりか、大幅増益(利益増)を見込む会社もある。「東京ガス(東京ガス株式会社)」だ。

東京ガス プレスリリースより

東京ガスの、2023年3月期の売上高(見込)は3.4兆円と、前年2.1兆円の「1.6倍」。営業利益は3,310億円と、前年1,178億円の「2.8倍」を見込む。それに伴い、営業利益率も過去5年平均の5%から、「9.8%」へ4ポイント以上上昇する。まるで別会社のような決算値だ。

輸入価格、すなわち仕入価格の高騰を料金に反映しただけなのに、なぜここまで「利益」が増えるのだろうか。

業界コストで価格が決まる

理由は、自社の輸入価格ではなく「貿易統計の輸入価格」を反映しているからだ。

東京ガスの料金は、液化天然ガスの「輸入価格」の上下を売価(立方メートルあたりの単価)に反映させる変動価格制だ。仕入額に利益を加えた価格で売る、という点では通常の「コストプラス法(※)」と変わりない。

※ 一定の利益額または利益率を製品のコストに加えて価格を設定する価格決定方法

違うのは、自社の輸入価格ではなく、「貿易統計の輸入価格」を用いること。つまり、自社の仕入額ではなく、他社含む「業界全体の仕入額」で「自社の売価」が決まる。他社が高い価格でガスを仕入れれば、業界全体の仕入額が高くなり、それが反映され売価も高くなる。いわば「業界全体のコストプラス法」だ。

東京ガス プレスリリースより

もし、自社が、これまでどおりの価格で仕入れる一方、他社が高い価格で仕入れてくれたら。コスト一定、売価アップ。自社の利益は飛躍的に増加する。

(大雑把に言えば)東京ガスがこの状態だ。

ガスの調達には「スポット契約」(スポット調達)と「長期契約」がある。高騰かつ増加しているのは「スポット調達」だ。東京ガスは「長期契約」が大半であるため、コストに大きな変動はなかった。

一方、スポット調達が多いガス・電力会社は、コストが増えた。たとえばJERA(株式会社JERA)だ。

JERAは、東京電力と中部電力が設立した、燃料調達・発電・販売を事業とする合弁会社である。2020年冬の寒波による電力需給ひっ迫時には300万トン、2021年には450万トン(過去最大)のスポット調達を実施。今年度も、スポット調達の影響で「1,145億円」コストが増大している(※3)。

JERA プレスリリースより

他社の高額なスポット調達が、貿易統計の平均原料価格を押し上げ、それが自社の売価に反映された。(相対的に)安価な長期契約調達が大半である東京ガスが、「結果として」利益を享受するカタチとなった。それが今回の「最高益」の顛末だ。

調達ポートフォリオが明暗を分ける

とはいえ、長期契約が常に安価とは限らない。むしろ、2020年半ばまでは、スポット調達の方が安値が続いていた。長期契約価格の4分の1以下に下落した時期もある。長期契約とスポット調達をどのような比率で組み合わせるか。「調達ポートフォリオ」が利益の明暗を分ける。

東京ガスの 常務執行役員 CFO 佐藤 裕史氏は、

2021年度は(中略) 価格が上昇したLNGスポットの調達を可能な限り抑制することができました。(中略)長期契約中心の調達ポートフォリオや、ここ数年改善を重ねてきた需給調整の最適化オペレーションが奏功し、原料調達面での優位性につなげることができたと考えています。

(東京ガスグループ統合報告書 2022年3月期 )

と述べる。

だが、長期契約の需要は急激に高まっている。ロシアのウクライナ侵攻や、価格が不安定なスポット調達を嫌気し、欧州や中国の長期契約が増えているのだ。すでに、2026年ごろまで長期契約は「売り切れ」状態だという。今後、「調達ポートフォリオ」の構築は一層難しくなるだろう。

風呂を1回沸かすと120円弱

東京ガスの過去最高益「3,310億円」とは裏腹に、東京ガスユーザーは、今月(2023年2月)過去最大のガス代になるかもしれない。原料費調整額は「78円/1立方メートル」と先に述べた。これをざっと計算すると、風呂を1回沸かすのに

「120円弱」(※4)

かかることになる。昨年(82円)の1.4倍、一昨年(62円)の2倍弱だ(※2)。ガスを使うのは風呂だけではない。暖房、料理、洗い物。さて、今月はいったいいくらになることやら。暖かい春が待ち遠しい限りである。

【備考・注釈】

ガス料金の計算に政府補助金(30円/立方メートル)は織り込んでいない。

※1 総務省 消費者物価指数 東京都区部2023年1月速報値
※2 東京ガス 2023年2月検針の場合。昨年・一昨年同月と比較。基準額(基準平均原料価格):その地区の料金表を適用した時点での平均原料価格
※3 JERA 第3四半期決算説明会資料より
※4[水温(40度-15度)]×[浴槽の水量 200L]÷ ([都市ガス発熱量]11,000kcal×「熱効率 0.8])×([調整単位料金]130.46円+[原料費調整額]78.49円)=118.72円

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