出生時の戸籍上の性別が性自認と一致しないトランスジェンダーと、「男性・女性」といった区分にとらわれない性自認を持つノンバイナリーのカップルが、「乳首のみを覆ったトップレスの写真」をInstagramに投稿したところ、コミュニティ規定に違反しているとして削除されてしまいました。この決定をFacebookやInstagramのモデレーションについて監視する監督委員会が覆し、「成人向けのヌードおよび性的行為のコミュニティ規定を変更するべき」と要求しました。
ジェンダーアイデンティティとヌード 監督委員会 | 独立した判断。透明性。妥当性。
https://www.oversightboard.com/decision/BUN-IH313ZHJ/
Oversight Board Selects Case Regarding a Photo of a Topless Individual and Shirts for Sale
https://transparency.fb.com/oversight/oversight-board-cases/post-containing-photo-of-topless-individual/
Oversight Board presses Meta to revise ‘convoluted and poorly defined’ nudity policy | TechCrunch
https://techcrunch.com/2023/01/17/oversight-board-presses-meta-to-revise-convoluted-and-poorly-defined-nudity-policy/
Meta’s Oversight Board calls for more inclusive rules on adult nudity | Engadget
https://www.engadget.com/meta-oversight-board-instagram-trans-non-binary-bare-chest-covered-nipples-161509910.html
今回Metaの監督委員会が取り上げたのは、アメリカに住むトランスジェンダーとノンバイナリーのカップルが所有するInstagramアカウントが、2021年と2022年に投稿したトップレスの写真です。いずれの写真にも乳首を覆って胸を露出したカップルが写っており、キャプションではトランスジェンダーの人物のヘルスケアについて記されていたほか、カップルのうち一方が間もなく乳房を平らにする手術を行うと述べられていました。
2つの投稿にはトップレスの写真に加え、「カップルが販売しているTシャツの写真」も追加されており、2人は手術費用の足しにするとしてTシャツ購入を促していました。Metaは自動検出システムとユーザーからの報告を受けて、これらの投稿がコミュニティ規定に違反しているかどうかを審査しました。
審査の結果、Metaはトップレスの写真と資金集めページへのリンクが同じ投稿に含まれていることから、成人間での性的関係や営利目的の性的サービスの促進を禁じる性的行為の勧誘に関するコミュニティ規約に違反していると判断し、それぞれのコンテンツを削除したとのこと。カップルはMetaの決定に対して異議申し立てし、監督委員会がこの異議申し立てについて受理した後、Metaは投稿の削除はエラーによるものだったとして撤回しました。
監督委員会は公式声明で、「これらの投稿の削除はMetaのコミュニティ規定、価値観、人権の責任に合致していないと判断しました。これらのケースは、Metaのポリシーに関する根本的な問題も浮き彫りにしています」と述べ、投稿を削除した決定には問題があったと指摘しています。
監督委員会によると、性的行為の勧誘に基づいたコンテンツ削除に関するモデレーターへの内部ガイダンスは公開されているものに比べて非常に広範であり、ユーザーとモデレーターの双方に混乱を招くとのこと。今回のケースでも、性的行為についてのコミュニティ基準に基づいて訓練された自動検出システムが投稿を検出し、人間のモデレーターへ写真を送信していました。
人間のモデレーターがチェックするべきコミュニティ規定では、授乳や性別適合手術といった特定の状況を除き、女性の乳首を含む画像の投稿を禁止しています。しかし、監督委員会は「この方針は性別の二元的な見方および男性と女性の体の区別に基づいています」と述べ、規定がノンバイナリーやトランスジェンダーなどの人々にどう適用されるのかが不明確だと主張。また、モデレーターに対しては性別やジェンダーを主観的に評価することが求められ、大規模なコンテンツモデレーションには向いていないことも指摘されています。
特に、女性の乳首に関するポリシーの例外は過去にも問題視されており、政治的な抗議のためにトップレスになる場合や乳がん啓発運動など、多様な例外が存在しており定義も不十分だとのこと。監督委員会は、「たとえば、ある文脈ではモデレーターが目に見える傷跡の程度と性質を評価し、特定の例外が適用されるかどうかを判断しなくてはなりません。このポリシーに固有の明確性の欠如は、ユーザーとレビュアーに不確実性をもたらし、実行不可能なものにしています」と述べています。
「おっぱいの写真はどこまで許されるのか?」についてFacebookが熱い議論を経てポリシーを更新 – GIGAZINE
Metaはポルノコンテンツの増加を懸念してヌードに対する厳格なポリシーを定めていますが、監督委員会は「ある体は本質的に性的だが別の体は性的ではない」と規定するMetaの「公衆の道徳」のスタンスに異を唱えています。
監督委員会は、「私たち一貫して、Metaはそのポリシーが差別の対象となる人々のどのような影響を与えるかに敏感でなくてはならないと述べています」「今回私たちは、成人のヌードに関するMetaのポリシーにより、プラットフォーム上の女性、トランスジェンダー、ノンバイナリーの人々の表現に対する障壁が高まっていることを発見しました」と述べ、トップレスの写真に対する制限が性的マイノリティの人々に不釣り合いな悪影響を及ぼす可能性があると主張しています。
以上の審査結果から、監督委員会はMetaに対して以下のことを推奨しています。
・成人のヌードと性行為のコミュニティ規定を管理するため、明確で客観的かつ、人々の権利を尊重した基準を定義する。
・公開されている「性的行為の勧誘についてのコミュニティ規定」において、コンテンツが削除される基準についてより詳細に説明する。
・性的行為の勧誘についてのコミュニティ規定に関するモデレーター向けガイダンスを改訂し、ポリシーに関する公開規定をより正確に反映する。
Metaの広報担当者はテクノロジー系メディアのEngadgetに対し、「私たちはこの件における監督委員会の決定を歓迎します。私たちは、コンテンツが削除されるべきではなかったことを認識し、監督委員会の決定の前にコンテンツを復活させていました」「私たちはプラットフォームをすべての人にとってより安全なものにするため、常にポリシーを評価しています。LGBTQ+コミュニティをサポートするために、もっと多くのことができることを私たちは知っており、さまざまな問題と製品の改善に取り組むため、専門家やLGBTQ+擁護団体と協力します」と述べました。
この記事のタイトルとURLをコピーする