調達の時代になって、従来の収入源(プランニングやバイイングの手数料)が枯渇するなか、メディアエージェンシーにとっての新たな収入源はそうあるものではない。
大手エージェンシーと独立系エージェンシーの両方がコマースメディア部門の拡大を急いだ理由の大部分はここにある。これは新しい収益源であり、過去2年間のリテールメディアネットワークとeコマース企業の設立ラッシュが偶然重なり、それを利用した形だ。
IPGのUMショップはこのほど、長年提供してきたUMショッパー(UM Shopper)の範囲を拡大し、より広範なUMコマース(UM Commerce)にしたが、これはコマースメディアの広範な可能性を暗黙のうちに理解していたからだ。同様に、オムニコム(Omnicom)も2022年初めにフランク・コチェナシュ氏をコマース担当責任者に任命している。独立系では、コート・アベニュー(Court Avenue)がeコマースサービスを拡大する一方、アイコン・コマース(Icon Commerce)はこの分野に注力するためリブランドを行った。
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コマースメディアの微妙な立ち位置
コマースメディアにはさまざまな側面がある。マッキンゼー(McKinsey)は、長期的な企業価値は2026年までに1兆3千億ドル(約170兆円)(うち、エージェンシーの収益は50億ドル[約6500億円])に達すると予測している。
その理由のひとつに、リテールメディアネットワーク(RMN)数の増加がある。RMNはその多くが米国を拠点としており、マッキンゼーの報告書によると、2026年までに合計で1000億ドル(約13兆円)規模に達する可能性があるという。最近では、毎週のように新しい発表がある。大麻をテーマにしたRMNであるフィロ(Fyllo)もそのひとつであり、アドテク企業クォティエント(Quotient)も新たなリテールアドネットワークを発表し、ホリデーシーズン直前にほかのRMNにある種のアグリゲーターを導入した。
フルサービスのクリエイティブショップであるアップショット・エージェンシー(Upshot Agency)のマーケティングおよび戦略担当エグゼクティブ・バイスプレジデントであるリサ・ハースト氏は次のように語る。「いまのところ、リテールメディアはブランドの広告費全体の平均10分の1程度を占めるに過ぎないが、とくにこれらのネットワークがより洗練され、オムニコマース・キャンペーンを実行するうえでよりよいパートナーになるにつれて、従来のメディア予算がますますリテールメディアに振り向けられるようになるとクライアントやパートナーからは聞く。我々は、より多くの小売業者が独自のメディアプラットフォームを立ち上げると予想している」。
WARC/アセンシャル(WARC/Ascential)の米国担当バイスプレジデントであるキャロリン・マーフィー氏は、RMNは世界のほかの地域でも急速に成長すると予想されるため、多国籍リーチを持つエージェンシーは最終的に利益を得られると述べる。
課題は異なるビジネスサイド同士の対話
さらに、eコマースの世界も広がっており、その代表格であるAmazonは、ウォルマート(Walmart)のような企業との競争にさらされながら、成長を続けているように見える。eコマースにはライブストリーミングショッピングも含まれるが、これは推進派が期待するほどには実現されていない(努力不足というわけではない)。
エージェンシーとクライアントの両者にとって(進展があったとして)、おそらく主な課題は、一方のビジネスサイドと他方のビジネスサイドを対話させることだろう。ショッパーマーケティングの予算はメディアの予算と同じではなく、エージェンシーとブランドの両方で異なる損益計算書の下にあるのが一般的だ。
同様に、ファネル下部のパフォーマンスを重視するメディアは、ファネル上部のブランドを重視する取り組みとはまったく異なる統計、KPI、測定ツールに依存している。コマースメディアがよりよい結果を出すためには、これらのギャップをほかのインサイトによって埋める必要がある。これがいつも実現するとは限らない。
フォレスター(Forrester)のバイスプレジデント兼シニアエージェンシーアナリストであるジェイ・パティサール氏は2022年9月に米DIGIDAYに対して、「クライアントレベルでは、リテールメディアとパフォーマンスメディア、またはコマースメディアの区別は明確ではない」と語っている。
マイケル・シールズ氏は最近、ブログ「ネクスト・イン・マーケティング(Next in Marketing)」の記事で、この成長分野で一部のブランドが克服しなければならないもうひとつの潜在的な課題があると指摘している。同氏は、RMNを提供する小売業者の棚スペースをまだ持っていないブランドは、結果的により高い価格を支払うことになりかねないと書いている。
しかし、ポジティブな面もある。メディアエージェンシーはクライアントと共に、(自動車から旅行、エンターテイメントに至るまで)非エンデミックなカテゴリーがコマースメディアにマーケティング予算を投じるための、適切なインサイトを活用する方法を見出せる。それを利用しない手はない。クローガー(Kroger)のウェブサイトで洗剤を買った人が、新車販売に興味がないとは限らないのだ。
[原文:How much will commerce media grow for media agencies in 2023?]
Michael Bürgi(翻訳:藤原聡美/ガリレオ、編集:島田涼平)