沖縄では年が明けると桜のつぼみがふくらみはじめる。そして1月末からは各地で桜祭りが開催されるのだ。早いだろう。
その桜祭りだが、これは他県で言うところの「花見」とはずいぶん様相が違っている。団子ではなく、ヤギ汁なのだ。
※2007年1月に掲載された記事を、AIにより画像を拡大して加筆修正のうえ再掲載しました。
桜祭り、開催中です
ここ本島北部、本部町の八重岳では1月20日から桜祭りが開催されている。僕が行ったのは開幕から1週間ほど経ってからだったのだが、花はまだ五分咲き程度といったところだった。2月中旬まできれいな桜を見ることができる。
沖縄の桜はカンヒザクラという種類で、他県でよく見られるソメイヨシノに比べてピンクが濃く、一見桃の花のようにも見える。木自体も小柄なものが多い。
この日は休日ということもあって、朝からたくさんの花見客が訪れていた。
しかし沖縄の花見が他県と違うのは、ゴザを敷いて酒を飲んだりしないところだ。沖縄では桜は道沿いに咲いているので、そこを歩くか車で通り過ぎるかしながら鑑賞する。実にクール。ゴザを敷かないのは単に敷く場所がないからだと思う。他県のように花見に適した河原とかが無い。なので当然場所取りもない。
花見のメインは屋台だ
そして食事はもっぱら屋台で食べる。しかし屋台といっても専門の所謂「テキヤ」と呼ばれる人たちよりも、むしろ地元の飲食店やら商店の人たちが出張で出店しているケースが多いようだ。
出店が地元ならば当然売られているものも沖縄色に染まる。タコライス、ソーキそば、おでん、てびち(豚足)、沖縄の定食屋の定番メニューが一堂に会す。
そんな中、どこの屋台でもたいてい一番力を入れているメニューがある。それがヤギ汁だ。ヤギ汁は祝い事には欠かせない。もちろん花見だって春が来た証拠なんだし、めでたい。だからヤギなのだ。
焼イカを売っていようがトウモロコシを売っていようが、そんなの客引きに過ぎない。本丸はどの店もヤギなのだ。宣伝の力の入れ具合を見ているとそんな気がしてくる。
ヤギ汁の看板を掲げる屋台のひとつに入ってみた。表の店先では若い女性がタイヤキなどを焼いているが、奥ではおじさんが一人でヤギを仕込んでいる。
食べるよ、ヤギ
ヤギ汁を注文してみた。ご飯が付いて1000円。沖縄の屋台めしの中では頭ひとつ高い値付けだが、町で食べると2000円以上するのでこれでも安い方といえる。ヤギは高いのだ。
よく煮込まれた汁はヤギエキスでとろとろになっている。その中でヤギの身が箸でつまむと崩れるくらいに軟らかくなっていた。
ヤギ汁はヤギの肉から内臓から、文字通りすべてをひたすらぐつぐつ煮込んで作る。一般的に加えるのは水と臭い消しのヨモギくらいで、特に味付けはしない。だからそのままではヤギの味しかしないのだ。食べるときに好みの量で塩や生姜や泡盛を加えて味を調える。
とりあえず調味料を加えず、そのままで食べてみた。
「……。」
ヤギは独特の獣臭がすることで有名だが、こいつもやっぱりすごかった。口から入ったヤギが食道を駆け抜け、たどり着いた胃の中で息を吹き返して大暴れしているみたいだ。油断すると角でも生えてきそうな気がする。
一度はまるとやめられないらしいです
ヤギ汁を仕込んでいたおじさんは言っていた。「好きな人は全部飲み干すけど、嫌いな人は一口も食べないね」と。そりゃそうだ。たぶん僕は後者寄りに位置していると思うんだけど、今回はむりやり肉部分だけは食べた。申し訳なかったがスープは、あのヤギの溶けたスープだけは、飲み干すことができなかった。
帰りの車は桜の香りではなくヤギの臭いがしていました。