こちらは、小売業界の最前線を伝えるメディア「モダンリテール[日本版]」の記事です
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ショッピングモールは、レディM(Lady M)のような高級ケーキ店のために重要な役割を果たしているが、フードコートはその役割を果たしていない。
レディMのCEOを務めるケン・ロマニスゼン氏は次のように述べている。「当社は意図的にフードコートを避けている。もちろん、パンダエクスプレス(Panda Express)やサブウェイ(Subway)がそこに存在するのは重要だが、当社は人々に座ってくつろぐカフェのスタイルで別の経験をしてもらいたいと考えている」。
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これは、レディMの小売戦略の需要な側面になった。同社は全世界に50の店舗を保有しており、同社の60〜100ドル(約8340円〜約1万3900円)のケーキはニューヨークのマディソンアベニューや、シアトルのベルビューモール(Bellevue mall)、ヒューストンガレリア(Houston Galleria)などのラグジュアリーショッピングプラザで販売されている。同社が「フードコートに出店しない」という規則を破った珍しい例は、プラザホテル(Plaza Hotel)のフードホールの店舗だ(すでに閉店)。
フードコートの役割が変化
ロマニスゼン氏の説明によれば、「ルイヴィトン(Louis Vuitton)とエルメス(Hermès)のあいだにあるケーキ店(レディMの好む用語では『ケーキブティック』)であることがレディMの理想だ。
これは同社だけの戦略ではない。新しいモールにある食の複合施設はますます再検討が進められ、平凡なアンティアンズ(Auntie Anne’s)やパンダエクスプレスの集まるフードコートの時代は終わりつつある。
今日のモール所有者は、食品のことを単なる生活上の必需品ではなく、人々を呼び込む方法と見ている。これらの人々は、自分たちがもたらす新しい飲食の選択肢が、時間を潰すためのフードコートではなく、それ自体がトレンディな行き先であることを強く主張している。このためモールは、人々を引き寄せるためにインフルエンサーの所有するレストランや、セレブリティのシェフ、高級なフードホールを急速に集めている。一方で、アンティアンズやマンチューウォク(Manchu Wok)のような伝統的なモールの店舗は、フードコートの店舗数が減少するなかで、オンライン売上チャネルを拡大することを余儀なくされている。
このような事情から、モールのフードコートは終わりが近づいているかもしれない。しかし、どのモールが生き延びるかを決定するうえで、食は依然として重要な役割を果たしている。
空間やテナントの見直し
最近の例のひとつは、モールのアップグレードされた食品戦略をうかがわせるものだ。ニュージャージーの新しいメガモールであるアメリカンドリーム(American Dream)は最近、有名YouTuberであるミスタービースト(MrBeast)と提携し、同氏のハンバーガーのゴーストキッチンのベンチャー企業による最初の実店舗をオープンさせた。アイデアは単純で、有名人を使ってモールにティーンを引き寄せ、ミスタービーストのバーガーを食べてから、さらにモールで時間をつぶしてもらうというものだ。アメリカンドリームにとって、この試みは成功だった。ミスタービーストがモールを訪問し、自分のレストランを紹介した週末には、同モールは過去最高の訪問客を記録した。
すべてのモールが、レストランの戦略をYouTubeの主導にゆだねているわけではない。しかし、業界全体として、セレブリティのシェフ、インフルエンサー主導のレストラン、そのほか人気の飲食コンセプトを引き入れることは、非常に重要視されている。人気フードホールのイータリー(Eataly)はニューヨークで営業を開始し、今年前半にカリフォルニアのサンタクララにあるウェストフィールド(Westfield)のモールに店舗を開設した。コネティカットでは近年、Apple、ユニクロ(Uniqlo)、サックスオフフィフス(Saks Off Fifth)などの有名ブランドが去ったモールが、空きテナントを埋め、ふたたび人々を呼び込むために、シェフのトッド・イングリッシュ氏による8万平方フィート(約7430平方メートル)のフードホールに賭けている。
これは、モールのデベロッパーと食品ブランドの両方に見られる現象だ。デザイン会社ヒュージ(Huge)のエクスペリエンスイノベーション担当クリエイティブディレクターを務めるサム・ウィーラー氏によれば、最先端の小売プロジェクトでは、空間的な方向性やテナントミックスを全体的に見直しているとのことだ。同氏は次のように述べている。「物理的な交流や社交スペースがどれだけ重要かが認識されるようになった。位置づけの変化から、フードコートの見せ方の転換が必要になってきた。それは、『パンダエクスプレスをプレタマンジェ(Pret a Manger)に置き換える』というような単純なものではなく、『見てみる価値があるものにする』というものだ」。ウィーラー氏の推定では、デベロッパーは自社のスペースを第3の空間にしようと再検討している。
オンライン売上を重視しはじめるブランドも
これは、ショッピングモールと深く関わっているブランドにとって大きな変化を意味する。フォーカスブランズ(Focus Brands)はアンティアンズ、カーベル(Carvel)、シナボン(Cinnabon)、ジャンバ(Jamba)、モーズサウスウェストグリル(Moe’s Southwest Grill)などのモールの定番ブランドを保有しているが、現在は対面でのモールの売上より、デジタル収益を重視している。同社は、自社のデジタル売上額、すなわち店内飲食とデリバリーの両方を含むオンライン注文額は、レストランの合計売上額の28%を占めていると述べ、さらに同社は2027年までには総額の50%をオンラインチャネルにすることを望んでいる。同社は最近、デジタル注文用の操作しやすいウェブサイト、レストラン用のアプリ、オンラインのロイヤルティプログラムなど、より優れたeコマースエクスペリエンスを作り上げることが、自社の主要な事業目標のひとつであると語った。
それ以外に、モール以外の店舗や小売のデザインも模索してきた。同社は2021年、各種の小売店舗を、より便利な方法で使用できるよう、自社のドライブスルーサービスを増大する計画を公表した。「アンティアンズはモールや空港の代名詞になったが、かなり前から、こうした伝統的な場所以外で成長する機会を探していた」と、同社の専門店カテゴリー担当プレジデントを務めるクリステン・ハートマン氏は、当時レストランビジネス(Restaurant Business)に語った。
MTYグループ(MTY Group)は、マンチューウォク、バジャフレッシュ(Baja Fresh)、ピンクベリー(Pinkberry)などのブランドを保有しているが、フードコートの店舗が次々と閉店するなかで、同様な転換を検討してきた。同社は2019年には7373店舗のネットワークを誇っており、その17%はモールまたはオフィスのフードコートだった。2021年には店舗数が6719に減少し、モールまたはオフィスのフードコートの割合は14%になった。
CEOを務めるエリック・ルフェーブル氏は、最新の決算発表で次のように語った。「最上位のAクラスのモールは、少し早く復活していた。不良なモール、いわゆるCクラスのモールは、より長く苦闘することになるだろう。しかし、AクラスおよびBクラスのモールは、訪問客が増えてきたことで復活しつつある」。
このため、フードホールからスムージースタンドまで、多くのレストランのコンセプトが、モールに出店することを望むなら、競ってAクラスのモールに出店する。しかし問題なのは、これらのAクラスのモールが、いつまでフードコートの古い体裁を回避できるかということだ。
「シェフ主導型」広まる
ベルビューコレクション(Bellevue Collection)のマーケティング担当バイスプレジデントを務めるジェニファー・リービット氏は、「当社のレストランが復活してきたこと」は間違いないとしている。ベルビューはシアトル地域に3つの高級小売店と複合施設を保有している。
ベルビューは数十年にわたり、使い古されたモール食品のコンセプトを避けてきた。「当社はあえてフードコートを保有してこなかった。これは今後も変わらない。当社の戦略は、食を広めることだった」と、リービット氏は述べている。すなわち、同社はひとつの場所に小さな店舗を集中させるのではなく、複合施設全体に目的地となるレストランを戦略的に配置している。ただし、オフィスで働く従業員を対象とした複合ビル用のフードホール (現在改装中)はある。同氏は、同社が取り組もうとしているレストランを「シェフ主導型」と形容している。これには、アセンド(Ascend)やフォゴ・デ・チャオ(Fogo de Chão)のようなステーキハウスや、ノードストロームカフェ(Nordstrom Café)があるが、スターバックス(Starbucks)やパンダエクスプレスなどの、より大衆向けの選択肢も含まれている。
リービット氏は、このトレンドが広まりはじめたことに気づいたと語る。「ほかのモールでは、良いフードホールを出しているところもあった。また、フードコートとフードホールのハイブリッドで、高級な食品が提供されている場所がいくつかあった」と、同氏は述べている。実のところ、重要なのは「ファーストフードではなく、食事をする場所として認識されること」だ。
そして、テナントミックスも言うまでもなく重要だ。ベルビューは、同社の大きな進化のひとつは、有名な大規模チェーンではなく、地元で人気のスポットを重視することだったと語る。そして、それは、独立したレストランとフードホールの両方に拡大してきた。「当社は、ミックスの構成を非常に意図的に行っている」と同氏は述べる。さらに、「これは単に、スペースを埋めるものではない。当社にとってフードホールは、はるかに重要な社交サービス、顧客の第3の行き先となるものだ」と語っている。
飲食が小売を支える存在に
レディMのロマニスゼン氏も、同様な進化を目にしている。モールは全般的に、買い物客を引き入れるための新しい方法を探していると、同氏は語る。「もう顧客は、単に買い物をするだけではない」と同氏は述べる。その代わりに、目端の利くデベロッパーは、評判を呼び、滞在時間を延ばすようなテナントを探している。「人々は社交的で、これ以上自宅で過ごしたいと思っていない」と、同氏は語る。
そして、そこからいくつかの現象が引き起こされた。まず、モールは大勢の人々を引き寄せられるようなオーダーメイドの食品の選択肢を探している。そして、それは、モールの食品と、それに対応する小売店舗との関係を変えつつある。
リービット氏は次のように述べている。「以前は、小売が飲食のカテゴリーを支えるのが普通だった。当社の市場では今、飲食が小売カテゴリーを復活させるのに役立っていることがわかった」。
[原文:Food courts are dying, but mall food is thriving]
CALE GUTHRIE WEISSMAN(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:戸田美子)
Image via Todd English