新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の人体組織における組織向性・複製能力・持続性などを調査した論文が、2022年12月14日に科学ジャーナルのNatureに掲載されました。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は主に呼吸器系において障害を引き起こすことが明らかになっていますが、呼吸器系以外の組織でもSARS-CoV-2が増殖していることが明らかになっています。
SARS-CoV-2 infection and persistence in the human body and brain at autopsy | Nature
https://www.nature.com/articles/s41586-022-05542-y
Study shows SARS-CoV-2 infection, replication and persistence in human brain tissues
https://www.news-medical.net/news/20221216/Study-shows-SARS-CoV-2-infection-replication-and-persistence-in-human-brain-tissues.aspx
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、急性期に複数の臓器障害を引き起こすと報告されており、一部の感染者は「PASC」と呼ばれる長期にわたる後遺症に悩まされています。これに関する研究は複数存在しますが、非呼吸器系疾患に対する影響や、脳などの非呼吸器系組織にSARS-CoV-2がどの程度の期間残るのかについては詳細な調査が存在しませんでした。
今回Natureで発表された論文では、COVID-19の急性期から症状が発症してから7カ月が経過するまでの期間、脳などの非呼吸器系組織でSARS-CoV-2がどのように分布・増殖・細胞向性するかを定量化しています。
研究チームは2020年4月26日から2021年3月2日までの期間、44人分の新型コロナウイルスワクチン未接種者かつCOVID-19に感染して死亡した患者の剖検脳標本と、11人分の中枢神経系サンプリングを分析。研究チームがPCR検査を実施したところ、分析対象となったサンプルのうち38個が陽性となったそうです。
研究ではSARS-CoV-2のNタンパク質の遺伝子を定量化するために、ddPCR検査を実施。この他、SARS-CoV-2の細胞向性を調べるためにISH分析、脳組織内のウイルスの存在を検証するために免疫蛍光染色(IF)およびIHC(免疫組織化学)分析も実施しています。
加えて、リアルタイム定量的逆転写PCR分析を行うことで、リボ核酸(RNA)を検出。VeroE6細胞を使用してウイルス分離実験を実施し、呼吸器の組織間で増殖可能なSARS-CoV-2の存在を実証しています。さらに、SARS-CoV-2のスパイクタンパク質が持つ変異体の多様性および分布を、6人の個人のサンプルをHT-SGS(ハイスループット-単一ゲノム増幅および配列決定)分析することで測定したそうです。
剖検検体は、死亡時のCOVID-19感染日数をベースに「14日以内」「15日以上30日未満」「31日以上」という3つのグループに分類。さらに被験者のうち16人分の心室間中隔組織の画像解析を行い、ddPCR検査で検出されたSARS-CoV-2のNタンパク質RNAと、ISH分析で検出されたSARS-CoV-2のスパイクタンパク質RNAの関連性を評価しています。
調査対象者の30%が女性で、被験者の年齢の中央値は63歳、うち61%が少なくとも3つの併存疾病に苦しんでいたそうです。調査対象者の発症から入院までの期間の中央値は「6日」、発症から死亡までの期間の中央値は「19日」でした。
SARS-CoV-2のRNAは、84カ所の解剖学的部位に存在しているものの、他の組織よりも呼吸器組織に有意に多く存在していたことが確認されています。SARS-CoV-2のRNAは、初期の症例、中期の症例、後期の症例のすべてで確認されていますが、剖検血清からSARS-CoV-2のRNAを検出できたのは、初期の症例で11例、中期の症例で1例のみです。
後期症例の剖検血清からはSARS-CoV-2のRNAを検出することができなかったにもかかわらず、後期症例における体内組織には持続的にSARS-CoV-2のRNAが存在していることが確認されています。6件の後期症例中、5件で脳組織内でSARS-CoV-2のRNAが確認されています。なお、SARS-CoV-2のRNAは体内の組織および血清、硝子体液、胸水を含む体液から検出されているそうです。他にも、初期症例のリンパ節・心臓・副腎・胃腸・眼組織の標本の45%からSARS-CoV-2が検出されています。
組織病理学的分析の結果、症例の92%がびまん性肺胞損傷あるいは急性肺炎により死亡したことを示しています。また、心筋浸潤、傍皮質および濾胞の過形成も観察されました。ただし、SARS-CoV-2のRNAが体内の広範囲に分布しているにもかかわらず、これらが直接的に引き起こす細胞病理学的な影響や炎症については、非呼吸器系組織ではごくわずかしか観測されていません。
研究チームは、SARS-CoV-2は感染初期に脳などの非呼吸器系組織に広がり、複製を繰り返し、症状発症から数カ月(最大230日程度)間も体内に残存し続ける可能性があるとしています。
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