ファーフェッチの Web3 スタートアップ企業を支援するベースキャンプの内幕

DIGIDAY

ラグジュアリー小売業者ファーフェッチ(Farfetch)とベンチャーキャピタルのアウトライアー・ベンチャーズ(Outlier Ventures)が支援するドリームアッセンブリー・ベースキャンプ(Dream Assembly Base Camp)は、ラグジュアリーファッションにおける最大のWeb3アクセラレーターのひとつだ。現在、プログラムの第三段階がスタートし、デジタルファッションとメタバースに関する新しいビジネスチャンスについて、ブランドに向けて新たなインサイトを提供している。

牽引力のあるWeb3スタートアップを支援

ドリームアッセンブリー・ベースキャンプは、アウトライアー・ベンチャーズとの共同パートナーシップによって6月にローンチした。かつてファーフェッチは2020年までドリームアッセンブリーという独自のアクセラレーターを運営していた。今回の新しいプログラムでは8社のスタートアップを迎え、ニーズに合わせたメンタリングや幅広いメンターやアドバイザーへのアクセスを提供し、そして会社のビジョンを洗練させるためにそれぞれに15万ドル(約2054万円)ずつを授与している。選ばれたスタートアップ企業はすでにWeb3のリーダーとして牽引力があったが、さらなる指導や投資を必要としていた。

過去にドリームアッセンブリーを卒業したスタートアップには、ブロックチェーンに依存するデジタルID企業で現在クロエ(Chloé)やマルベリー(Mulberry)と提携しているイオン(Eon)が含まれる。アウトライアー・ベンチャーズは、今回のパートナーシップの前に独自のアクセラレーターを運営しており、過去にはデジタルファッション・ハウスのオウロボロス(Auroboros)やメタバース・プラットフォームのボソンプロトコル(Boson Protocol)に投資を行っている。オンラインファッション小売のファーフェッチにとって、このブートキャンプはしばしば将来の技術パートナーを養成する場となっている。ファーフェッチは、ブランド・サステナビリティの評価プラットフォームであるグッド・オン・ユー(Good on You)や、セルフリッジズ(Selfridges)で現実世界の顧客にもサービスを提供している修理サービス、ザ・レストリー(The Restory)など、過去のコホートメンバーのサービスに積極的に協力している。

ファーフェッチでプロダクト・イノベーションのシニアディレクターを務めるキャロル・ヒルサム氏は「プログラム期間中、これらの企業とともに次の成長ステージに到達するための準備を進めてきた」と話す。「私たちとしては、それらの企業が業界やラグジュアリーの中でどのように進化しているのか、そして、それがどのように企業の包括的なスケール戦略に反映されているのかを探っている」。

プログラムの第一段階はフィードバック期間となるメンタリング

12週間の完全リモートプログラムの2回目のイテレーションは9月26日にスタートし、前回アウトライアー・ベンチャーズのみで運営したブートキャンプでプログラムマネージャーだったブレイク・レゼンスキー氏が指導した。「コミュニティの構築やマーケティングから——ビジネスモデルに適用する場合は——トークンの設計、流通、『トークノミクス』、トークン・アーキテクチャ、トークンのNFT取引所への上場の可能性にいたるまで、Web3スタートアップを形成するあらゆる面でチームを支援する」とレゼンスキー氏は語る。「そのほか、NFT戦略やNFTとWeb3の管轄に関する法的知識の共有も含まれる」。

ファーフェッチのドリームアッセンブリープログラムは、毎シーズン最大30社のスタートアップをサポートしているLVMHの「ラ・メゾン・デ・スタートアップ(La Maison de Startups)」を反映している。ラ・メゾン・デ・スタートアップは、LVMHグループの多岐にわたる業界における75のメゾンと協働してブランドを革新する。上位6社のスタートアップは、パリで開催されるカンファレンス、ビバテック(VivaTech)の期間中にLVMHのブースで紹介され、最終優勝者にはLVMHイノベーションアワードが贈られる。2021年のイノベーションアワードはライブストリーミングサービスのバンブーザー(Bambuser)で、同社はパルファン・クリスチャン・ディオール(Parfums Christian Dior)やメイクアップフォーエバー(Make Up Forever)などのブランドにライブストリーミングのソリューションを提供している。

ドリームアッセンブリーのプログラムは、メンタリング、ナレッジ・ビルディング、エグゼキューションの3つのパートで構成されている。3週間かけて行われる第一段階はフィードバック期間で、チームはアウトライアー・ベンチャーズの専門家や外部のメンターと会い、フィードバックを活用してプログラムの目標を設定する。数カ月かけて集められたメンターネットワークには、ファッションWeb3企業の創業者が参加しており、今回はデジタルファッション企業ドレスX(DressX)のダリア・シャポヴァロヴァ氏とナタリア・モデノヴァ氏、デザイン&クリエイティブテクノロジー・ディレクターのリチャード・サリバン氏をはじめとするファーフェッチのエグゼクティブ、その他ファッション業界のエキスパート、UX/UIデザイナー、そしてもっとも重要である投資家などが名を連ねている。

「これらのミーティングでは、気軽な会話でそのスタートアップをよりよく知ることができる」とレゼンスキー氏は言う。「スタートアップが投資家と関係を築き、評判を高めたいなら、投資家に直接アドバイスを求め、その視点から学ぶという、取引ではない形から始める必要がある」。

コンフォートゾーンから抜け出すために

仮想世界ディセントラランド(Decentraland)のメタバースファッションウィーク(Metaverse Fashion Week)のプロデューサーで責任者のジョヴァンナ・カシミーロ氏は、今期のメンターのひとりだ。「ファッション企業では、既成概念にとらわれない発想が珍しいものになりつつあるので、創業者たちがコンフォートゾーンから抜け出せるように、科学や他の分野のさまざまなリファレンスや事例を持ち込んだ」とカシミーロ氏。「メタバースファッションウィーク2023にフィットするようなものなど、今後のコラボレーションの道筋のアイデアも提案している」。

この新しいコホートには、デジタルファッションプラットフォームのオルター(Altr)の共同創業者でCEOのジェシー・フー氏がいる。オルターが目指しているのは、ファッションブランドや文化遺産のアーカイブの潜在的価値をデジタル化によって解き放つこと。ブランドや美術館がメタバースの中でZ世代や未来の世代のためにコレクションをデジタル化し、同時にアーカイブの物理的保存に貢献するためにオルターを活用してくれることを、フー氏は期待している。「アウトライアー・ベンチャーズの計画されたプログラムコンテンツは、トークンゲーテッドの製品や体験戦略の決定などを含む、社内のWeb3戦略の確立に役立った」と、フー氏は述べた。「ジョヴァンナ(カシミーロ氏)は、私たちの文化遺産への注力を理解していた。メタバースは未来的なスタイルだけでなく、過去の価値を解き放つためのものでもあるということに、私たちも同意見だ」。

Web3ファッションのスタートアップにおける共通の課題

クリエイター向けに高度にパーソナライズされたアバターを提供する会社を構築しているスタートアップ、リブリウム(Reblium)もこのコホートに入っている。創業者は、アバターデザインのベテランであるマオ・リン・リャオ氏と、サステナブルファッションブランドのマリーン・セッレ(Marine Serre)のデジタル責任者アダム・タチ氏だ。リブリウムのウェブサイトのツールでは、顔のスキャンを利用してパーソナライズされたアバターを作成し、人種、肌の色、ジェンダーニュートラリティやファンタジーの要素まで反映させることが可能だ。「エスニシティをリアルに表現するアバター(を促進すること)は、私たちをもうひとつのギミックから切り離す」と、リャオ氏は言う。

リブリウムは現在、数多くの非公開のブランド、インフルエンサー、セレブリティのために、PoC(概念実証)のアバターに取り組んでいる。「リル・ミケーラ氏やLVMHのアバターのようなリアルなアバターは、いまはアクセシブルではない」とタチ氏は言う。「あのようなことをしようと思ったら、エージェンシーや技術チームが必要だ。私たちは、ポーズを変えられるリアルなアバターをすべてのクリエイターが手に入れ、さまざまなプラットフォームや環境で使えるようにすることで、その技術を民主化している」。

レゼンスキー氏によると、Web3ファッションのスタートアップには共通の課題がふたつある。製品が合理化されること、そしてユーザーエクスペリエンスにおいて直感的であるようにすることだ。「非常に牽引力があるすばらしいプロジェクトを数多く目にしているが、ブランドクライアントがそれらをさまざまな方向に引っ張ってしまい、製品全体の(ユースケースを)曖昧にしてしまう」とレゼンスキー氏は指摘した。「そのため、製品の拡張性が制限されてしまう。Web3全体としては、まだUXの限界や不格好な側面があるので、本当にそうしたことを受け入れている余裕はない」。

第2段階のワークショップを経て、第3段階で実行計画を策定

プログラムの第2段階は、Web3とラグジュアリーの知識構築についてであり、ファーフェッチやアウトライアー・ベンチャーズのWeb3およびラグジュアリーの専門家によるワークショップが行われる。「ここからが本番だ」とレゼンスキー氏はいう。「このワークショップは、スタートアップがどこに支援を必要としているか、また支援をあまり必要としないのはどこなのかを見極めるための診断ツールだ」。その診断をもとに、スタートアップは、提供された専門家との1対1のコンサルティングの予約を開始することができ、次のステージに向けてそれぞれに適した支援を受ける。

そして最後にプログラムの第3段階では、第1段階で策定した目標をもとにした実行計画が中心となる。「また、それらの目標が、市場の状況や初期の段階で発見したことを踏まえてもなお、適切なものであるかどうかを確認することに再び注力する」とレゼンスキー氏は言う。「計画は、各スタートアップにとって非常にカスタマイズされたものとなっている。NFTのドロップまで導くことだったり、あるいは最初の顧客を獲得してMVPを構築することもある」。

Web3におけるファッションブランドの参入は鈍化していない

2018年にローンチしたドリームアッセンブリーは、現在ファーフェッチの投資を受けている唯一のアクセラレーターだ。今年ファーフェッチは、ユークスネッタポルテ(Yoox Net-a-Porter)の経営権を獲得するためにリシュモン(Richemont)と契約を結び、またニーマン・マーカス(Neiman Marcus)やフェラガモ(Ferragamo)ともオンラインプレゼンスをコントロールする契約を結んでおり、2023年にはコスト削減を実施する。第3四半期の業績は、売上高が前年同期比1.9%増の5億9340万ドル(約798.8億円)となった。しかし、ロシアからの撤退と中国のロックダウンによって、プラットフォームを通じて販売された商品の金額は4.9%減の9億6740万ドル(約1302億円)にとどまっている。

レゼンスキー氏、ヒルサム氏、カシミーロ氏は、他の分散型金融環境が苦しんでいる一方で、Web3ファッションは十分にうまく守られていると述べている。「資金調達やローンチのスケジュールについて慎重になるなど、現時点では質素な行動を奨励することを確実にしたい」とレゼンスキー氏は述べた。「市場に決まった条件があるが、Web3におけるファッションブランドの参入や採用は、トレンドとしては鈍化していない」。

「ブランドが3年後に適切な位置を占めていたいと考えるなら、消費者行動やクリエイティブな方向性を予見し、次に来るもののためのインフラに投資する必要がある」とカシミーロ氏は述べている。

[原文:Inside Farfetch’s Dream Assembly Base Camp for web3 companies]

ZOFIA ZWIEGLINSKA(翻訳:Maya Kishida 編集:山岸祐加子)

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