暗号通貨とNFTがここ数カ月で信用を失ったにもかかわらず、いまだに密接な関連性のあるWeb3をブランドは金になる創造的機会だと捉えている。ナイキ(Nike)やイタリアのフットウェアブランドのカサデイ(Casadei)といったブランドは、より具体的な価値を顧客に提供するために独自のメタバースプラットフォームやフィジタルコレクションを構築している。
ナイキの最新のメタバースベンチャーはマーケットプレイスの.Swoosh(ドット・スウッシュ)だ。ナイキのバーチャル製品を購入することができるそのマーケットプレイスは、8月に事前登録が導入されたあと、11月15日にローンチした。このローンチは2021年12月のナイキによるRTFKT(アーティファクト)買収に続くもので、このファッションとスニーカーのNFTブランドをナイキは10億ドル(約1391億円)以上で買収したと報じられた。デューン・アナリティクス(Dune Analytics)によると、RTFKTの創業者ブノワ・パゴット氏がナイキのメタバース戦略に貢献し、これまでナイキはデジタルメタバース製品で少なくとも1億8530万ドル(約257.8億円)の収益を得ている。ナイキの2022年の売上は467億ドル(約6.5兆円)だ。
Advertisement
ナイキは今後のメタバースの方向性を変えたかもしれない
デジタルエージェンシーのテックティー(Techtee)の創業者でCEOのトビ・アジャラ氏は、ナイキのメタバースマーケットプレイスサイトの.Swooshが、さまざまなブランドの今後のメタバースの方向性を示すものになり得ると述べた。テックティーは、2021年のグッチ・ガーデン(Gucci Garden)のアクティベーションをはじめ、ジバンシィ(Givenchy)やナイキのWeb3アクティベーションを手がけている。ナイキは2019年12月にクリプトキックス(Cryptokicks)の特許を取得し、2021年11月にRoblox(ロブロックス)にナイキランド(Nikeland)をローンチした。だがデジタルウェアラブルやアバターに大きく投資を行い、Web3コミュニティを作り始めたのは、RTFKTの買収以降である。
「人々がMetaを好むと好まざるとにかかわらず、これを推し進めるためのリソース、能力、理解を持つプラットフォームはMetaしかないと我々は考えていた。だが、ナイキはそれを変えたかもしれない」とアジャラ氏は言う。
昨年、ファーフェッチ(Farfetch)、バレンシアガ(Balenciaga)、グッチなどのラグジュアリー企業は、決済システムに暗号通貨を取り入れることを優先した。しかし、潮目は変わった。「今日、メタバース空間に参入し、体験を作りたいと考えるブランドの大きな波が来ている」とアジャラ氏は述べ、Robloxのようなプラットフォーム上にブランドが急増していることを指摘した。
アジャラ氏は、あらゆる企業がFacebookページやインスタグラムのページを持っているのと同じような形で、時間とともにRobloxがブランドの標準になるだろうという。「だが、ラグジュアリーブランドの場合、経営陣は(独特な)グッチガーデン(のような形の体験)を作ることを推進しており、.Swooshの発表以降、ナイキの株価がどれほど上昇したかを目にしたことで、おそらくそれは継続するだろう」。ナイキの株価は、プラットフォームの発表を受けて11月20日には4%近く上昇した。
自社のメタバース空間の代替案としてのフィジタルコレクション
しかしながら、自社ブランドのメタバース空間は豊富なリソースのある人にしか利用できない。Meta自体は、すでに360億ドル(約5兆円)を費やして自社のメタバースの概念を構築している。多くのブランドにとってその代替案となるのが、デジタルコレクティブルな要素と物理的なアイテムの両方を含むフィジタルコレクションをローンチすることだ。それによって、ブランドは完全な所有権を得ることができ、また、慣れ親しんだマーケットで活動することも可能となる。LVMHのWeb3とメタバースの責任者ネリー・メンサー氏は最近Twitterのスペースで、多くのブランドにとってWeb3はまだテストと実験の段階であると話している。
Web3戦略において「フィジタル」に着目しているブランドのひとつにカサデイがある。9月には、同社はラグジュアリーNFT企業アナザーワン(Another-1)と提携し、ピンヒールのブレード(Blade)のフィジタルコレクションとなるプロジェクトNay0m1(Project Nay0m1)を作り出した。顧客は1000点の認証済みNFTのうち1点を購入することができ、そこには実物の限定版ブレードヒールのNay0m1が一足付属している。この靴には、NFTにリンクしたNFCタグと、ディセントラランド(Decentraland)のプラットフォームで利用可能なパーソナライズされたアバターも無料で付属していた。NFTはアナザーワンのポリゴン(Polygon)プラットフォームを通じて、各1000ドル(約13万9000円)で販売された。
「ラグジュアリーでは、クラフトや品質だけでなく、独占性やカスタマイズ性によっても製品が定義されてきた」と語ったのは、カサデイのマーケティングおよびコミュニケーションの責任者アリアナ・カサデイ氏だ。「私たちはブランドとそのコミュニティとの関係を再現するために、NFTのプロジェクトにも同様の方法でアプローチした」。今回のローンチの一環として、カサデイはディセントラランドの巨大なデジタルモデルをフィーチャーした没入型のブランド体験を導入している。
デジタルとフィジカルの境界線が曖昧になってきている
カサデイが使用したNFCタグのような、物理的にバックアップされたトークンもさらに普及しつつあり、ファッションブランドの9dccとアズキ(Azuki)もWeb3と物理的な製品の間のギャップを埋めるためにトークンを使用している。アズキは11月に、ニューガーズグループ(New Guards Group)が支援する東京のラグジュアリーブランド、アンブッシュ(Ambush)と初のフィジタルコラボレーションをローンチした。物理的にバックアップされたトークン付きのパーカーやペンダントのコレクションでは、顧客が限定デジタルグッズにアクセスすることも可能となっている。このコレクションは当初、ラリブル(Rarible)のプラットフォームにて、2.7イーサリアム(3255ドル、約45万円相当)でプライマリーマーケットで販売された。
ザガボンドあるいは「Z」のハンドルネームで知られるアズキの創業者は、デジタルとフィジカルの境界線が曖昧になってきていると話す。そして、ブランドは完全なバーチャル体験を作り出すことはできないが、メタバースの概念に参加し、引き続きフィジタルコレクションで品揃えに新たな次元を追加している。
「物理的にバックアップされたトークンのようなテクノロジーは、ブランドがストーリーを伝える方法に新たな次元を導入する。我々は、デジタル体験を生み出すために物理的な商品を利用することを許している」とザガボンド氏は述べた。
アンブッシュの創業者ユン・アン氏は、Web3の発展がデジタル領域におけるファッションの新たなステージを作り出したと言う。「ファッションに根ざし、Web3以外の分野でも専門性を持っているということは、Web3の空間に(独自の)知識を持ち込むことができるということだ」とアン氏は述べた。「物理的な製品とWeb3の間をつなぐこのかけ橋がいったん確立され、そして私たちがこのテクノロジーを活用する方法についてもっと学べば、単に売買する資産以上となる新しい扉を開くことが可能になるだろう。それは映画の『マトリックス』における赤い錠剤を飲むようなものだ」。
[原文:Post-FTX, fashion brands are launching phygital collections and their own metaverse platforms]
ZOFIA ZWIEGLINSKA(翻訳:Maya Kishida 編集:山岸祐加子)