羊は群れを作る性質を持ち、個よりも集団で移動することがよくあります。これまで羊の群れは基本的に先導する羊に従いながら動いているだけだと考えられていましたが、実は群れを先導するリーダー役が群れの中で頻繁に交代され、同時に個々の羊が持つ知識が群れ全体で共有されることで集合知を得ているという研究結果が発表されました。
Intermittent collective motion in sheep results from alternating the role of leader and follower | Nature Physics
https://doi.org/10.1038/s41567-022-01769-8
Physics study shows that sheep flocks alternate their leader and achieve collective intelligence
https://phys.org/news/2022-11-physics-sheep-flocks-alternate-leader.html
研究成果を発表したのは、フンボルト大学で生物学的システムのモデル化を研究するLuis Gómez-Nava氏、トゥルーズ大学で動物行動学を研究するRichard Bon氏、コートダジュール大学で社会生物学を研究するFernando Peruani氏です。
動物が群れ全体で動く集団行動は決して継続的なものではありません。例えば、休息や餌をとるために群れ全体が足を止めて集団行動を中断することもあります。しかし、動物の集団行動を取り扱ったこれまでの研究では「最初から最後まで継続して移動し続ける集団行動」を想定して研究が行われており、「群れの集団行動は、個々が進行方向について常に話し合いながら進んでいる」と考えられていたとPeruani氏は指摘しています。
「集団行動には何らかの始まりと終わりがある断続的なものだ」と考えたPeruani氏らは羊の小さな群れの集団行動を、時間の間隔を変えながら詳細に観察し、群れ全体の動きだけではなく個々の羊の群れの動きを分析しながら、移動速度との相関を評価しました。その結果、観測した群れの動きが、既存の群れの動きを示すモデルや拡張モデルと一致しなかったことがわかったそうです。
さらに、群れの中で情報がどのように伝わるのかを分析したところ、群れの行動を表わすコミュニケーションネットワークが高度に階層的であることがわかったとのこと。つまり、羊の中で漠然と情報がやり取りされているのではなく、情報を得た1匹が同じコミュニティに属する複数の羊に情報を伝えるネットワークが形成されていたというわけです。
さらに、このネットワークを通じて伝達される情報は、グループ内での羊の位置に関連するものだけだということも明らかになったとのこと。また、実験の結果から、Peruani氏らは「特定の時間だけ群れを率いるリーダーの存在」がいると論じています。
Peruani氏は「重要なのは、群れで行われる集団行動の各段階で、一時的にリーダーを務める羊が存在するということです」と述べています。羊は階層的なコミュニケーションネットワークを用いて一緒に行動し、集団行動の全権をリーダーに委ねますが、このリーダーは一時的な役職で入れ替わりが激しく、すぐに別の羊がリーダーを務めることになるそうです。
例えば、群れで向かうべき道筋やエサの場所などといった知識を1匹の羊が持っている場合、その羊がリーダーを務めると群れ全体は効率的に移動することができます。しかし、その羊は最初から最後まで一貫してリーダーを務めるのではなく、あくまでも集団行動の中で一時的に群れを率いるだけ。このように個々の羊がリーダーになったりフォロワーになったりを繰り返すことで、個々の羊が持っている知識が群れ全体で共有され、集合知を獲得するとのこと。
研究チームは、今回の研究結果は自然に存在する動物の集団戦略が、階層的および民主的な方法で運営されている可能性を示唆していると主張しています。
Peruani氏らは、一時的なリーダーの情報がどのようにコミュニティ内で共有され、群れがどのように情報を分配して処理するのかを調べるため、子羊や若い羊、大人の羊の集団で行動を比較しているとのこと。また、迷路や広い場所などを舞台に群れ内で利害対立を引き起こす可能性も想定し、群れ全体がどのように行動するかを詳しく調査しているそうです。
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