書き出し小説大賞 249回秀作発表

デイリーポータルZ

書き出し小説とは、書き出しだけで成立したきわめてミニマムな小説スタイルである。

書き出し小説大賞では、この新しい文学を広く世に普及させるべく、諸君からの作品を随時募集し、その秀作を紹介してゆく。(ロゴデザイン・外山真理子)

先週の日曜、書き出し作家xissaさんが出店する文学フリマに行って参りました!コロナ禍でなかなか会えなかったほかの作家さんたちとも会えてとても幸せな時間でした。
ただ、そのせいで先週も書き出しを更新したような気になっていて、大幅に締め切りを過ぎたいま、すごい勢いでキーボードを叩いています!(汗)それでは今週もめくるめく書き出しの世界へご案内しましょう!

書き出し自由部門

電車は夜を走る切り取り線。

あの

音も明かりも切り取り線。

サイズの違うスリッパが並ぶと家族みたいで可愛い。

ぐるりん

焼き芋を半分に割る。その両方とも貰った。

ろっさん

やさしい(笑)

母さんの回想はいつも雨から始まる。

早百合

事件の手触りがする。

一色凛夏

誰も見ちゃいない。そう唱えつつ茶碗蒸しに使ったスプーンをデザートに刺した。

荒星

マントルからすこし離れたところで、猫のように丸くなって眠ってしまいたい。

桃とペンギン

君が置いていった傘。ブラジルは晴れていますか。

辞書は厚く女は薄く

この距離感が物語を生む。

これは正式な性欲ではない。

正夢の3人目

正式な性欲は自分の中の市役所で正式な手続きを踏まなくてはならない。

語尾に「ね」を付けて2人の夢にした。

みよおぶ

一礼して花は枯れた。

みよおぶ

警察はもっと探偵を疑うべきだった。

みよおぶ

ネタバレはじまりだけどすごく興味をそそる書き出し。みよおぶ氏三作頂きました!

口を噤んだその横顔がとてもきれいで、僕は醤油で龍を描いた。

寂寥

途方に暮らそう。悪ふざけみたいに糸引くモッツァレラチーズみたいに。

モンゴノグノム

完璧な満月より、満月のように明るい半月に心惹かれた。

もんぜん

先生までもが、黒板をニャーと呼んだ。

七寒六温

無職になった日に訪れたそこは、寝ている動物ばかりだった。

タカタカコッタ

森の中の陽だまりで。

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つづいては規定部門。今回のテーマは『偶然』でした。偶然を装い集まった秀作たちをご覧下さい!

規定部門・モチーフ『偶然』

本音と建前が一致した。

いそうろう

なんというマリアージュ!

にんじんが隣の畑のじゃがいもと再開したのはカレー鍋の中だった。

うにねこ

四コマ目が、連続したような日。

ら将軍ハルナ

キレのいい表現!

偶然私を抱きしめて。

はらけん

あれ?このサンタさん、節分のときの鬼だ。

南極行太郎

ごめんね、鬼。

てを、あげたら、きれいに、せんせいの、あごに、あたって、せんせいが、くるしみました。

青一月

くるしみがくるみみたいでかわいい。

ガラスの靴は、私の外反母趾にぴったりだった。

suzukishika

彼女が投げたリンゴは僕に届く前に芝生に落ちた。万有引力と恋の発見だった。

井沢

由里子と和幸が出会い、生まれたのが俺。

七寒六温

親を呼び捨てにすると面白いにはなぜ?(笑)

前日に終身保険入ってたんです!

タルク朝

ちょうど左利き同士が隣に座り、平和なランチ会となった。

一色凛夏

また、この中に犯人がいます。

たこフェリー

何度め?!(笑)

パンをくわえて走った2人がぶつかり、小倉トーストサンドが生まれた。

ウチボリ

ゴジラがマンションを倒すと、無くしたはずのアルバムが見つかった。

ウチボリ

偶然今日から来ることになった新入社員の村田です。よろしくお願いします。

あの

そのアメンボはにわか雨の粒を全て避けながら滑っていった。

「あなたもでしたか」老紳士は、銃口を私に向けた。

はらけん

僕が生まれた日は町にカエルが降り、君が生まれた日は千年前の種からハスが咲いたのに、僕と君は結局出会えないままでした。

葱山紫蘇子

両隣のベランダからも同時に網戸が外れる音がした。

哲ロマ

網戸の新作が届いたので晒しておきます。

電信柱に貼られてた迷い猫のポスターの下で迷い猫は無邪気に丸くなっている。

吉田髑髏

今日もあの交差点で歩き出すタイミングを探っている、全ては彼と「偶然」出会うために。

本野ムシカ

四股をかけていた女が、俺の寝室に勢揃いしている。

ろっさん

白虎・青龍・朱雀・玄武的な。

山で発見された新種のキノコは、村に繁栄と滅亡と少しばかりのラブロマンスをもたらした。

カズタカ

偶然にも我らはジャスコ。

ハングリィ

ジャスコという単語だけで採用。

起こるまで待つ。

suzukishika

べっぴんさん、べっぴんさん、べっぴんさん、ひとり飛ばし…と…知子っ!?

g-udon

そして回想シーンへ。

それでは次回のお題を発表します。

次回モチーフ
『やさしい』

書き出し小説の投稿作を選んでいると、ときどきとてもやさしい気持ちになれる作品に出会います。今回でいうと自由部門のろっさん「焼き芋を半分に割る~」や、ぐるりん氏「サイズの違うスリッパ~」、規定部門・南極氏の「あれ? このサンタさん~」みたいな。
次回はそういう読むだけでほっこりする、思わずに頬がゆるむ、やさしさマックスの作品をよろしくお願いします。締め切りは12月9日、発表は12月11日を予定しています。下記の投稿フォームからご応募ください。
力作待ってます!

最終選考通過者

うまかべごう 水沢ながる ウチボリ prefab にかしど 八王寺義昭

Source

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