ボックス・メディア(Vox Media)の動画事業は何年も前から続いている。しかし縦型ショート動画については、収益の点で同社はいまだにマネタイズできていない現状がある。
しかし、ボックス・メディアのボックスビデオ&TV担当バイスプレジデントであるエミリー・アンダーソン氏は「確かにTikTokとは1年程度、距離を置く時期もあったが、今ではボックス(Vox)の動画ミックスにTikTokやYouTubeショート動画などのショート動画がどんどん戻ってきている」と話す。現在、彼女のチームは若者のオーディエンスを増やすとともに、これらのプラットフォーム上に流れるフェイク情報を暴き出し、その火消しに果敢に取り組んでいる。
この記事のポイント
- すべてのコンテンツがどこでも受け入れられるわけではない。だが、それは問題ではない。
- TikTokはテレビではない。またテレビに取って代わる存在でもない。人々はそれぞれ異なる体験を求めてTikTokを見ている。ほんの一瞬のものが良かったり、非常にオーガニックなもの、あるいはとても親近感の湧くものなどを見る。つまりTikTokには高いプロダクションバリューが求められているわけではない。実際にはまことしやかに見えても、実は広告のように感じられるものもあり、そういうものは望まれない。
- TikTokとYouTubeショート動画は、どちらのプラットフォーム上でも同じコンテンツが投稿され、実際に視聴されている。
TikTokへの復活
ボックスは1年以上前に@voxdotcomというハンドルネームでTikTokに参入し、科学や歴史の事実の真偽から、アパレル商品のイミテーションと偽造品の違いに関する説明まで、さまざまなトピックの動画を投稿していた。2021年9月に一度消えた後、同社は2022年11月1日にTikTokに復帰し、その時点からチームは主に中間選挙をカバーする動画を数日おきに投稿するようになった。
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「TikTokにはフェイク情報があふれかえっている。この中間選挙期間中に投稿した動画について、過去の選挙戦や論争の争点から情報を特定し突きとめることは、我々にとってほとんど市民としての義務のようなものだった」と、アンダーソン氏は2022年11月10日にバーチャルで行われたDIGIDAY Future of TV Programming Forumで述べている。
現在、ボックスにはTikTokの専門チームはない。というよりも、同ブランドのYouTube動画やNetflixの番組のようなライセンスコンテンツに携わるプロデューサーやジャーナリストが、テーマがボックスのプラットフォームに適していると感じた場合や、ノンフィクションやアニメなどで、同社のほかの編集プロジェクトの制作物の延長線上にあるものに限り、TikTok動画の編集を担当している。
若い世代を教育
動画フォーマットと配信プラットフォームの多様さはボックスのビジネスにとって非常に重要である。しかしTikTokについては現在、同社はマネタイズに成功していない。全体を通して見ても、TikTokの縦型ショート動画からは、たとえばそのコンテンツを再パッケージしてほかのコンテンツ配信者にライセンスするなどといった間接的な手法も、今のところは陽の目を見ていないとアンダーソン氏は言う。
だがアンダーソン氏によれば、「すべての動画プロジェクトに収益力が必要なわけではない。縦型ショート動画は、主にボックスに若いオーディエンスを増やし、重要なトピックについて彼らを教育するという利他的な手法で活用している」という。そして「そこにどのようなビジネスプランを講じるかは未定だが、膨大な数の若いオーディエンスがいることは確かで、彼らに良質のジャーナリズムを届けることこそが、本当に重要なのだ」と彼女は付け加える。
しかしながら、現時点では、ボックスは収益につながる可能性が低いプロジェクトに時間や人材を割くよりも、収益につながるプロジェクトの人員を増やすことを優先している。
アンダーソン氏は、動画に対してライセンス契約や広告枠の話が持ち上がった時に、同社のプロデューサーがすぐに適切に対応できるように、収益チームや販売チームと常に認識を共有しておく必要があると述べる。その結果、数日または数週間、マネタイズ化されていないチャネルのアウトプットが減少することもあるが、スタッフにそのような柔軟性を持たせることで、ある特定の時点でこれらのプラットフォームすべてに集中することによってスタッフに過度な負担がかかるのを避けられると、アンダーソン氏は話す。
各社、収益化に課題
また、動画制作を本格的に強化し始めたものの、TikTokから収益を上げられないパブリッシャーはボックスだけではない。バイス・メディア(Vice Media)のグローバルニュース担当シニアバイスプレジデントでバイス・ニュース(Vice News)のグローバル編集長でもあるケイティ・ドラモンド氏は、2022年9月のDIGIDAY Publishing Summitで、TikTokページの視聴とフォロワーをオーガニックに増やすために、年末まで意図的にこのプラットフォームにマネタイズを施さない予定だと発言した。
収益化を進める上で常に課題となるのは、これらのプラットフォームで個人のクリエイターに割り当てられている資金を奪い合うことだろうと、アンダーソン氏は語る。
「これらの個人クリエイターには、個々の収益モデルがある。ほかのメディアや組織で働くよりも、現在は、自分のチャンネルを立ち上げるインセンティブがますます高まっている。どうやって彼らと競り合うべきか考える必要がある」と彼女は話す。
[原文:Vox’s short-form video strategy has a money problem, but fulfills publisher’s ‘civic duty’]
Kayleigh Barber(翻訳:SI Japan、編集:黒田千聖)