しばらくニュースを追っていなかった人のためにおさらいすると、メディア業界で2022年11月第一週にもっとも注目を集めた話題は、イーロン・マスク氏のTwitterCEO就任だろう。
テスラ(Tesla)やスペースX(SpaceX)の起業で知られる一匹狼の実業家、マスク氏によるTwitterの買収は、最初の意向表明から紆余曲折を経て、10月27日に手続きが完了した。以来、経営幹部が次々と自主退職したり解雇されたりしている。「グローバルな街の広場」たるTwitterの広告事業にも影響が及びそうで、広告主の離反が起きるのではという憶測が飛び交っている。
大手広告主との対話が実施されていた
広告主が抱く最大の懸念は、マスク氏が主張してきた「言論の自由」推進を目的とするTwitter上のコンテンツ監視の緩和だ。これによりTwitter上で誤った情報が拡散する可能性があると、メディアバイヤーたちは危惧している。
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実際、メディア代理店大手は一部のクライアントに対し、今後の見通しが立つまで広告出稿を一時停止するよう呼びかけた。一方、Twitter主催のブランドセーフティ・ウィーク(Brand Safety Week)では、11月3日に登壇したある講演者により、マスク氏率いるTwitter経営陣と大手広告主の代表など関係者が同日の非公開セッションで直接対話していた事実が明かされた。
講演者は業界団体のMMAグローバル(MMA Global)会長兼最高執行責任者、ルー・パスカリス氏で、Twitterの経営陣と広告主企業のマーケターとの会合の様子を写真とともに紹介した。マスク氏らはその場で、「広告主の皆さんは安心してほしい」、「会社の方針はこれまでと変わらない」と訴えたという。
「マスク氏の意気込みは本物だ」
パスカリス氏は以前、バンクオブアメリカ(Bank of America)などの大企業でメディア部門の幹部を務めた経験がある。自身も参加していた今回の直接対話では、Twitter新経営陣の発言に「切迫感」が漂っていたと感想を述べ、こうつけ加えた。
「マスク氏の意気込みは本物だ。自分が何を知っていて、何を知らないのかをはっきり認識している。私は2時間前(会合に出る前)に比べ、より楽観的になった」。
皆が納得しているわけではない
直接対話に参加した広告主企業のマーケターのなかには、Twitterの新体制移行後の方針についてマスク氏が確約したにもかかわらず、それだけでは納得いかないという者もいた。
「マスク氏の発言には切迫感がみなぎっていて、Twitterに出資する投資家としての考えより自分個人の哲学が強く反映されているように思えた」とパスカリス氏はいう。「しかし、マーケターの反応はいまひとつだった」。
「唐突な移行計画」
パスカリス氏によれば、非公開セッションの質疑応答では、Twitter上のブランドセーフティの先行きに対する不安を口にする質問者が相次ぎ、なかには怒りをあらわにする者もいたという。
直接対話のあとの講演で、パスカリス氏は次のように述べた。「マスク氏はコンテンツ監視の意味合いを完全には理解していないと思う。広告主側の意見を吸い上げる方法を確立するなど、広告主を安心させるような歩み寄りがTwitterには必要だ」。
実際、Twitter新経営陣はチャレンジ精神旺盛ながら、広告主の要求を理解するという点では経験不足かもしれない。パスカリス氏は直接対話でのマスク氏の印象について「さすがだと感じた」と称賛したが、「ただし……」と、注意点を補足することも忘れなかった。
「マスク氏は、広告事業にとってクライアントとの関係がいかに重要かを理解していないようだ。そのため厳しい向かい風が吹いている。最終的には、彼も理解するだろうが」。
「明るい兆しは見えているが、2023年はまだ厳しいだろう」
Twitterに安全な広告媒体としての未来はあるのか?――有名ブランドをもつ企業の最高マーケティング責任者なら誰もが11月第一週に、この命題について自社のCEOと議論したことだろう。パスカリス氏が関係者から聞いた話では、広告の扱いについてTwitterから具体的な約束がなされるまで、広告出稿を差しひかえざるを得ないと判断した企業もあるという。
今後の見通しについてパスカリス氏は次のように述べた。「2年ほど経てば状況はかなり改善するだろうが、2023年はまだ、マーケターがTwitterに広告を出稿しようとしても、予算確保の正当化は難しいだろう」。
本件に関し米DIGIDAYはTwitterにコメントを求めたが、同社の広報担当者からは即答は得られなかった。
[原文:Advertisers say they’re still uneasy about Twitter after talking with Elon Musk]
Ronan Shields(翻訳:SI Japan、編集:分島翔平)