ファッション界のトップクリエイターたちがこの業界に目を向けたおかげで、ウェルネスが「新たなラグジュアリー」の期待に応えるステイタスを獲得している。
パンデミックが始まってから、健康とウェルネスが消費者の関心の的となり、長年の行動様式に変化を促している。それに同調して、ウェルネスに傾倒し、入手しやすいサプライチェーンを有するさまざまなブランドが次々と登場、市場での競争が激化している。現在、定評のある健康とウェルネスのブランドはその挑戦に立ち向かい、自らのルーティンを打破することで新たな機会を得ようとしている。そのために、そうしたブランドが起用しているのが、強固な伝統と革新性の両方を伝える経験があるファッション界のトップストーリーテラーたちだ。
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ブランドを「ライフスタイル」の領域に一新
ファッションマーケターのマイケル・クルックス氏は、グッチ(Gucci)、DVF、シエスマルジャン(Sies Marjan)、スチュアートワイツマン(Stuart Weitzman)でエグゼクティブを務めた後、2020年後半に、ウェルネス企業のザ・ベタービーイング(The Better Being Co.)から、同社傘下の創業50年となる最重要ブランド、ソラレー(Solaray)のマーケティングを率いるよう要請された。それまでこのブランドは、対外的なマーケティングを一切行わず、チャネル内のイノベーションとダイレクトな教育に注力していた。クルックス氏は最初の1カ月でこのサプリメントブランドのパッケージを一新した後、ブランドを「ライフスタイル」の領域に引き上げ、消費者とのつながりを強化するために、ニューヨークのクリエイティブエージェンシー、マットプロジェクツ(Matte Projects)を起用した。クルックス氏によれば、「誇大広告の世界」に身を置くマットプロジェクツは、ジェイ・Z氏のマリファナブランド、モノグラム(Monogram)のローンチや、ラコステ(Lacoste)とリッキー・リーガル氏(ブルーノ・マーズ氏の別名義)とのコラボレーションなど、数多くのプロジェクトを手がけている。クライアントには、ティファニー(Tiffany & Co.)、プラダ(Prada)、サンローラン(Saint Laurent)などがある。
マットプロジェクツのパートナーでチーフ・クリエイティブオフィサーであるマット・ロウイアン氏は「どうすれば(プロとして)この古臭いカテゴリーに命を吹き込めるか、その任務を即座に理解した」とクルックス氏は述べている。
製品中心から脱却し、ストーリーテリングのマーケティングへ
もちろん、より親近感のあるブランドによって停滞気味のカテゴリーを打開することは、新しい発想ではない。2000年代後半以降、アウェイ(Away)、キャスパー(Casper)、イェティ(Yeti)、ワービーパーカー(Warby Parker)など、相次いでD2Cブランドのローンチが加速した要因はそこにある。ビタミンやサプリメントの分野では、特にリチュアル(Ritual)、オリー(Olly)、ハムニュートリション(Hum Nutrition)、ケア/オブ(Care/of)などが市場に登場したモダンなブランドだ。
だが、ロウイアン氏によると、クルックス氏の関与があったからこそ、ソラレーのプロジェクトに納得したのだという。「彼は、ラグジュアリーやファッションの世界から生じたストーリーテリングやそのほかの戦術(の価値)を理解していた」とロウイアン氏は述べている。「私たちふたりは、これまでそのようなものは見たこともないという組織で、いかに創造的に志を導くかをナビゲートしなければならなかった。(社内にいる)全員をそこに巻き込む必要があった」。
製品だけに焦点を当てたマーケティングから脱却し、「人生をよりよく生きる」という「関連づいた」概念に基づくストーリーテリングを導入することが重要な目的だったと、ロウイアン氏は言う。
ソラレーとマットプロジェクツの長期的なパートナーシップのキックオフは、2021年夏と秋の「Live Brighter(より明るく生きる)」というキャンペーンだった。キャンペーンはブランド発祥の地であるユタ州で16ミリフィルムを使って撮影した動画を中心としており、その動画はブランドのデジタルチャネルで紹介している。
また体験型の要素のひとつとして、ニューヨークのウェイバリーイン(Waverly Inn)で「ザ・ライトハウス(The Light House)」と名付けたディナーも開催した。参加したインフルエンサーやエディターたちに、特定の健康の関心に合わせてカスタマイズされた食事を楽しんでもらい、その際小さなディスプレイを使って食品に含まれない必須栄養素に基づいたサプリメントの必要性を伝えた。ディナーに参加したゲストが製品の処方について深い質問をして、それがその後の2022年春夏のマーケティングキャンペーンに反映されている。
最初のキャンペーンを成功させることがカギ
クルックス氏とロウイアン氏は、ディスラプターとなる最初のキャンペーンを成功させることが正念場だったと述べている。そしてそれは実際に成功した。ソラレーの2021年の売上は前年比23%増となり、ブランドは100万人の新規顧客を獲得したのだ。「Live Brighter」の動画は、今年のベルリンコマーシャルアワードのコマーシャルワーク最終候補作に残った。
クルックス氏は、ブランドのマーケティングの焦点を1年間で「ゼロから100にした」と指摘し、「埋もれてしまうような、単なるCPGのキャンペーンを行うつもりはなかった」と話す。そこには、社内のマーケターをD2Cにフォーカスした360度戦略に移行させ、さらにコピーライティングなどの専門的なスキルをもった人材を雇い、資産管理システムを確立するなどが含まれている。
同社の計画によると、ソラレーのコア購買層から支持を得るとともに、クルックス氏はターゲットオーディエンスを拡大する機会を見出した。それは、パンデミックによって変化した消費者の健康習慣のおかげでもあった。「健康やウェルネス製品に関して家庭での決定権を持つ、デンバーに住む55歳の母親は、ブッシュウィックに住んでいる超健康志向な23歳の人と同じ心理状態なのだ」と彼は述べている。
ウェルネスは新たなラグジュアリーの定義
ソラレーの春のキャンペーンは「Food Is Not Enough(食品は十分ではない)」と題し、食品とサプリメントの等価性に注目、同等の栄養価を得るには膨大な量の食品を摂取する必要があることを示した。ニューヨークのユニオンスクエアファーマーズマーケット(Union Square Farmers Market)でのポップアップや、マットプロジェクツが制作した、ソラレイの製造工場を詳しく紹介する「シェフズテーブル(Chef’s Table)」風の動画などがキャンペーンに含まれている。この動画はソラレーのウェブサイトで紹介され、インフルエンサーやエディターがシェアしている。短いバージョンはコネクテッドTV広告、デジタル屋外広告、有料およびオーガニックのソーシャル投稿に活用された。キャンペーンのOOHは、ソラレーの主要市場であるシカゴとニューヨークで展開している。
ロウイアン氏もまたソラレーの可能性を見出したと話すが、それは主に食料品ブランドにはアイデンティティ、視点、強いイメージの使用が全体的に欠けていることによる。彼はこのカテゴリーのホワイトスペースを、マットプロジェクツの長年のクライアントであるエキノックス(Equinox)が業界の「ルックを変える」以前のフィットネス業界になぞらえている。その上で彼は「ウェルネスは新たなラグジュアリーの定義だ」として、ソラレーにとってその機会に力を注ぐ時が来たと述べた。
ブランドによって目立つ存在に
ソラレーは、個人商店からホールフーズ(Whole Foods)まで、米国内の6000軒以上の健康食品店で販売されている。プライベートエクイティ所有の親会社ザ・ベタービーイング(旧ニュートラシューティカルズ、Nutraceutical Corporation)は、複数のサプリメントブランドに加え、ヘリテージストア(Heritage Store)などの美容およびボディケアブランドも保有している。2021年、ザ・ベタービーイングは8億ドル(約1180億円)以上の評価額でIPOの条件を発表した。
ロウイアン氏は、3年前に生まれたサイトが2022年度に97%の収益増を達成したことを考慮し、同ブランドが保有するeコマースの機会を強調した。今後、ソラレーは情報・ニュース番組『トゥデイ(Today)』の栄養士ジョイ・バウアー氏などのインフルエンサーを活用し、口コミで広めていくとクルックス氏は述べている。
「私たちのマーケティング活動は、純粋にクリエイティブな活動ではない」とクルックス氏は言う。「サードパーティデータが変化していることを踏まえ、戦略的に生まれたものだ。つまり企業には体験と十分なコンテンツを提供することでファーストパーティデータを獲得する責任が負わされている。特にほとんどの製品や成分が同じであるコモディティ化した業界では、ブランドによって目立つ存在になる」。
[原文:Fashion Briefing: Influential fashion marketers are turning their attention to wellness]
JILL MANOFF(翻訳:Maya Kishida 編集:山岸祐加子)