米上院委報告書「武漢流出説」を支持:ウイルスに遺伝子操作された形跡

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中国武漢発の新型コロナウイルスの発生源問題では「自然発生説」(a natural zoonotic outbreak)と「武漢ウイルス研究所=WIV流出説」(a research-related incident)の2通りがある。前者を支持するウイルス学者が多いが、後者を主張する学者も少なくない。このほど米上院厚生教育労働年金委員会(HELP)の少数派監視スタッフの共和党議員らが15カ月間に渡り調査、研究して作成した「COVID-19パンデミックの起源の分析、中間報告」(An Analysis of the Origins of the COVID-19 Pandemic Interim Report)が10月下旬、公表された。

報告書「COVID-19パンデミックの起源の分析、中間報告」

初期の感染状況、華南海鮮市場と武漢中心部にある武漢ウイルス学研究所(報告書9頁から)

同報告書は全35頁、4章から構成され、第1章は「自然人畜共通起源仮説の分析」、第2章は「研究関連のインシデント仮説の分析」、第3章は「中国の初期のCOVID-19ワクチン開発と米国の作戦ワープ速度」、第4章は「研究関連のインシデントがSARS-CoV-2の起源である可能性が高いという評価の根拠」だ。結論として、「公開されている情報の分析に基づいて、COVID-19のパンデミックは、研究関連で生じた事件(事故)の結果である可能性が高い」と指摘、「WIV流出説」を支持している。「人畜共通起源説」の支持者は、自然界の2002年から04年のSARS発生で実証されたように、人獣共通感染症のスピルオーバーがパンデミックの原因と主張する。

報告書は、「新型コロナが、動物を宿主として自然発生したものなら、ウイルスが人から人へと感染する前に、動物の間で感染した痕跡がなければならないが、最初の人への感染前に動物が新型コロナに感染した証拠はない」と指摘、「中国南部、東南アジアに生息するキクガシラコウモリから発生した可能性はあるが、どのようにして1000キロ以上も離れた武漢に移動し、感染していったかの説明はない」と、自然発生説に否定的な見方を示している(6頁)。中国の当局者と科学者も、「COVID-19以前にSARS-CoV-2に感染した動物は1例も発見されていない」と世界保健機関(WHO)に報告している(10頁)。

「WIV流出説」については、「武漢で急速に拡大した初期の疫学的状況、最初の救援要請が行われた場所がWIVに近かった」ことの説明がつくとしている。興味深い点は、WIVで過去、少なくとも6件のバイオセーフティで問題があったことを示唆していることだ。報告書によれば、2019年4月24日:補助排気特許(WIVの研究者はBSL3およびBSL4の高封じ込め実験室における負の気圧勾配維持のため補助排気ファンの特許を提出)、同年8月14日には環境空気消毒システムの調達、9月16日には中央空調を、11月19日には空気焼却炉の調達している。そして同年12月1日にはバイオコンテインメント・トランスファー・キャビネットのHEPAフィルターの不具合に関する特許を申請、2020年11月13日には消毒剤製剤特許を、といった具合だ。

WIVはパンデミックが始まる前は安全性の低い条件下でコロナウイルスに取り組んでいた。口と鼻の保護は義務付けられていなかった。研究者がネズミに噛まれたり、何かが落ちたり、エアロゾルが発生したりする可能性があった。若い従業員が無意識のうちに感染し、症状がなく、他の人に感染させた可能性は十分考えられる。理論的には、無症候性のウイルス感染者が他に感染を広め、数カ月後に武漢の華南生鮮市場で初めてアウトブレイクが発生した可能性が考えられるわけだ。

報告書は、「ヒューマンエラー、機械の故障、動物の咬傷、動物の脱走、不適切な訓練、不十分な資金と結果に対するプレッシャーは、病原体の流出につながる可能性がある。次に、動物や人間に感染し、実験室からのウイルスの放出につながるわけだ」と記述している(13頁)。例えば、1977年のインフルエンザA(H1N1)パンデミックは研究関連の事件の結果と言われている。武漢のWIVはコロナウイルス研究の世界的なハブだ。

報告書は結論として、「新規病原体の起源に関するWHO科学諮問グループ、COVID19ランセット委員会、および米国国家情報長官の90日評価に関する米国事務局が指摘したように、COVID-19の起源に、決定的ではないにしても、より正確に到達するにはより多くの情報が必要だ。COVID-19パンデミックへの対処と作業に携わるリーダー、公衆衛生当局、科学者は将来のパンデミックを防ぐために、より高い透明性、関与、および責任にコミットする必要がある」と記述。

そのうえで「公開されている情報の分析に基づいて、COVID-19のパンデミックは、研究関連の事件の結果である可能性が高い。新しく公開され、独立して検証可能な情報は、この評価を変更する可能性はある。しかし、自然人獣共通感染症の起源の仮説はもはや説得力を失っている」と強調している(26頁)。

そのうえで、「SARS-CoV-2の起源をより明確に結論付けるためには、重要な未解決問題が明かにならなければならない」として、①SARS-CoV-2の中間宿主種は何か、最初にヒトに感染したのはどこか?、②SARS-CoV-2のウイルス貯蔵庫はどこか?、③SARS-CoV-2は、フリン切断部位などの独自の遺伝的特徴をどのように獲得したか?

参考までに、3人の独学者チームがSars-CoV-2のゲノムに一種の「指紋」を発見している。ウイルスのゲノムで定期的に繰り返されるパターンだ。Sars-CoV-2などのRNAウイルスを遺伝子操作する研究所は、最初に個々のDNAビルディングブロックからゲノムを組み立てる。目に見える「認識部位」が構成要素の接合部近くのゲノムに残る。独特の規則的なパターンだ。

すなわち、人工的に作成されたウイルスとそれらの自然な「モデルウイルス」のゲノムを比較した。「自然界のウイルスでは、認識部位は完全にランダムに分布している。しかし、遺伝子操作で構成されたウイルスの場合、生産に関連した特定のパターンで現れる。このパターンはSars-CoV-2にも見られる。

自然の進化が偶然にこのパターンを生み出す確率は、せいぜい100分の1であり、おそらくそれよりはるかに少ないといわれていることから、新型コロナウイルスが人工的ウイルスだというわけだ(「ドイツ学者「武漢研究所が起因」:人工ウイルスの「指紋」を確認?」2022年10月25日参考)。

なお、報告書でリチャード・バー上院議員(Richard Burr)は、「中国政府および公衆衛生当局からの透明性と協力の欠如がSARS-CoV-2の起源に関するより決定的な結論に到達することを妨げている」と述べ、発生地の中国側の責任を指摘している。

中国武漢ウイルス研究所(WIV)Wikipediaから


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2022年11月3日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。

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