睡眠中に音を流すことで夢を操作し悪夢を見る頻度を減らせるという実験

GIGAZINE



悪夢を見てしまうと寝起きの気分が悪くなる上に、時には悪夢のせいで夜中に目を覚ましてしまうこともあり、可能な限り悪夢は見たくないものです。新たな研究では、「ポジティブなイメージと結びつけた音を寝ている時に聞かせることで、悪夢を見る頻度を大幅に減らすことができる」ことが示されました。

Enhancing imagery rehearsal therapy for nightmares with targeted memory reactivation: Current Biology
https://doi.org/10.1016/j.cub.2022.09.032

Scientists attempt to ease nightmares by mani | EurekAlert!
https://www.eurekalert.org/news-releases/968585

Nightmares Can Be Silenced With a Single Piano Chord, Scientists Discover : ScienceAlert
https://www.sciencealert.com/nightmares-can-be-silenced-with-a-single-piano-chord-scientists-discover

悪夢は何かのきっかけで散発的に見ることもありますが、中には定期的に悪夢に悩まされている人もいます。成人の4%が慢性的な悪夢に悩まされているという調査結果もあるほか、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック中に悪夢や睡眠障害が増加したとの研究結果も報告されています。悪夢を頻繁に見ると夜中に起きる可能性が高まり、睡眠の質の低下につながるため、精神だけでなく身体的な悪影響が及ぶ可能性もあるとのこと。

頻繁に悪夢を見る人の一般的な治療法であるイメージリハーサル療法は、ネガティブなストーリーをよりポジティブな結末に書き換える訓練を行い、ポジティブな夢を見る「リハーサル」をすることで悪夢に対処しようとするものです。イメージリハーサル療法は悪夢の頻度や重症度の軽減に役立つことが報告されていますが、必ずしもすべての患者に効果があるわけではありません。

そこでスイスの研究チームは、2010年に報告された「特定の刺激と関連付けた音を睡眠中に聞かせることで、その刺激に関する記憶を強化する」という研究結果に着目。この「targeted memory reactivation(TMR)」という手法とイメージリハーサル療法を組み合わせることで、より効果的に悪夢の治療ができるのではないかと考えて実験を行いました。

論文の共著者である睡眠科学者のLampros Perogamvros氏は、「夢の中で体験する感情の種類と、私たちの心理的幸福には関連があります。この点に基づいて、私たちは夢の中の感情を操作することによって、人々を助けることができると考えました」と述べています。


研究チームは頻繁に悪夢を見る20~35歳の被験者36人を対象に、2週間にわたり睡眠や夢について記述してもらった後、イメージリハーサル療法についてのセッションを実施しました。このセッションはイメージリハーサル療法のやり方をレクチャーするもので、自宅に戻った被験者はその後2週間にわたり、少なくとも1日1回はイメージリハーサル療法を自分で実践するように求められました。また、被験者は「イメージリハーサル療法にTMRを組み合わせる実験群」と「イメージリハーサル療法のみを実践する対照群」に分けられ、実験群はイメージリハーサル療法の最中にピアノコードC69の音を聞くことで、イメージリハーサル療法のポジティブな印象と音の関連付けを行ったそうです。

すべての被験者は2週間の実験期間中、起きている時に1回5分程度のイメージリハーサル療法を行い、夜間は睡眠を追跡するヘッドバンドを装着して就寝しました。このヘッドバンドは被験者がレム睡眠に突入すると、10秒おきにピアノコードC69を鳴らす機能が付いていました。研究チームによると、被験者は毎日イメージリハーサル療法を行って睡眠時はヘッドバンドをしっかり着用するなど、研究手順をよく順守してとても協力的だったとのこと。

実験の開始時点で、対照群は1週間に平均2.58回の悪夢を見ており、実験群は平均2.94回の悪夢を見ていました。ところが、2週間にわたるイメージリハーサル療法の結果、対照群は1週間に平均1.02回、実験群はわずか0.19回まで悪夢を見る頻度が減少したほか、実験群は幸せな夢を見る頻度が増加したとのこと。

さらに、3カ月後の追跡調査では両グループとも悪夢を見る頻度がわずかに上昇したものの、対照群は1週間に平均1.48回で実験群は平均0.33回と、依然として悪夢を見る頻度は低く保たれていました。これらの研究結果は、イメージリハーサル療法に加えてTMRを併用することで、さらに悪夢を減らす効果が向上することを示唆しています。


Perogamvros氏は、「私たちは(治療によって)悪夢が急速に減少し、夢がより感情的にポジティブなものになることを観察しました。今回の研究結果は研究者や臨床医にとって、睡眠中の感情処理についての研究や、新しい治療法の開発に向けて非常に有望なものです」と述べました。

この記事のタイトルとURLをコピーする

Source