WWWの技術標準化団体「W3C」がプライバシー保護を巡る争いの場になっている

GIGAZINE
2021年07月15日 09時04分
メモ



World Wide Web(WWW)に関する技術の標準化を行う非営利団体「W3C」は、GitHubの公開フォーラムやZoomの公開会議でコンセンサスを得て、綿密な文書化を行い、新たなルールを共同でわかりやすく作っています。しかし、ここ2年ほどは、プライバシー保護とウェブ広告ビジネスのことで、戦場と化しているそうです。

A privacy war is raging inside the W3C – Protocol — The people, power and politics of tech
https://www.protocol.com/policy/w3c-privacy-war


この問題を取り上げたニュースサイト・Protocolのイシー・ラポフスキー氏によると、W3Cは、従来のトラッキング技術に代わる新たなプライバシー保護の標準規格作成を目指す陣営と、ネット広告ビジネスでクロスドメイントラッキングを利用し生き残りをかけて戦っている企業の陣営の2つに分けられるとのこと。前者にはウェブブラウザを開発しているApple、Google、Microsoft、Mozilla、Braveが含まれ、後者にはFacebookやデータアナリティクス企業が含まれます。

2020年1月にGoogleが発表した、ChromeのサードパーティーCookieサポートを2年以内に廃止する方針と、サードパーティーCookieなしで成り立つ新たな広告の仕組み「FLoC」で大きな打撃を受けるのが、後者陣営のデータアナリティクス企業です。

データ分析を業務とする51Degreesのジェームズ・ローズウェルCEOはこのことに気づき、2020年4月からW3Cに参加。FacebookがAppleやGoogleの提案に対して慎重な対応しか取れない中で、ローズウェル氏は制約が少ないことを生かしていろいろなトピックに参加しては、ブラウザのプライバシー保護機能に関する技術的質問ではなく、「そもそもプライバシーに関する決定をブラウザに委ねることは、誰もが望んでいることなのか?」というような質問を投げかけているそうです。

「調和より明確さを求めている」というローズウェル氏ですが、ブラウザ開発企業からは煙たがられており、Braveのディレクターであるピート・スナイダー氏はローズウェル氏の動きを「『懸念』荒らし」と表現しています。

ここでラポフスキー氏が指摘するのは、W3Cはプライバシーに関しては1つの失敗をすでに犯したという点です。その失敗とは「トラッキング拒否(Do Not Track)」機能のこと。これは、ブラウザ側でユーザーが「追跡されたくない」と表明することで、個別のデータ追跡が行われなくなることを期待したものでしたが、あくまで「追跡されたくない」とシグナルを発するだけで、データ分析企業やサービスによる追跡がなくなるわけではないため、実質的に無意味なものでした。

ブラウザの「トラッキング拒否機能」にはほとんど意味がないという指摘 – GIGAZINE


連邦取引員会の元主任技術者であるアシュカン・ソルタニ氏は、「トラッキング拒否」に携わる一方で、カリフォルニア州消費者個人情報保護法(CCPA)の成立に携わりました。CCPAは、EU一般データ保護規則(GDPR)よりも適用される範囲が広く、厳しい規則であると指摘されています。CCPAでは、「トラッキング拒否」の穴になった法的根拠が「第三者への情報共有をオプトアウトできる権利」として消費者に付与されています。

2020年から施行される個人情報保護法「CCPA」はGDPRよりも企業に厳しい内容である – GIGAZINE


CCPAがうまくいったということで、ソルタニ氏は再びW3Cで「グローバルなプライバシーコントロール」に取り組みましたが、改めて問題になったのが、前述のGoogleによる「FLoC」推進だったとのこと。Googleはプライバシーサンドボックに関する標準の開発の場としてW3Cを選びましたが、「Googleが第三者企業を排除して、自分たちだけでデータを集める気だ」としてデータアナリティクス企業からの反発があったほか、「個人を特定可能なのではないか」との懸念が同陣営だったはずの他ブラウザベンダーから寄せられて、GoogleはサードパーティーCookieの廃止延期を決定。

Google ChromeでのサードパーティーCookie廃止が延期に – GIGAZINE


Googleによる延期決定に対して、ローズウェル氏は「Googleが今年(2021年)オープンウェブを殺すことはなくなりました」という、まるで勝利宣言のようなプレスリリースを発表しています。

Good news. Google won’t kill the open web this year! – Marketers For An Open Web
https://marketersforanopenweb.com/good-news-google-wont-kill-the-open-web-this-year/


Googleは2023年にサードパーティーCookieの完全廃止を目指していますが、その動きも順調にいくかどうかは難しいところです。

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