こんにちは、編集部 石川です。
毎月1回、当サイトのライターに専門分野や得意分野の話を聞いています。今回は、数々の独創的な服を生み出してきたナミノリさん。
服の作り方や、その楽しみについて聞きました。
服ってどうやって作るの?
石川:
どういう手順で服って作るんですか?
ナミノリ:
学校で習うのは、まずデザインを決めて、デザイン画を描いて
ナミノリ:
そこに、布を一緒に貼るんです。この布でこの服作りますって。
石川:
色指定みたいな感じ?
ナミノリ:
そうです。そして採寸→型紙に起こして→裁断します。そのあと、縫って→アイロン→ほつれの処理→縫って→アイロン→ほつれの処理…を繰り返します。あとは装飾も、ボタンとかファスナー付けたりとか、時間がかかるパートですね。
石川:
手数(てかず)が多い~
ナミノリ:
ほんと長いなって思います。道のりが。
石川:
個々に見ていくと、デザイン画とか、縫うとか、そのへんはわかるんです。いちばん謎なのが型紙です。だって、服って三次元じゃないですか。
ナミノリ:
そうです。
石川:
それが二次元の紙になるっていうのが、全然わからないんです。
ナミノリ:
わからないですよね。私も未だにTシャツとか、ジャケットとかの型紙を見て、ほんとに服になるのかなっていう疑いから作ります。
石川:
作ってても半信半疑なんだ。
ナミノリ:
縫ってる途中で、これは服になりそうだって、やっと安心するんです。型紙の時点では「ほんとかなこれ」って思ってます。
石川:
自分でイチから作る服でも?
ナミノリ:
そうです。型紙の教科書があって、それを見ながら描くんですよ。採寸したサイズを元に、横に一直線ウエストのラインをひいて、それを三等分したものから6cmあがったところを始点に0.5cm右に行ったところまで斜めの線を引いて……っていう。わけのわからないまま線を引いていくんですよ。
石川:
手順があるんだ。プログラムみたいな。
ナミノリ:
そうです。こう描くと型紙ができるよっていうのが教科書に載っていて、わけもわからないまま言われたとおりに線を結んでいくと、できた!って。
石川:
すでに世の中にある服だったらそうですけど、恐竜の服とか、上下反転できる服とか、世の中にまだないわけじゃないですか。そういうときは?
ナミノリ:
予想ですね。ウエストがこのぐらいだったら、ここの幅を伸ばせばいいだろうとか。腕周りが1mぐらいあったとして、腕の周りの布の幅をとにかく広げればいいかなとか。
石川:
予想なんだ。
ナミノリ:
それで失敗したら怖いので、多めに布を残して切って、足りなかった時にちょっと伸ばせるようにしています。
石川:
保険がかけられるんですね。
ナミノリ:
あとは、自分の持ってる服から作りたい服に似たのを探して、型紙をとって、それを変形させながら作ったりします。そうすると自分のサイズに合ってるものができるので、イチから作るよりも楽ちんですね。
石川:
服から型紙を…って、一回全部ばらすんですか?
ナミノリ:
いえ。Tシャツでも肩に縫い目の線があるじゃないですか。この線で折って、ひとつのパーツごとに型をとっていくみたいな。
石川:
それでわかるんだ!それすらもできる気がしない…!
行き詰まりって、突き詰めて考えるとただめんどくさいだけ
石川:
一着どのぐらいの時間で作るんですか?
ナミノリ:
ものによりけりですけど、先日のトランスフォームの服は一週間ぐらいで作ったと思います。
石川:
一週間というのは?
ナミノリ:
土日まるまる作って、平日は仕事終わった夜にボタンを付けたりとか、ちょっとした装飾の部分を縫ったり。トータル25時間ぐらいですかね?
石川:
時間かけていただいて、毎回力作をありがとうございます…!
ナミノリ:
これはすごくかかった方で、10時間くらいの時もあります。
石川:
やっぱり複雑な服は時間がかかるということですね。
ナミノリ:
考えながら作ると時間がかかりますね。次にこうしたらいいというのがわかってない状態だと特に。
石川:
パズル的な要素がありそうですね。
ナミノリ:
そうなんですよ。やっぱり行き詰まったりするので。できない!みたいな。
石川:
行き詰まったらどうするんですか?
ナミノリ:
行き詰まりって、突き詰めて考えるとただめんどくさいだけなんですよね。
石川:
あー。格言が出た。
ナミノリ:
だから、やるしかないんだなって腹をくくる。
石川:
うすうす解決策はわかってるけど、やりたくないなっていう。なるほどー至言だ。
誰かに好きに使ってもらえたらと思って
石川:
いま2年近く記事書いていただいて、回を重ねるごとにどんどん服作りが上達していると思うんです。自分でもそう思います?
ナミノリ:
わからないんですよね。それが。でも、時間をかけるようになってきたかも。どうしても凝りたい気持ちが出てきちゃう。
石川:
時間をかけるようになって、完成度が上がってるんだ。
ナミノリ:
そうだと思います。でも自分が好きなところ、例えば袖のボタンがすごいかわいいなって思いながらそこを縫っている時って、ほんとに楽しいんですよ。時間かかってるとか思わないぐらい。
石川:
ナミノリさんの、作品に対する愛着とかこだわりってすごく感じるんです。でも不思議なのは、そのあとに急にスパーンと人にあげちゃったりするじゃないですか。あれ、なんであげるんですか?
ナミノリ:
なんでですかね。家にあってもしょうがないから?
石川:
普段着るものではないですもんね。
ナミノリ:
そうなんですよ。普段使いは難しいものばかり作っているので。誰かにもらっていただいて、好きに使ってもらえたらいいかなと思って。
石川:
喜んでくれる人にね。記事中にこれもらってもらえませんかっていう案内をするんですけど、今まででいうと、ナミノリさんが入れるサイズのすごいでっかい靴下。これは保育園に行ったんでしたっけ。
ナミノリ:
幼稚園だったか、子どもたちに。
石川:
あと最近だとこたつコートは、寒いところの読者の方に渡ったんですよね。
ナミノリ:
その方もお子様がいらっしゃる方で。嬉しいです。
石川:
各地で役立ってるということでね。
ナミノリ:
どこかにあの不思議な服を着ている方がいるのかなと思うと、楽しくなりますね。
服作りは選ぶことが多い
ナミノリ:
服作りって選ぶことがすごく多いんです。布も選ぶし、作りたいシルエットも選んで、そこに合うボタンも、合う色も、全部選ぶんです。それが毎回面白くて、3時間ぐらい迷っちゃいます。
石川:
あー。はいはいはいはい。
ナミノリ:
布一つとっても、使う布によって風合いとか、印象が全然違ってきちゃうので。
石川:
布の違いって、素人考えだと単純に色柄の違いなのかなって思うんですけど、きっと同じデザインでも厚みや手触りで全然変わってくるんですよね?
ナミノリ:
そうです。布の面積でも違ったりします。例えば、トランスフォーム服を作る時に、ほんとは2色の布を使おうと思ってたんです。ただそうすると、この布は袖になる時はすごく似合うけど、パンツになると違うなーみたいな。布の面積のバランス悪いなーみたいな。
石川:
面積とか考えたこともなかったです。
ナミノリ:
ほかにも組み合わせで、季節感の違う布同士だとどうしてもミスマッチだったりとか。
石川:
なるほど〜。視点が多いですね。やっぱり。考えてることが全然違う。
ナミノリ:
布を見ながら、どうなるかなって想像するんです。3分ぐらいずっと。
石川:
思いを馳せる時間があるんですね。ホワホワホワホワって。
ナミノリ:
生地屋さんに行くとお客さんがみんなそうなんですよ。目の焦点合ってなくて、みんな思いにふけってるなーみたいな。
石川:
あはは、面白いですね。そこで想像した結果が正解だったかどうか、最終的に答え合わせがあるわけですもんね。完成した時に。
ナミノリ:
そうですね。完成しなくても、縫ってる途中で、だめだった〜!みたいな。
石川:
そのパターンもあるか。
ナミノリ:
縫いづらかったりすると、なんでってやってしまったんだろうって。
石川:
縫いやすさもあるのか! 服と関係ないんですけど、物撮りするときに背景布を敷くじゃないですか。このあいだ「リネン」って書いてある安い布を買ったんですね。そしたら、すごいシワが寄るんですよ。
ナミノリ:
そうですね。
石川:
全然布をわかってない人の買い物だったなと思って。あとでライターの米田さんに聞いたら、それは化繊のやつを買うとシワにならないですよって。
ナミノリ:
そういうのはあります。繊維によって生地感にも影響があるので、同じ白の布でも、テカリとか、透け感とか違ってくるので。だから選ぶのは楽しいんです。
石川:
なるほど〜。そしていま布の話ばっかりしてますけど、布だけじゃないですもんね。選ぶのは。
ナミノリ:
形もけっこう毎回悩みますね。
石川:
形はやばそう。沼っぽい。
ナミノリ:
やばいですね。
石川:
布って、そうは言っても有限の選択肢の中から選ぶわけじゃないですか。形ってアレンジし放題ですよね。無限。
ナミノリ:
無限ですね。たとえば袖にものすごいボリュームのある服を作ろうと思って、デザイン段階ではとんでもない、ボーン!みたいな袖を描くんですけど、いざ作ってみて着てるとヒジが曲げにくいなーとか。
石川:
あー、見た目だけじゃなくて、動きの要素があるんだ。
ナミノリ:
そういうところも、デザイン性と機能性の兼ね合いが難しいところだなと思いますね。
石川:
なるほどー!僕は見た目のことしか考えてなかったです。僕とナミノリさんは見えているものが全く違うということがかなりわかってきました。
機能 vs ビジュアル
石川:
僕も電子工作記事をやってて、それで思うのは、僕は手段として工作をしているけど、作りたいのは物ではなくて機能なんです。例えば、メガネに指紋を付けられるとか、メガネが撃てるとか。見た目にあんまり興味がなくて機能を作るのが好き。
ナミノリ:
はい。
石川:
一方で乙幡さんはなんかは造形の人だから、ビジュアルが作りたいんだと思うんですよね。
石川:
っていうふうに考えたときに、ナミノリさんって面白いなと思って。服ってビジュアルの世界のものじゃないですか。
ナミノリ:
そうですね。
石川:
でも記事のタイトルをバーッて並べてみると、けっこう機能なんですよね。コタツになるコートで温まりたいとか、さっきのトランスフォームするのも機能。あとは水が入った服で夏を涼しく過ごしたいとか。服ってビジュアルのものなのに、機能を志向しているのが面白いなと思って。
ナミノリ:
なるほどな〜。
石川:
ナミノリさんが作りたいものって結局何なんだと思いますか?
ナミノリ:
なんだろう、機能だと言ってるけど、そう思って作ってなかったかもしれないです。あわよくばというか、おまけみたいな気持ちで機能を付けてるような。
石川:
やっぱり最終的には、おしゃれなビジュアルを作りたいっていう思いが強い?
ナミノリ:
そうなんですけど、単に「おしゃれな服」だと価値観としてありふれてると思うんです。でも、そこに「水が入った服」が加わるとどうなるかわからないじゃないですか。そこが楽しくてやってるんだと思います。
石川:
予測不能な面白さが。
ナミノリ:
あと、「作りたい」が先行しちゃうときもよくあるんです。例えば、前にでっかい襟が作りたくて仕方がない!って気持ちの時があって、そういえば襟ってエリマキトカゲって言われるなって思い出して、それが「エリマキトカゲみたいな服を作りたい」って記事になったんです。
石川:
ビジュアルに必然性を与えるための機能? あるいは記事にするための言い訳に機能を使ってるといってもいいのかな。
ナミノリ:
はい。すみません、なんか。
石川:
あはは。
ナミノリ:
虫除けウェアも同じで、シースルーが流行っているときだったので。透けてる服が作りたいなと思ったのがきっかけなんです。それで記事の題材にしようと思ったときに、虫除けのあれっていい感じになるかなと思いついたんです。
石川:
なるほど、そういうところにモチベーションがあるわけですね。
ナミノリ:
はい、「これが作ってみたいな」っていうところから始まってるような気がします。
オリジナルの服を作りたい人へ
石川:
ナミノリさんの記事を読んで、こういうオリジナルの服を作ってみたいなと思った人がいたら、まずは何から始めたらいいと思いますか?
ナミノリ:
まずは作りたい服に似た既成の服を分解してみて、そこに自分の好きな要素を付け足して、再構築するのが簡単かなって思います。
石川:
なんでも一緒ですね。プログラミングでもサンプルコードを見つけてちょっと変えてみようとか。電子工作でも既存の回路をちょっと変えてみようとか。
ナミノリ:
まさにそのとおりだと思います。
石川:
例えば、Tシャツとかを買ってきて、一回ばらす。
ナミノリ:
一回ばらしてみると、こんな形なのか~って思うはずです。袖ってキノコみたいな形なんですよ。
石川:
キノコなんだ!
ナミノリ:
キノコなんです。そういうので、これが袖になるんだな、とかって気付けるといいかなと思います。
石川:
長方形の布を巻くと、筒になって袖ができるぐらいに思ってました。
ナミノリ:
違うんですよ。びっくりするんですけど。
石川:
型紙を見るだけで面白そうですね。
ナミノリ:
何の型紙でしょうクイズをすると面白いかもしれないです。
石川:
型紙クイズは最高ですね。今度やりましょう。ありがとうございました。オリジナルの服を作りたい人はまずは既成をばらしてアレンジするところから。ナミノリ先生どうもありがとうございました。
ナミノリ:
恐れ多いです。ありがとうございました。
生放送「記事の森」やってます
この対談は、先日放送したトーク配信『樹液でも飲みながら記事を振り返る「記事の森」』から抜粋したものです。番組ではこの2倍くらいしゃべってますので、対談をお楽しみいただけた方はぜひアーカイブをどうぞ。
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次回は、11月に配信予定です!ぜひチャンネル登録をお願いします!