コンピュータは冬から春先の気温の予報がうまくない~気象予報士 増田さんの詳しすぎる天気2023.2

デイリーポータルZ

気象予報士、増田雅昭さんに天気について聞く月1回連載。

今月のトピックはこちらです。
・1月25日マイナス11℃の予想が出て話題に
・高度1500mの気温+15℃が地上の温度
・コンピュータは冬から春先の気温の予報がうまくない
・今年の寒さの底は抜けた
・2月22日22時22分の気温を当ててください

(構成:デイリーポータルZ編集部・林雄司)
 

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東京に最低気温マイナス11℃の予想が出て話題になった

林:
1月16日の夜、日本気象協会が1月25日の東京の最低気温をマイナス11℃と予想して話題になってました。
(「東京の25日の最低気温「マイナス11℃」? 日本気象協会が一時観測史上最低で予想」テレ朝ニュース)
増田:
他社さんのことなので、実際に何が起こったか我々はわからないので、仮にこういうことが自分たちの中で起こったらという話になると思うんですけど。
林:
まずベースとして日本気象協会は気象庁からのデータをもとに予報を作っているわけですね。それはウェザーマップもウェザーニュースも全部同じ。
増田:
ベースは同じですね。その気象庁から来たものをどう料理するかは、それぞれの会社の仕方で。
林:
気象庁のデータにはマイナス11℃っていう数字は書いてあるんですか。
増田:
予報のメインになるデータの中にはなかったです。
林:
じゃあ、何が書いてあるんですか?
増田:
すごくいろんなデータがあって、25日の予報に関しても一個ポンって出てくるわけではなくて、いろんなバラバラなデータがあるんですよね。たとえば予報のメインになるデータではマイナス何℃と計算されていても、これだけ数字に幅がありますよとか。
林:
それをベースに予報をすると。
増田:
今回問題になったのは1週間よりもっと先の予報ですよね。基本的にはそれだけ先の予報となると、コンピュータが出してきた平均だったり、最低気温として妥当なものを使うことが多いです。そのデータにマイナス11℃はまず出てこない。
考えられるとしたら、何十種類のデータの中で、一番低いのを拾っちゃったか。それとも、人間が予報の最後に手修正をすることがあるんですが、そのときに何かが起こったか。

今回、すごい注目されてましたよね。最強寒波っていう。そういう時は手を加えたりすることがあります。もうちょっと下げた方がいいんじゃないかって。コンピュータの予報というのは先に行くほど平均的に出すので、なんとなく生ぬるい予報になるんです。下げるときになにかあったかもしれないですね。わからないですけど。

林:
そんなことかもしれない。
増田:
かもしれない。あくまでも自分たちの中だったらと想像した場合です。
林:
結局、寒かった日ですよね。
増田:
寒かった日ですよね〜。マイナス2.9℃まで下がってますから。
林:
十分寒い
増田:
けっきょく予報は、すぐ修正してマイナス2℃って言ってたわけですよね。一週間以上前に。ほぼほぼぴったりということは、ちゃんと予想した。
林:
慌てて修正して当てちゃった。

気象会社の予報のプログラムはどこにある

増田:
予報って基本的にはコンピュータの予報がベースなんですが、最終的には気象予報士が関わって予報として出さなければいけないって法律上なっているんです。もしかしたらコンピュータが極端なデータだけとってそのまま発表してしまうかもしれないから。
林:
気象会社ごとに予報のプログラムがかなり大事ですね。
増田:
そうです。同じデータが気象庁から入ってきても最終的にどこを取るかっていうのがありますし、最終的にどういう予報にするかはそれぞれの会社の計算式なので微妙に違ってくる。
林:
ウェザーマップでもプログラムがあるわけですよね。それは内製なんですか。
林:
内製です。
林:
見直しとかもするんですか?
増田:
基本的にはコンピュータが最適化をやっているんですけど、最適のさせ方を時々見直したりしています。
林:
アルゴリズムの元になっているのは気象予報士の経験ですか。
増田:
経験というよりも、これまでの計算した予測に対して実際に観測された答えがあるわけですよ。
林:
なるほど、予報と結果を突き合わせて
増田:
突き合わせてもっともらしくなるように。
林:
それパソコンで動かしているんですか?
西村:
ちょっと俺も気になったんですけど、スーパーコンピュータみたいなのがあるのかな。
林:
パソコンです。
増田:
データセンターにある良いコンピュータです。(笑)
計算が高速になればなるほどいろいろ密に計算ができて、予報の精度が良くなるので、なるべく力を入れるところですよね。

上空1500mの気温+15℃が地上の温度(目安)

増田:
先月、つくばの上空の気温で記録が出ています。
西村:
記録?
増田:
1月25日だったかな。上空1500mの気温がつくばの記録が残る中で一番低かった。マイナス15.1℃。上空1500m、これは天気予報の地上の気温の予想のだいたいベースになるんですけれども、
増田:
六十数年の観測の中で一番低い気温だったということは、場所によっては過去最強クラスの寒波だったということなんですよね。
増田:
ざっくりした計算ですけど、空気が乾いてるときって100mで1℃違うんですよ。だから、晴れてるときは、上空1500mの温度にプラス15℃するのが昔ながらの予報のセオリーなんですけど。

西村:
マイナス15℃だったら。
増田:
晴れてもゼロ。この日だったかな。25日は東京がすごい晴れていたのにお昼の気温が1℃台だったんです。あれはちょっとした衝撃を受けましたね。
西村:
気温がなかなか上がらないということですね。
増田:
関東の上空に関してはここ半世紀の中では一番クラスだったってことですね。
林:
偏西風の蛇行が原因ですか。
西村:
また偏西風が出てきますね。
増田:
偏西風が大きく南北に波打つと谷が深くなってぐっと寒波が来るんですけど、今回は波自体の幅が広くなかったのでさっと通り過ぎていく。長くは続かない。
林:
寒かった日もこの日ぐらいですもんね。
西村:
長くは続かないですね。

でも天気のせいで1500m+15℃にはならない

林:
逆に1月の半ば、暖かくなる18℃になるという予報が出て。でもそこまでは上がらずに14℃ぐらいでしたね。
増田:
全然上がらなかったですね、ブーイングいただきましたよ。たくさん。
この予報に関しては、その週の途中から嫌なにおいがしてて。そこまで暖かくないですからね、15℃超える予報になってますけど、そこまで暖かくないですからねってテレビで何度も言ってました。
林:
意地悪な表を作っていたんですけど。10日頃の週間予報では18℃と出てて、だんだんだんだん下がっていった。

↓1/14最高気温の予報の数値が下がっていくようす

1/10の予報

1/11の予報 1/12の予報 1/13の予報 実際
18℃ 17 ℃ 15 ℃ 16 ℃ 14.2℃

増田:
週間予報の欠点がまだあって、先々の気温って、さっき言った上空の1500mとか上空の気温がこれぐらいだからこの日の気温はこのぐらいになるだろうと予想するんです。
このときは季節外れの暖かい空気が1月14日ぐらいに来る予測で。
実は上空の大きな空気の流れっていうのはそんなに外れないんです。たしかに1月14日も上空にはちゃんと暖かい空気が予想通り来てました。問題はその先なんですよ。
じゃあ実際その暖かい空気が上空に来たら必ず地上がそうなるかというとそういうわけではなくて
林:
そこから違うんですか
増田:
特に天気は大きいですよね。さっきも言ったように晴れれば純粋に気温が上がって、それこそ春本番の陽気となるわけですけど、だいたい暖かい空気が来るときって低気圧とセットで来る。1月14日も雨ですよね。低気圧が来て雨だった。
だから僕はこれは外れるパターンだなと思って。

上空の空気がそのまま地表の温度になるわけではない
なにもなければ上空の空気+15℃で気温が予想できる
実際には雲で太陽が遮られたりして温度があがらない

林:
雲が鍵だ
増田:
雲が日差しを邪魔するということですよね。日差しがなければ地上ってあったまらないので。
林:
上に暖かい空気が来ていて、なおかつ雲がなく、晴れていれば、上空の空気のまま暖かくなる。
増田:
そしたら20℃近くいっていたと思いますよ、この日。
林:
おお。
増田:
上空は上空なりの暖かさがちゃんとあったけれど、結局天気に左右される部分が大きいので、そこの天気を週間予報の気温はちょっと端折っちゃってる。
昔に比べれば天気と少しずつリンクするようになってきているんですけどね。
林:
素人からすると、「暖かい空気・冷たい空気」と「天気」をいっしょくたにしてますが、別個に考えるんですね  
増田:
空気の流れは「経過」、天気や地上の気温はその空気の流れによる「結果」ですから、予報をするうえでは個別に考えるんですよね。

増田:
まず雲がなく晴れていれば地面を温めますから、気温って基本的には地面が温まってそれがだんだん空気に伝わっているので、これがすごく大事なんです。
林:
空気がいきなり温まるんじゃなくて、まず地面
増田:
ところが、雲が出ちゃってた場合は温めてくれる効果がなくなるので、全然上がらないから寒くなる。さらに雨が降ったら空気とか地面を冷やしたりするのでもっと低くなる。
日差しが来るか地上に来るか来ないか。雨が落ちてくるかどうか。そんなのが結果として気温に影響する。

コンピュータは冬から春先の気温の予報がうまくない

増田:
コンピュータ、おそらく将来的には天気も考慮して、この日は12℃ぐらいだねって出すようになると思うんです。だんだんコンピュータの精度が上がっていって、こういう失敗ばっかりしてるよね、俺ら。週間予報でこの空気だけを見て、暖かくなるって言っちゃって失敗してるよねってだんだん学習していくので、この日は雨だから気温下げようとだんだんなっていく。
林:
理論では100mで1℃で計算すればよい。でも現場のいろんなしがらみ、雨が降ったりとかで変わっていく
増田:
コンピュータの弱点と言っていいと思います。まだここまでもできない。
そこで活躍するのが気象予報士という人たちで、20年ぐらい前ですけど、気象予報士の仕事はなんだって言われたときに、コンピュータの悪い癖を見抜いてそこを補正修正するのが仕事だよと。
コンピュータは完璧じゃないから。コンピュータの苦手を知った上でこのパターン来たね。だからこういうふうに修正しようとか。
コンピュータの性能がよくなっているのでそれは減ってきています。
ただ、冬から春先はまだ多いですね。暖かい空気が来ているので純粋に地上の気温を高くする、こういうのをやっちゃう、コンピュータの下手な予報が残っている。
林:
先月話を聞いたときも今週末暖かくなるんですよねって言ったら「そんなでもないですよ」と言われたのを覚えてますよ。
増田:
ここ数年とかで気象予報士の業務をやり始めた人たちは、コンピュータがすごく当たるような時代に始めているので、そういう癖を探すということはあまりやってないと思うんです。
林:
よく高校の物理の問題で「ただし摩擦はないものとします」ってありますが、上空の空気だけで地上の温度を出すというのはそれに近い。
増田:
考慮しないとする。
林:
ただし雲はないものとします、みたいな。なるほど。そういう。これは1月中旬の暖かい予報がだんだん近づいていったのはこの話を聞くと納得できますね
増田:
だんだん近くなっていくと、天気をより考慮できるようになっているんですよ。 

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