ニュースレター のパーソナライズ化、望まない読者が多い?:メディア各社のアプローチを読み解く

DIGIDAY

ニューヨーク・タイムズ(The New York Times)やワシントン・ポスト(The Washington Post)のような企業が、読者により多くの記事を閲覧してもらうためにホームページのパーソナライズを試みるなか、パブリッシャーたちもまた、読者の特定の関心や行動を満たすためニュースレターのカスタマイズも行っている。しかし、成功の度合いはさまざまである。

テレグラフ(The Telegraph)やリーチPLC(Reach plc)のようなパブリッシャーは、開封率、クリックスルー率、ページ訪問数を改善するためにニュースレターをパーソナライズしている。テレグラフの場合は、同社のサブスクリプション戦略の重要な部分でもある。

しかし、パブリッシャーのなかには、ニュースレターのパーソナライゼーションの取り組みが読者の共感を得られず、多くの人が単に最も重要な、または最も優れた記事を紹介するニュースレターを望んでいる、という学びを得ているところもある。

Eメールのパーソナライズは、ウェブサイトへの導線

昨年、テレグラフはアルゴリズムを活用したニュースレター、ヘッドラインズ(Headlines)を立ち上げ、毎日から週3回の頻度で、特定のジャンルに特化したパーソナライズされたコンテンツ推奨メールを配信している。レコメンデーションは個人の閲覧履歴に基づいている。たとえば、ニュースレターには読者が既に読んだ記事は含まれない。文化、ニュース、政治、サッカーなどを中心に掲載している。

テレグラフのニュースレター責任者であるミシェル・ブリスター氏は、ニュースレターは読者をテレグラフに誘導し、サイトに登録させ、購読へのコンバージョンパスに乗せるための「良いツール」になっていると述べた。同社は2023年までに100万人の購読者を獲得することを目標としている。

ブリスター氏によると、個々の読者にカスタマイズされていないほかのニュースレターと比較して、ヘッドラインズから来た読者のクリックスルー率、クリックあたりのページビュー、サイト滞在時間が高くなっているという。ヘッドラインズはまた、テレグラフの顧客保持・買収戦略を支えている。「(ヘッドラインズが)どちらの点でも成功していることに驚いた」とブリスター氏は言った。同社の広報担当者によると、ヘッドラインズは登録ユーザーをほかのニュースレターの2倍の速度で購読者に変換しているという。

一方、リーチPLCにはペイウォールがなく、そのビジネスは広告収入に基づいている。イギリスの200以上の出版物やデイリー・ミラー(Daily Mirror)やOK!マガジン(OK! Magazine)などのウェブサイトを所有する同社でのパーソナライゼーションの取り組みの主な目標は、最高プロダクト・顧客責任者であるジャンポール・カメルビーク氏によると、ユーザーがより多くの時間をサイトで過ごし、セッションあたりのページ数を多く消費して、最終的にはユーザー登録してもらうことだという。その後、機械学習によってリーチPLCは読者の行動から得る情報に基づいてモデルを構築できるという。その結果これまでに「何百ものカテゴリー」が生成されたと同氏は述べた。

ニュースレターでは、リーチPLCはそれをより小さなグループに分けて、異なるコンテンツセットを提供し、何がうまく機能するかを確認し、そのコンテンツをより大きなカテゴリーに配信している。たとえば、より大きなライフスタイルカテゴリーに属する読者たちがテレビ番組「私はセレブ(I’m a Celebrity)」に関するミラーとデイリー・スター(Daily Star)の記事をよく読んでいるのを見て、このコンテンツに特化したニュースレターを作成した、といった具合だ。

キャメルビーク氏によると、ニュースレターのパーソナライズは彼らの「大きな計画の一部」だが、まだ「初期段階」だという。たとえば、誰かが「ロイヤルズ(Royals)」ニュースレターを購読している場合、リーチPLCは読者がどの記事をクリックしているかを判断し、それらの種類の記事への追加リンクを提供して、ウェブサイトに戻ってもらうことができる。キャメルビーク氏によると、同社はグループ分けされた読者ごとに件名を変えて送信して、どのバージョンのタイトルがエンゲージメントを向上させるかをテストしているという。

しかし、ニュースレターは結局のところ、人々にサイトをクリックさせ、そこからおすすめを各ユーザーごとにパーソナライズするための手段である、と同氏は述べた。

キャメルビーク氏によると、こうした取り組みは全体的にニュースレター購読者の増加につながっている。同氏は、パーソナライゼーションによる加入者数の増加については明らかにしなかったが、「このジュースは絞る価値(この取り組みは追求する価値)があるか、と聞かれれば。答えはイエスだ」と述べた。

カスタマイズされたニュースレターを読者は望まないのか

しかし、ほかの一部のパブリッシャーはそうは考えていない。

トロント・スター(The Toronto Star)のオーナーであるトースター(Torstar)のニュースレター担当編集者デーヴィッド・トッピング氏によると、トロント・スターは2020年に、パーソナライズされたおすすめ情報を伝える専用のニュースレターを発行し、今年5月にそれを終了している。ニュースレターの内容は、機械学習プラットフォームであるリフトイグナイター(LiftIgniter)のレコメンデーションエンジンによって選ばれていた。ログインした読者の閲覧履歴を利用して、ユーザーの好みを更新し、ニュースレターに掲載する記事のリストを生成していた。

ほとんどのニュースレター購読者は「ほかの人々と同じ(コンテンツ)を手に入れて、かなり満足しているようだ」とトッピング氏は述べた。パーソナライズされたニュースレターは、カスタマイズされたレコメンデーションを求める「ニッチなオーディエンス」に関してはエンゲージメントを促進したが、「必ずしも大きな影響を与えるものではない」と彼は付け加えた。

「私はむしろ、ザ・スターのニュースレターに関わる業務を、できるだけ多くの人に最高のメールサービスを提供する方向に進めたいと思う」とトッピング氏は述べた。たとえば、トースターのフードニュースレターは、読者がサイトで消費した食品記事に基づいてレストランのおすすめをカスタマイズすることができるが、より良い戦略は「毎週、多くの人が喜んでくれる5つのレストランを選ぶこと。その仕事を成功させること」ことであるとトッピング氏は述べた。

先週、フロリダ州キービスケインで開催されたDIGIDAY PUBLISHING SUMMITの非公開セッションで講演したパブリッシャー業界の重役のひとりは、数カ月間パーソナライズされたニュースレターをテストしたが、メールの購読者はパーソナライズされたメールという形では「極端にカスタムなものを求めていない」ことが分かったと述べた。

トッピング氏は、完全にパーソナライズされたニュースレターを持つのではなく、既存のニュースレターにカスタマイズされたレコメンデーションを組み込むことについて熟考したが、「現時点では特にリストの上位にはない」と述べた。

もうひとつの課題はテクノロジーへの投資

ニュースレターに手を加えたいと考えているパブリッシャーにとってのもうひとつの課題は何か。それはパーソナライゼーションを提供するために必要なテクノロジーへの投資だ。リーチPLCの取り組みの秘訣は、同社がこの1年で採用した顧客データプラットフォーム(CDP)である、とキャメルビーク氏は述べた。

Eメールサービスプロバイダに「プロファイリングとセグメント化の機能が限られている」ため、メールの開封率などのデータを読者から収集するにはハードルが高い、とキャメルビーク氏は述べた。CDPは、読者の「開封、クリック、消費行動、彼らが興味を持っているものなどについてのデータ収集に役立ち、より良いパーソナライゼーションを効果的に行うことができる」と同氏は述べた。

メールコンサルティング会社インボックス・コレクティブ(Inbox Collective)を経営するダン・オシンスキー氏は、ニュースレターのパーソナライズには「通常、高度な技術が必要であり、このレベルの技術面への投資はほとんどのニュースルームでは実現できない」と述べている。

[原文:Publishers test personalizing newsletters with varying degrees of success

Sara Guaglione(翻訳:塚本 紺、編集:黒田千聖)

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