東芝劇場、非上場化に一歩前進か:東芝がいかに経営していなかったか

アゴラ 言論プラットフォーム

東芝が再編、非上場化に向けて一歩前進しそうです。日経が特報で再編に向けたパートナー選びに関して第2次入札に進んだグループから日本産業パートナーズに優先交渉権を与えたと報じています。個人的には意外感もありましたが、逆にここしかないかったのかな、という気もしています。

そもそも2次選考に進んだのはこの日本産業パートナーズ、産業革新機構、アメリカのペイン、英国のCVC、カナダのブルックフィールドでした。ところが1次通過後、本来であれば日本産業パートナーズと産業革新機構がタッグマッチを組むはずが仲たがいしたことで産業革新機構がペインと汲み、日本産業パートナーズがCVCと連携したことで実質的に3グループに絞り込まれていました。

東芝HPより 東芝本社

東芝のここまでの迷走ぶりについてはあまりにも複雑怪奇な動きでしたが今年3月に綱川智氏から島田太郎氏にバトンタッチしてから急速に落ち着きを取り戻していました。私は再三このブログで指摘してきましたが、綱川氏が元凶の一人であったと今でも強く思っています。その綱川氏が抜けて当時、手腕が未知数の島田氏がリーダーを取り始めたわけですが、専門誌などを通じて様子を見ていた限りは島田氏は海外の投資家とのコミュニケーションをうまくとりながら方向性を打ち出していたという高評価があったことは事実です。またそれまでの二転三転した流れがほぼ収まったというのも手腕とみてよいでしょう。

さて、では東芝が今回選んだ日本産業パートナーズとの優先交渉権、これをどう見るかです。

このところ、パーパス経営という言葉が経営の中で話題になっています。パーパスとビジョンとミッション、なんのこっちゃと思うでしょう。これ、私が一束で覚えやすく申し上げると、
パーパスを踏まえ、ビジョンを設定し、そのミッションを考える
なんですが、これじゃ、さっぱりわかりません。そこで、更に言葉の置き換えをすると
現在の会社の存在価値(パーパス)を踏まえ、将来の会社のあり方(ビジョン)を設定、その手段(ミッション)を考えるとなります。

私がなぜ、こんなことを東芝の話に持ち出したのか、と言えば東芝は劇場的波乱を何年にもわたり続け、会社を食い物にするハゲタカファンドや株価の上昇だけを求める不健全投機家集団に翻弄されている間に会社の経営がおろそかになってしまったからです。

業績を見ても売り上げは伸びず、利益もぶれる中、ハゲタカ株主の言われるとおり、配当性向だけを引き上げた結果、2019年3月期には一株当たり30円だった配当が23年3月期は290円を見込んでいるのです。約10倍です。おかしいでしょう。東芝がいかに経営していなかったかを物語る一面です。

では、今回、日本産業パートナーズ連合が優先交渉権を得ましたがこれで盤石かといえば個人的には長所短所、織り交ぜた感じでどちらかといえば将来的な不安感が強いのです。

まず、日本産業パートナーズの実力がどれほどあるのか、やや未知数です。というのは2002年にみずほ系のプライベートエクイティファンドとして発足したのですが、2014年に完全独立します。手掛けた案件が少なく、また規模的にも小さいのです。知られたところではソニーのVAIO、NECビックローブなどで、すかいらーくも手掛けていますが、ペインとの共同でした。

その為、今回の買収についても自社で買収資金調達ができないので日本企業に支援を依頼しており、中電、オリックス、JR東海、日生、東レなどの名前が支援軍候補で取りざたされています。私が気に入らないのはここ。つまり、日本産業パートナーズ色が一気に消えて日本の一流企業達が寄ってたかって「ああでもない、こうでもない」とせっかく海外投機家たちからの脱却が出来たとしても骨抜きの企業再生になる可能性があるのです。

もちろん、そこそこには再生できると思います。島田太郎氏も優秀な方のように見受けられますので一定の成果は期待できるのですが、東芝が一定のレベルでよいのか、というのが私のポイントです。つまり、ここまでお騒がせした会社なのですからものすごい逆転満塁ホームランを打ち放ってほしいのです。それには島田氏が氏の能力を十分に発揮できるようなお膳立てをすること、つまり株主が肩に力が入った状態にさせないことが重要だろうとみています。これが果たしてできるのでしょうか?

私の記憶する限り、日本企業連合でまともに成功したケースはなかったと思います。多くが身内の足の引っ張り合いで「『こう配』したけど芽が出ず」というケースが大半だったと思います。何故かといえば私がしばしばここで記するように日本企業文化は「おらが村」であってお隣さんは常にライバル、相手がこういったなら、自分はこういうという奇妙な存在感のアピールをする癖があるのです。要は素直ではない、ということです。

東芝はパーパス経営をもう一度取り戻さねばなりません。東芝がそこに存在し、企業活動を通じてどんな社会貢献が出来ているのか、しっかり見直さねばなりません。その上で、社員に再び夢を与えることも大事です。これがビジョンです。その為の手段を例えば事業再編と称して切り刻んでしまうのが良かったのか、東芝という社風がサザエさん一家のようにしっかりした結びつきを通じて今一度ファミリー形成すべきなのか、です。これは結構、重要な課題で日本産業パートナーズとの交渉に於いて数字やテクニック論ばかりではなく、精神論的な部分をより重視してもらいたいというのが私の願いであります。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2022年10月12日の記事より転載させていただきました。

タイトルとURLをコピーしました