言論の自由とその管理の是非:「コスパ」「タイパ」社会の行く末

アゴラ 言論プラットフォーム

言論の自由とは検閲を受けずに自分の考えや思想を表明することであり、憲法21条では検閲はこれをしてはならない、とあります。では検閲とは何か、といえば国家という公的機関がその内容を調査し、不適切なものを取り締まることを言います。ならば、民間の検閲は可能なのか、という議論については十分になされていないような気もします。

かつてツィッター社がトランプ氏を出禁にしました。同社が「民間検閲」を行い、不適切と判断したものです。ところが同社を買収したマスク氏はその出禁を解禁し、それ以外の数多くの出禁になった人たちにも「恩赦」を与えたとしています。この一連の流れは民間業者であるツィッター社があたかも公的機関の役目である検閲業務を代行していたようにも見え、マスク氏の一連の緩和策を歓迎する向きもあります。

byryo/iStock

では完全自由、好き勝手言いたい放題となる社会を我々は望んでいるのでしょうか?

ほぼすべてのSNSには不適切な投稿や表現があった場合の対策とその報告方法が明示されています。何故か、といえばデマやウソ、誹謗中傷など許容範囲をはるかに超える言論が「自由」を盾に世の中を扇動するからです。その為の民間検閲であり、英語で言うPolicing (治安維持)が存在するわけです。

私がいつも思うのは読み手がどう捉えるか、であります。書き手は意思をもって発信しますが、読み手が書き手の意思をきちんと理解できるとは限らない、このギャップを埋めにくいことがSNSの問題だと思っています。

例えば私のブログはそれなりの文字数で、短文形式のSNSに比べればもう少し丁寧に書いているつもりですが、それでも十分ではない時はあります。当然ながら説明が足りない、と指摘されるわけですが、あまりにも長い文章は今や誰も読まないのです。

このブログが比較的年齢層が高い方々に多く読まれているのは読者の方々に読むチカラがあるからですが、これを20-30代の方に毎日読んでみなさい、と言っても3日と続かないでしょう。今の時代、100-150字程度が限界なのです。下手したらそれだけ短い文章の字間すら読み取れない人だらけなのです。それは忙しい現代社会においてタイトルだけで読んだ気にさせ、まとめ部分しか見なくなったことで結論を急ぐからです。

当然ながら文章を読み込む訓練がされていないので基礎知識も少なく、単語一つの意味も分からないわけです。例えば今年の日経のヒット商品番付の横綱が「コスパとタイパ」になったと報じられています。では、100人の老若男女に聞きました、タイパの意味は?と聞けば正答率は7割以下のような気がします。仮にそうであればヒット番付で横綱というのもあれ?という感じです。人々の基礎知識は非常に落ちてきており、自分の好きな分野しか知識がない、これが現代社会の背景であることをまずは理解すべきでしょう。

その上で言論の自由だ、民主主義のあるべき姿だ、と言われても私は結局、世間を惑わすだけではないか、という気がするのです。

ビジネスの世界ではマーケティングを重視します。それは人々が欲しくなる商品を開発する意味ですが、SNSの世界でマーケティングすればどうなるでしょうか?万人受けして、注目を集める写真や動画をアップすることでしょう。インスタのフォロワーが万人単位の人々が着目するのは「極めの一点」です。かわいい、素敵、きれいと言った感情表現であり、それは特に女性がもつ感性の脳の反応に強く訴えます。私はSNSはもはや感性の世界であり、文字の世界ではない、つまり、言論というより浅い認知行動と反射的反応であると考えています。

10数年以上も前から私は携帯テキストのやりすぎは人間の思考能力を低下させると申し上げました。残念ながらそれは着実に進んでおり、今は文字文化ではなく、絵や動画文化になってしまったです。文字が読めない社会に変質化しつつあるのです。

この読み手の認知力の低下の中でやみくもな言論の自由は危険すぎる、それが私の思うところです。つまり、一定のコントロールは社会を守るだけではなく、マインドコントールされないための絶対不可欠な制御ラインであるとも言えます。

昔の人はそこまで簡単に騙されなかったと思います。今は社会の進化について行けない人たちが簡単に騙されるのです。それを社会は放置してよいとは思えません。いつか、人々の能力の底上げがあればまた別ですが、今はあまりにも稚拙な人々が世界中で増えてきた中で言論の自由は無秩序な社会を生み出す第一歩になりかねない危惧を持っています。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2022年12月12日の記事より転載させていただきました。

タイトルとURLをコピーしました