資生堂 が静かな退職時代に、どのように人材を確保していこうとしているのか?

DIGIDAY

急速に変化するワークライフの性質に対応するため、日本の美容企業である資生堂はさまざまな取り組みを通じて社員の定着戦略を展開している。

この大手化粧品会社は、SHISEIDO+デジタルアカデミー、個人のキャリア開発ワークショップ、海外留学などのプログラムを通じ、グローバルに活躍する忠誠心ある熱心な人材を確保するための教育に力を注いでいる。これは世界経済の激動の10年に備えた、従業員と財務の両面における資生堂の長期戦略の一環である。

SHISEIDO+デジタルアカデミーの目標の中核を成しているのはデジタルとデータのリテラシーを確立することであり、2016年に開始して以来、1万人のグローバル社員が参加している。「私たちの触媒は最大の資産である当社の社員だ」と、資生堂のデジタルトランスフォーメーションオフィスで戦略・教育シニアバイスプレジデントを務めるロクサーヌ・オング氏は語る。「刻々と変化するデジタルの世界を自信をもって乗り切れる人材がいなければ、当社の成功はあり得ない」。

職場は学びながら働く場所

リーバイス(Levi’s)がAIブートキャンプで行っているように、資生堂はデジタル能力のトレーニングのために社員に日常を中断させるのではなく、日常の職場を「学校」ととらえている。それは「学びながら同時に仕事をする場」だという。

優秀な人材を誘い込むのに競争力のある給与があれば十分だった時代は終わった。現在、人々がこれまで以上に求めているのは、柔軟性があり、魅力的で充実した目的のある仕事だ。「企業文化、事業の目的、リーダーシップチームがどの程度刺激的か、志願者は会社のビジョンに非常に注意を払っている」と、語るのは、ディオール(Dior)、ロレアル(L’Oréal)、エスティローダー(Estée Lauder)、クラランス(Clarins)といった美容ブランドと取引のある英国の人材紹介会社ナイジェルライトグループ(Nigel Wright Group)のアソシエイトディレクター、アナベル・ウィーデン氏だ。

この3年間でデジタルアカデミーに対する社員の関心は高まっていると、オング氏は言う。「2020年以降、デジタルアカデミーの受講生は30%増加した。今年はデジタルリテラシーのための新しいプログラムを開始したばかりだが、すでに5000人以上の社員が資格取得のために登録している。パンデミックによって、社員がデジタルの世界を受け入れ、それについて学ぶ必要性をより認識するようになったことは確かだ」。

資生堂は、東京・銀座の本社に2023年にオープン予定の「Shiseido Future University」の設立を9月に発表した。そこでは戦略的思考とリーダーシップに重点を置いたビジネス教育を通じて、人材育成を促進することを約束している。

従業員の福利厚生に力を入れる美容ブランド

従業員を惹きつけるためのクリエイティブな方法を模索している美容企業は、資生堂だけではない。オネストカンパニー(The Honest Company)も社員の教育・育成に力を入れており、1月にペパーダイン大学のグラツィアディオ・ビジネススクール(Graziadio Business School)と提携した。オネストカンパニーの社員とその配偶者は、学位や資格取得のための授業料割引や奨学金、ペパーダイン大学のパートタイムMBAプログラムへの入学保証を受けることができる。

ロレアルは従業員の福利厚生に異なるアプローチを取り、従業員の健康を中心としたスペースとなるように社員と協力して設計したロサンゼルス新本社を8月にオープンした。個人用ウェルネススペース、エクササイズスタジオ、カフェ、ガーデン、ドッグフレンドリーオフィスなどが備わっており、従業員が在宅勤務では得られない体験を作り出している。

人材管理の古いやり方はもはや役に立たない

SHISEIDO+デジタルアカデミーの専用ハブでは、社員は「当社のビジネスや時代にとって関心の高い戦略的なトピック」に焦点を当てたウェビナーやシンクピースなどのリソースを活用できる、とオング氏は述べた。最近では、ソフトウェア開発の原則を人材管理の原則や「ライフイン2030(Life in 2030)」全般の考え方、Web3やメタバースなどに応用したアジャイルピープル(Agile People)のトレーニングがカリキュラムに含まれている。

「私たちの世界が目を見張るようなスピードで動いていることから、(アジャイルピープルプログラムは)非常に重要だ。人材管理の古いやり方はもはや役に立たない」とオング氏は言う。ライフイン2030がそれを強調している。「これは簡単に言うと、つねに未来志向の観点で世界を見るということ。つねに先進的な考え方を養い、いままさに起こっているあらゆる技術の進歩を社員に認識させることが重要なのだ」。

デジタルアカデミーの後、資生堂の社員はアップナレッジ(UpKnowledge)と呼ばれる、デジタルとテクノロジーのリテラシーを学ぶプログラムへと進む。そこでは、eコマースやオムニチャネルコマース、ソーシャルメディア、ブロックチェーン、AI、クラウドコンピューティング、オートメーションなどのトピックを扱う。アップナレッジプログラムの後、社員は資生堂のアップスキル(UpSkill)プログラムに進み、UXデザイン、データおよび分析、人工知能、オムニチャネルマーケティングなどの具体的なスキルを学ぶことができる。資生堂は昨年、ITコンサルタント会社のアクセンチュア(Accenture)と提携し、約250の追加リソースの展開を加速させた。

資生堂のリーダーたちは、この種のプログラムを完了することが、従業員の社内でのキャリアアップにつながると考えている。この取り組みの投資対効果は「以前より速く、よく、賢い」人材である。また、資生堂のエコシステムのなかに社員を維持することは、不満のある社員を入れ替えるよりもコストがかからない。「当社は社員の入れ替えや再雇用よりも、スキルアップが重要だと考えている」とオング氏は言う。「コストと効率の観点から正しい方法で知識とスキルのギャップを埋めることは、社員を新たな社員に入れ替えるよりもはるかに破壊的ではなく、コスト効率がよい」。

働き方が大きく変化したいま、人材確保のために企業がすべきこと

私たちの働き方の定義、仕事との関わり方や情熱は流動的な状態になっている。2021年のパンデミックの最中、「大量離職時代(The Great Resignation)」と呼ばれたように、約4700万人の米国人労働者が仕事を辞めたと米国労働統計局は報告している。今年はパンデミック前のハッスル文化への対応として、静かに辞めるという現象(自分の仕事の内容に基づいて境界線を設定する)が時代精神に波及している。一方、ハイブリッドや完全なリモートワークの文化は、私たちのキャリアをかつてないほどオンラインに押し上げ、今後もそこに留まると思われる。

多くの企業にとって、人材を惹きつけて維持することがかつてないほど難しくなっている。マイクロソフト(Microsoft)の2022年ワークトレンド指数年次報告(Work Trend Index Annual Report)によると、ミレニアル世代とZ世代の労働者の52%が転職を検討しているようだ。また同じくミレニアル世代とZ世代では、ハイブリッド型勤務の従業員の51%が来年には完全リモート勤務に移行する可能性があると回答している。

ウィーデン氏は、資生堂のような従業員維持プログラムが、美容業界やそれ以外の業界でますます標準的になっていくだろうと話す。「より多くの企業がこのような戦略を取り入れるようになれば、それが候補者層から期待されていることとして標準になるだろう」と彼女は言う。

静かな退職現象に対処するには、教育やスキルアップを通じて従業員を惹きつけ、サポートすることが、企業が模索する貴重な手段だと思われる。これは人材への幅広い投資とともに、従業員の貴重なスキルアップを支援しながら将来的な労働力の確保に役立つ可能性がある。

「組織を成長させるためには意欲的で献身的な従業員が必要だというのが、シニアリーダーにとっての現実だ」とウィーデン氏。「人材を獲得する競争はますます激化しているため、人材プールは例外なくより大きな力を持っている。私たちは今、これまで経験したことのない状況にいる」。

[原文:How Shiseido is retaining talent in the age of quiet quitting]

MEGAN DOYLE(翻訳:Maya Kishida 編集:山岸祐加子)

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