ロシア脱走兵の証言:軍は兵士に何のために戦うのかさえ知らせず

アゴラ 言論プラットフォーム

独週刊誌シュピーゲル最新号(10月1日号)は1人のロシア脱走兵の話を掲載している。34歳のPawel F氏はウクライナの戦線で戦い、目を負傷、モスクワに戻り、治療期間中、部隊で体験したロシア軍の内情をブログで書き、ソーシャルネットワークなどに掲載したが、治安当局にマークされ、拘束される危険が出てきた時、人権団体の支援を受け、ロシアを脱出することを決意し、チュ二ジア経由で8月28日、フランスのパリに政治亡命した。

部分的動員令を発するロシアのプーチン大統領(2022年9月21日、クレムリン公式サイトから)

父親も兵士だったという家庭で育ったFは18歳に軍に入り、落下傘部隊に所属。その後軍からいったん離れたが、金が必要となったこともあって昨年、軍に再入隊した。そして運命の今年2月24日を迎えるわけだ。

軍からは「これから69ドル追加手当が支給される」といわれた。そして急遽クリミア半島に集結した。軍上司はこれからどこに行き、誰と戦うのかを言わなかった。そして2月24日、Fの部隊はウクライナ南部の湾岸都市ヘルソンに侵攻、そしてさらに北西部に侵攻した。

Fは敵が襲ってくるだろうと考えていたが、ウクライナ側の兵士たちはロシア軍の突然の出現に戸惑っていた。Fは、「その時になってわれわれはウクライナ軍と戦っているのだと分かった。同時に、われわれはウクライナ軍の攻撃からロシアを守るのではなく、われわれがウクライナに侵攻したのだという事実を知った」という。

Fは141ページに及ぶ体験談をまとめたが、その中で「ロシア軍は何のために戦うのかさえ知らせず、食料や寝袋も十分ではなかった。多くの兵士は疲れ切って、戦闘中に眠り込む者も出てきた。軍の車両はある時、長時間停止。軍上司も明確な戦略などもちあわせていなかった」という。

ロシアでは軍の評判を落とすような情報を外部に流せば、最長15年の刑罰を受ける。ロシア軍内ではウクライナでの戦いを「戦争」と呼んではならず、「特別軍事行動」と呼んでいたという。

Fは亡命先のフランスで、「ロシア人にとってもウクライナ人にとっても意味のない戦争は直ぐに止めるべきだ。自分は家庭も子供もいないから、自分の良心の声に従って、ロシア軍の真実の姿を可能な限りロシア国民に伝えていきたい」という。

プーチン氏が9月21日、約30万人の予備兵の部分的動員を発令して以来、招集される予備兵のロシア人や多くの国民が国外に脱出している。同時に、国内では部分的動員令に抗議するデモが起きている。国民の間で動揺が広がってきたことを懸念したプーチン大統領は5日、2週間前に発令した部分動員令を修正している。私立大学に在籍する学生や特定の大学院生を含む一部の学生の動員を停止するという内容だ。部分的動員令を受け、多くの学生たちが動揺し、徴兵を逃れるために国外に脱出する者が出てきたからだ。なお、ロシア国防省によると、召集予定の予備兵30万人のうち、既に3分の2が召集されたという。

ロシア軍がウクライナに侵攻して以来、多くのウクライナ国民が犠牲となり、西側に避難する国民が絶えないが、プーチン大統領の部分的動員令以来、今度はロシアで息子や父親と別れを告げる家庭が増え、戦争による悲劇はロシア国内に広がってきている。

国営タス通信は5日、「ロシアでは、薬局での抗うつ剤の販売が最近大幅に増加している。9月19日から25日までの1週間で、売上高が120%増加した」と指摘、化学会社DSMの数値を引用して報告している。ロシアでは2月24日のウクライナ戦争勃発後、国民が抗うつ剤、睡眠薬、精神安定剤を購入する件数が増えてきていたが、その需要がここにきて大幅に増加してきたというわけだ。ロシアではヨーロッパ諸国で処方箋が必要な多くの医薬品は薬局で簡単に購入できる。

プーチン大統領が2月24日、ロシア軍をウクライナに侵攻させて以来、ウクライナ国民だけではなく、もはやロシア国民も安眠できなくなってきているのだ。

4州併合を支持するコンサートでのプーチン大統領 クレムリン公式サイトより


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2022年10月7日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。

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