手放しで喜べない総合経済対策:コロナ対策と銘打ったポピュリズム

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岸田首相が所信表明演説で総合経済対策を打ち出しています。その規模が30兆円という検討もなされているようです。一部からはコロナ対策と銘打ったポピュリズムの常態化ではないかと指摘があります。今日はこの辺りを見ていきたいと思います。

所信表明演説をする岸田首相 首相官邸HPより

私が運営する東京のシェアハウスとサービスアパートメントは満室状態でそれでも問い合わせが止まりません。そこで実験的に通常の賃貸アパートが一室だけ残っているのでそれをサービスアパートメントに切り替えようと考えています。

この取り組み、たった一部屋なので大したインパクトはないのですが、潜在的には極めて意味があることなのです。一般的なアパートは不動産屋に媒介してもらいます。しかも他の不動産屋が絡んだ場合、2倍の手数料を請求されます。つまり2か月分の家賃です。理不尽ですよね。一方、サービスアパートメントは完全に外国人向けで自分でマーケティングできますので手数料はかかりません。また、家具付きで光熱費WiFi込みですから賃料は上乗せ出来ます。その上乗せ幅は概ね賃料の2-3割増しぐらいですが外国人は喜んで借りていきます。理由は円安と日本の不動産は異様に安いので彼らの物価水準からすれば驚くべき安価だからです。

とすれば大家は得する、旧態依然の不動産屋は儲からないという構図なのですが、それにとどまりません。日本人の賃借需要を満たすのには賃料上昇を受け入れるか、外国人が入らない物件しか残っていないことになるのです。特に若者に人気のシェアハウスの需要が引き締まっているので安い賃料目当ての日本人の住処探しが厳しい状況になっている公算があります。

この秋の引っ越しシーズンの動向を見ていると日本人の引き合いもコロナ明け感があって多かったのですが何軒も見て比べ過ぎて決めきらないうちに外国人がどんどん決めていく、そんな感じでした。

ではこの先どうなるでしょうか?実は今はまだ中国と韓国人の学生など中期滞在者が入ってきていないのです。この人たちが来はじめると市場は争奪戦になってしまいます。なので来年春は相当タイトになる、これが私の実業をしている限りの感覚です。

岸田首相は訪日外国人で年5兆円の旅行消費を目指すとあります。これは物価水準が違う外国人にとって天国ですから非常に強い需要喚起になりますが、日本人が取り残されるリスクがあるということです。もちろん、トリクルダウンではないですが、マネーは循環しますので最終的には日本全体が潤うとは思います。ただ、この場合、潤いやすいのは個人事業主でお勤めの方は忙しいばかりで給与はちっとも上がらないというのが日本の典型的ケースが生じそうです。つまり個人事業主は景気動向に非常に影響をうけやすく、コロナで苦しんだ半面、コロナ前のようなが事態になれば急速な改善が見込まれる業種もあります。

昨日、コロナ期の無担保政府保証ローンが日本経済に爆弾になりかねないと申し上げましたが、本当に手助けになった事業主への無担保ローンは問題ないのです。頭痛の種はもらうだけもらってトンずらや事業閉鎖のケースでこれが思った以上に多いとみています。ゾンビが3年ぐらい延命したようなものです。これが倒産件数や自主廃業の増加傾向の理由ですが、マスコミが変な形で騒ぐ方が怖いかもしれません。

F3al2/iStock

今回、総合経済対策の案が出てきた一つの理由が需給ギャップです。4-6月期で15兆円の需要不足と出ています。金額で見ると大きいのですが、計算式である(総需要-総供給)÷総需要でみるとマイナス2%台で回復基調を辿っています。外国人の入国緩和が反映され始めるとこのギャップは更に少なくなり、来年春には対策を打たずに自律でもプラス転換できそうです。故に一部専門家から「経済対策、本当に必要なのか?」と声が出ているわけです。

日本のインフレ率は8月分が総合が3.0%、コアが2.8%、コアコアが1.6%です。これは生鮮食料品が前年比8.1%、水道光熱費が15.6%上がったことがキーとなってます。日銀はこのコアを気にしているのだと思いますが、今のトレンドからすると年末には2%に乗せ、来春に2.5%ぐらいになるテンポです。とすればここは需給ギャップを埋めようと消費を喚起するより長期的視点に立った経済強靭化計画に注力すべきかと思います。

この強靭化は物理的な災害対策や少子高齢化対策もありますが、産業構造の変化に伴う労働力のシフトと次世代の産業育成の推進だと考えています。今、政府がやろうとしている総合経済対策はバラエティ番組のような内容ですが、どうしても目先の需給に囚われてしまっている感があります。

政府はもう少し大所高所から経済を見る、10年先を俯瞰する感じで対策を進めてもらうべきではないかと思っています。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2022年10月4日の記事より転載させていただきました。

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