エナドリブランド G FUEL 、インフルエンサー大量離反の裏側:「有害な文化のブランドコミュニティに属したくはない」

DIGIDAY

2022年6月16日、ゲーミング・eスポーツ用エナジードリンクブランドのGフューエル(G FUEL)がインフルエンサーマーケティングを担当していたタレントマネージャー7人を解雇した。その前日、解雇された7人のうち5人が人事部に報告をあげている。CEOが会議中に、すでに同社を辞めた者も含め、従業員について暴言を吐いたというのだ。

Gフューエル元社員らによると、その暴言で現場の我慢は限界を超えたという。実はそれまでも数カ月間にわたり、経営陣の目に余る言動が続いていた。パワハラや縁故採用、不適切な行為におよんだと彼らは話す。

こうした指摘は、米DIGIDAYが聞いた現社員・元社員11人の話とも一致する。その多くは匿名を条件に話してくれたが、これはeスポーツ関連業界が比較的狭い世界であり、口外することで今後の職探しに悪影響が危惧されるからだ。Gフューエル広報担当マーク・ボトニック氏にコメントを求めたところ、当該社員の解雇は部門再編の一環であり、「能力不足」がその理由だという。なかには、退職金として給与6週間分が支給されている社員もいる(編注:本稿を担当した米DIGIDAY記者のAlexander Leeは、2019年から2020年にフリーランスとしてGフューエル関連記事を複数執筆してきた)。

今回の集団解雇は、Gフューエルの事業に小さくない波及効果をもたらしている。同社には、製品の宣伝と引き換えに毎月報酬や手数料が支払われているパートナークリエーターがいるが、このニュースが発表されてからというもの、75を超えるパートナークリエーターがGフューエルとの関係を断ち切った。マネージャーをGフューエルの顔として捉えていた彼らは、会社の対応に抗議したのだ。「私にとってはパートナーマネージャーがGフューエルそのものだ」。そう話すのはストリーマーのネイサン・ケイズ・バーデン氏である。今回の人事騒動でGフューエルとのパートナーシップを解消した一人だ。「Gフューエルもパートナーマネージャーも、私にとっては同じ」。

今回の離反が与える影響

これまでも、大事にならずに何とか問題を切り抜けたeスポーツ企業はあった。しかし、タレントマネージャー解雇でGフューエルへの風当たりが強くなり、ブランド力の低下が危惧される。というのも、特にこの業界は絆が堅く、ブランドに対する消費者の意見が有名な個人インフルエンサーの見解に大きく左右される傾向が強いからだ。

業界関係者のなかには、マーケティングのタイミングの悪さをGフューエルの企業文化と結びつけた人たちもいる。彼ら曰く、ちょうど解雇と同時期、Gフューエルとマーベル・スタジオが協働で、女性のエンパワメントを謳う映画「ソー:ラブ&サンダー(Thor: Love and Thunder)」を中心にしたキャンペーンを展開していたという。

「現在、その製品はローンチされているものの、ストリーミングパートナーらはGフューエルから距離を置いている。さらに、自分たちの女性パートナーマネージャーが解雇された今、どうすればよいのかを尋ねても同社から回答をもらえない状況が続き、その様子をスクリーンショットで公開している」。そう話すのはSNSエージェンシー、ザ・ソーシャル・エレメント(The Social Element)で戦略担当ディレクターを務めるマイケル・バッグス氏だ。

「今後、ブランド各社がゲーミングコミュニティに精通したパートナーを探そうとすれば、どうしても今回のGフューエルを取り巻く騒動は避けて通れず、『本当にこのコミュニティに入って効果があるのか』と自問自答をすることになるだろう」。なお、解雇された7人のうち3人は女性で、Gフューエルとの決別を選択した75人余りのパートナークリエーターのうち少なくとも34人は女性である。

ゲーミング・eスポーツ界における存在感が低下

2012年創業のGフューエルは、ニューヨーク州のロングアイランドにあるホーポージという静かな村に本社がある。現在は大半の社員がリモートワークで出社していない。株式非公開の飲料メーカーである同社は、これまでも物議を醸してきた。たとえばユーチューバーのダニエル・キーム氏(ハンドルネーム:キームスター[Keemstar])のスポンサーになったこともある。同氏はたびたび人種差別と女性差別で非難されていたが、何年にもわたり集客力のあるパートナーだった。

しかし、2020年にあるユーチューバーの自殺を食い物にしたことで非難が殺到し、スポンサー契約を打ち切っている。「キームスターの行動は当社の価値観と相容れなかった」と広報のボトニック氏は話す。「彼とのパートナーシップ契約は、合意のもと終了に至った」。2020年にはそれ以前に、カーボンフットプリントが高いとファンから苦情が相次いでいたNFTプロジェクトからも手を引いている。

2019年、Gフューエルの所有者であるCEOクリフ・モーガン氏はTwitterで、ある有名なTwitchストリーマーを「嘘つき女(本稿では控えめな表現としている)」呼ばわりし、炎上している。問題が生じても、経営に悪影響を及ぼすことはあってもほとんどない。少なくとも決算報告書上では。実際、同社は2016年から2021年にかけて6年連続増収で、特に2017年と2019年を比較すると119%の増益を記録している。

しかしながらここにきて、Gフューエルは無敵とはいかなくなってきたようだ。上記決算報告に関連した2021年3月の記者発表以降、Gフューエルは収益に関する情報を一切公表していない。

NFLのクォーターバック、カート・ベンカート氏をはじめとする著名なクリエーターパートナーは、集団解雇の実態を知るとGフューエルから離れていった。その結果、ゲーミング・eスポーツのデータプラットフォームGEEIQによると、Gフューエルのマーケティング戦略の屋台骨であるGフューエルのSNS総フォロワー数は、この数カ月で5000万人以上減少しているという。GEEIQのCEOチャールズ・ハンブロ氏はこう話した。「そのデータから明らかなのは、この6カ月間のパートナー契約数減少に伴い、ゲーミング・eスポーツ界におけるGフューエルの存在感が低下している点だ」。

GフューエルのSNSフォロワー数は依然として、フュージョン・エナジー・ドリンク(Fusion Energy Drink)やマウンテン・デュー・ゲーム・フューエル(Mountain Dew Game Fuel)のような競合他社をはるかに上回っている。しかしながらGEEIQによると、こうしたライバル各社はそれぞれ、しっかりとした地盤を築き始めているという。

「有害」な企業文化の内幕

解雇された7人の社員は皆、Gフューエルのタレントマネジメント部門のメンバーで、大勢の有償インフルエンサーの連絡係として働いていた。こうしたインフルエンサーは、毎月報酬や手数料を受け取る代わりに、自分のストリーミングやSNSでエナジードリンクを宣伝するよう契約している。

Gフューエルのパートナーにはフェーリックス・シェルベリ氏(ハンドルネーム:ピューディパイ[PewDiePie])やフェリックス・レンゲル氏(ハンドルネーム:エックスキューシー[xQc])のような大物も名前を連ね、一般的なフレーバーのほかに、パートナー独自のオリジナルフレーバーも用意していた。米DIGIDAYの情報源によると、その報酬は毎月数万ドル(数百万円)におよぶという。

「YouTubeやTwitchやどこでも幅広く展開し、がっちり稼がせてもらっていた」。そう話すのは、コンテンツクリエーターのジョセフ・ラフランス氏(ハンドルネーム:デモンジョー[demonjoe])だ。Gフューエルの社内方針の変更を知り、同社との契約を打ち切った。「相当な金額を逃したことになる」。同氏が米DIGIDAYに話した内容によると、契約終了にあたり、Gフューエルからは罰則や抗議が一切提示されなかった。しかし、提出しなければならない山ほどある書類が「頭痛の種」で、1週間にわたり格闘しなければならなかったという。

今回の人事は、Gフューエルのタレント部門とCEOモーガン氏との会議のあとに下されたものだ。会議は定例のビデオ会議で、モーガン氏が会議中幾度となく、売上減少はタレントマネージャーのせいだと非難し、すでに解雇した社員らを名指しして「のろまなゲス野郎」と罵った。さらに、その会議では出席者も「クズ」呼ばわりし、もっと仕事に力を入れるようプレッシャーをかけた。その会議に出席していた複数の元社員の話によると、CEOは「これでもう誰も解雇されることはないだろう」と言い放って閉会にしたという。

その会議の出席者のうち5人がその会議の内容を人事部へ個別に告発すると、全員が解雇された。さらには、会議に出席していたものの、人事部には何も言わなかった2人の社員も解雇の対象になった。「『構造改革』という言葉が連呼されていた」と元社員の1人が教えてくれた。

確かに社員が人事に告発したのは、モーガン氏が出席したその会議がきっかけだったが、元社員が米DIGIDAYに明かした話では、モーガン氏の悪態はいつものことで、ほかの場面でも相手を見下した言葉を使っていたという。広報担当のボトニック氏はその件に関してコメントを求められると、CEOは部下に対して変化に富んだ言葉を使うと認めたものの、前述の「のろまなゲス野郎」のような暴言は社員の業務全般について表現したものであって、決して特定の社員を侮辱するものではない、と述べた。

問題行動続きだったGフューエル

モーガン氏の問題行動は、少なくとも例の問題ツイートが書かれた2019年から世間の知るところになったが、Gフューエルが発表した数字をみる限り、こうした情報は同社の収益やブランドパートナーシップにほとんど悪影響を与えていないようだ。

Gフューエルで問題行動を起こした役員はモーガン氏だけではない。複数の元社員が指摘したのが、マーケティング運用およびタレントマネジメント担当バイスプレジデントのロブ・クリグマン氏だ。同氏は、女性インフルエンサーの外見に関する不適切な発言と、経営幹部に対するセクハラで告発されているという。Gフューエルは第三者機関である法律事務所のウエスターマン・ボール・エーダラー・ミラー・ザッカー&シャーフスタインLLP(Westerman Ball Ederer Miller Zucker & Sharfstein, LLP)に同件の調査を依頼したところ、セクハラは訴えたところでメリットがないことがわかったと広報のボトニック氏は話す。「ロブ・クリグマンは、そんな言葉は使ったことがないと激しく否定した」。米DIGIDAYはクリグマン氏に繰り返しコメントを求めたが、回答はまだない。

さらに元社員は、縁故採用が労働環境を悪化させていると口を揃える。一般社員が幹部に不満をぶつけにくくなるというのだ。たとえばモーガン氏の妻と娘はカスタマーサービスに携わり、顧問弁護士は人事部の責任者と結婚している。「組織内に経営陣の親類縁者が働いている企業は多い。ほかの企業同様、当社も問題が生じないように対策を取っており、直接下からの訴えを聞く役職に、幹部の身内を配置していない」とボトニック氏は話す。

Gフューエル元社員たちが最も不快に感じているのは、おそらく2021年7月26日のビデオ会議での出来事だろう。米DIGIDAYも会議の録画を確認したが、毎週実施される参加者40人のマーケティング定例会議で、シャワーを浴びながら出席していた同社経営幹部の臀部がたまたま露出してしまったというものだ。

「私はそのビデオ会議に10分ほど出席していた。役員はスマホをシャワー室の床に置いて、音声だけで会議に参加していたが、突然カメラがオンになった。どうやってオンになったのか、一体なぜなのかは私にはわからない――でも、とにかく参加者のひとりがその役員に、カメラのスイッチを切るように叫びかけた……役員は泡まみれだったが、お尻は丸見えだった」と匿名の元社員が話してくれた。

最近CNNザ・ビリーバー(The Believer)といったメディア企業でも、同様の事態が大きな問題になっているが、それにも関わらず、Gフューエルは会社自体も当該役員も、事件について社員には説明や謝罪を一切行っていない。米DIGIDAYは役員本人にコメントを求めたが、問い合わせはすべて同社最高総務責任者兼顧問弁護士のラケル・コルビー氏にまわされ、さらに同氏からはボトニック氏に連絡をするように指示された。ボトニック氏は本件を認めたが、会議終了後、人事部に公式の抗議を表明した従業員はいなかったと述べるにとどまった。

安全なブランドであるというお墨付き

パートナーシップに多くの問題を抱えているうえに、役員が道徳心に欠ける行動を取ったとなれば、Gフューエルが必ずしも、ゲーミング・eスポーツ界の有望なパートナーにとって魅力的で健全なブランドとは限らなくなる。それでもなお、このエナジードリンク会社は、eスポーツ界に特化したエンデミックな超有名企業として名を馳せ続けている。

注目のeスポーツチームともパートナーシップを結び、直近では2022年4月にセンティネルズ(Sentinels)と契約を交わしている。それに、多くのストリーマーやユーチューバーにとってはおなじみのブランドであることは変わらない。しかし、その彼らとGフューエルの関係を結びつけていたのは解雇されたタレントマネージャーたちなのだ。

「私たちのチームは、Gフューエルをふざけた話やいろいろな問題から守る楯のようなものだった。クリエーターの契約内容には忠実に対応していたけれど」と元社員は話す。また、タレントマネージャーのなかには、四半期で100万ドル(約1億3000万円)を超える売上を達成する人もいたが、そうしたマネージャーでも、企業内の評価やパートナーシップの基準では具体的な数字が出せなかったと複数の元社員が明らかにした。ボトニック氏に具体的な数字を尋ねたものの、Gフューエルの決算に関しては回答を断られた。

これまでGフューエルの顔としてにこやかに対応してくれていたタレントマネージャー7人がもういないとなると、これまで隠れていたブランドの安全性の問題が明らかになるに違いない。

たとえばGフューエルの役員は社会正義の問題には及び腰だ。実のところ、これまでSNSでフェミニズムやLGBTQの主張に支持を表明してきたが、それはすべてタレントマネージャーら中間管理職の働きがあったからだという。

「そもそもGフューエルは、ゲーミング・eスポーツ業界を二分するような、政治的立場や白黒はっきりした意見を示したがらない」と別の匿名希望元社員が話す。「それが本当の姿なのだ」。

「秘密」が多いゲーミング・eスポーツ界のブランド

公にされたくない秘密を抱えているゲーミング・eスポーツ界のエンデミックブランドはGフューエルだけではない。2022年8月に上場した人気のeスポーツ組織フェイズ・クラン(FaZe Clan)は依然として、会員間の同性愛嫌悪や女性蔑視といった問題で悪戦苦闘している。結果を出せるようになるには、どうやら業界全体の文化が変わらなければならないようだ。エナジードリンク企業1社が変わるだけではとても足りない。

不況とはいえ、非エンデミックブランド各社は、ゲーミング・eスポーツ企業とのパートナーシップ構築の勢いを緩める様子はない。しかしながら、こうして明るみにでたGフューエルの悪しき労働文化は、この業界の奥に難しい問題が潜んでいることを示す最新のニュースにすぎないのだ。

たとえばアクティビジョン・ブリザード(Activision Blizzard)の場合、2021年に性差別を助長する企業文化が公表されると、同社のブランドパートナーは次々と離れていった。最近の事例では、オーバーウォッチ・リーグ(Overwatch League)が大きなスポンサーを失っている。ブランド各社がゲーミングパートナー選定で徹底的に調査し、マーケティング予算の割り振りも慎重になっているので、Gフューエルのような企業はこのままでは苦境に立たされるだろう。

「ブランドにしてみれば、『この企業と組めば間違いない』、『調査も徹底的に行なった』、『相手がどんな企業なのか熟知している』、『リスクの可能性も報酬の規模も承知している』といった状態でなければならないだろう」と先述のSNSエージェンシーのバッグス氏は話す。「ほかのブランドも取引しているから、うちもそうしよう、『オーディエンスも大勢いるから大丈夫』というわけにはいかない」。

「この出来事がすぐに忘れられることはない」

Gフューエルの集団解雇から2カ月が過ぎたが、当事者は当時の成り行きを決して忘れていないという。解雇されたタレントマネージャーらは今後もこの業界で働く予定だ。多くはすでに他のエンデミック企業で新しい仕事に就いている。また、彼らとともに働いたタレントは、これからも彼らと一緒にコミュニティとファンを構築していく。

解雇されたマネージャーがこれからもこの業界に残るのであれば、この出来事がすぐに忘れられることはないだろう。

「私自身だけでなく、ほかにも、Gフューエルがまだ口をつぐんだままであることに非常に失望している人たちはいる。まだ何の声明も出されていなければ、そうした類のものさえ一切出されていない」。そう話すのは、今回の人事を知り、Gフューエルとの契約を終了した別のパートナー、スタリオン(Stallion)だ。「非常に忌々しき事態であり、Gフューエルの価値観がどのようなものなのかが如実に反映されていると私は思う」。

[原文:How G Fuel’s toxic working environment made the energy drink brand’s influencer marketers jump ship

Alexander Lee(翻訳:SI Japan、編集:分島翔平)

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