ブランドが NFT に参入することはもう遅すぎるのか?

DIGIDAY

レベッカミンコフ(Rebecca Minkof)を創業したレベッカ・ミンコフ氏やチャーリーコーエン(Charlie Cohen)の創業者、チャーリー・コーエン氏らファッション専門家やデザイナーたちによるとWeb3環境へのブランドの進出は始まったばかりだという。彼らにとっては、いまこそ投資や雇用、製品の構築、Web3コミュニティの理解にフォーカスすべきときでなのである。

低迷の仮想通貨市場のブランドへのメリットとは?

仮装通貨市場は、今年になってすでに2回暴落している。5月には暗号トークン、テラルナ(Terra Luna)の崩壊により市場から5000億ドル(約67兆円)が消えた。不況のニュースの中6月には2度目の暴落が起こり、仮装通貨が30%下落。しかし、ファッションブランドのリーダーの多くはこの下落がNFTから手を引く理由だとは考えていない。むしろ全力で取り組み、クリプトネイティブの新規層を対象に彼らの興味に合わせた製品を構築する時期であると捉えている。

「仮想通貨市場は急落している。だが、これが実際に意味するのは、仮想通貨がビジネスの価値提案に利益をもたらし長期的なアプローチとしてビジネスにメリットがあるかを確認するために、市場に参入してテスト予算を試すためのコストが低いということだ」と述べているのは、ロンドン拠点のスニーカーマーケットプレイス、エディットLDN(The Edit LDN)の創業者兼CEOのモーゼス・ラシッド氏だ。同社は、仮想通貨ワールドプラットフォームのブロックトピア(Bloktopia)とのメタバース統合計画を開始したところで、2022年6月に仮想通貨が使用できるスニーカーのグローバル再販マーケットプレイスの第1号となった。

スニーカー再販サイトのなかで、エディットLDNはレアなスタイルにフォーカスしたもっともハイエンドな品揃えを提供する1社である。ハロッズ(Harrods)との長期にわたるショップインショップはカイリー・ジェンナー氏をはじめ、セレブの注目を浴びている。また、ブロックトピアと協働してメタバース第1号店を準備中で、11月にローンチ予定。来年に向けてデジタルコレクターズアイテムをテストして戦略を立ててもいる最中だ。

メタバース担当チームの雇用と開発

参入するブランドらはメタバースにおけるアイデンティティの開発に取り組んでおり、雇用にも注力している。今年3月以降、メタバース担当マネージャーやコーディネーターの求人がナイキ(Nike)、グッチ(Gucci)、バレンシアガ(Balenciaga)ら大手ブランドから掲載されており、コーエン氏はDiscord(ディスコード)コーディネーターやコミュニティ開発者を募集するのにも良い時期だと述べている。「チームを構築できるのはこの数カ月で市場が少々下落したことの利点のひとつだ。製品モードに注力していたので、状況は我々に有利に働いた」。コーエン氏はファッションブランドのチャーリーコーエンを創業。同ブランドは昨年セルフリッジズ(Selfridges)とポケモン(Pokemon)とのコラボを行った。同氏は2020年にデジタルファッションレーベル兼メタバースプラットフォームのRSTLSS(レストレス)を立ち上げた。RSTLSSはメタバース担当チームの開発のためにこの3カ月で5人の社員を採用している。

「状況が落ち着いたいま、従来のファッションブランドがFOMO(Fear Of Missing Out:取り残されることへの不安)のプレッシャーなしに、時間をかけてコミュニティを理解してコミュニティに統合できるのは良いことだ」とコーエン氏。「ブランドにとっていまはリサーチを行い、メタバース文化を理解するためにDiscord(ディスコード)やTwitterへの参入を専門に担当する人々を雇用するのに注力すべきときだ」。

市場が急落しているあいだ、時間をかけて専用製品を開発し、この分野への投資に注力している企業もある。RSTLSSは3月にエンジェル投資家のパリス・ヒルトン氏とトゥイッチ(Twitch)の共同創業者であるケビン・リン氏が支援するシードラウンドで350万ドル(約47億円)を調達した。コーエン氏は現在別のラウンドでの資金調達の準備をしているところである。3月の投資は、チームを拡大し、市場投入に向けた製品戦略を改善するために費やされた。「投資分野はかなり静かになっている。構築中の製品の価値の正当性を投資家に説明するためにやるべきことはいろいろあるが、投資分野ははるかに落ち着いている」。

エディットLDNは投資誘致にも注力しており、8月8日にはクラウドソーシングプラットフォームのクラウドキューブ(CrowdCube)で顧客に少数株式投資の機会を提供した。ローンチから24時間以内に目標額を超える資金が集まった。

レベッカ・ミンコフ氏のNFTに対する考え

一方、レベッカ・ミンコフ氏は、2021年9月にNFTコレクションをローンチし、NFTコレクションを発表した初のアメリカ女性ファッションデザイナーとなった。同氏によると、この2カ月でNFTに対する態度は変化して、よりカスタマイズされたプロジェクトに移行しつつあるという。「(ブランドにとって)チャンスは間違いなく存在する。あらゆることをもっと慎重に検討しなければならない。もっと手頃な価格ではない限り、NFTを1万点まとめて売るという時代はいまのところ終わったのかもしれない。ブランドは真にクリエイティブでなければならず、自社を過大評価してはならない」。

ミンコフ氏は、7月のラコステ(Lacoste)のNFTローンチは、同社が主なマーケティングプラットフォームとしてDiscordを使っているおかげでNFTコミュニティを惹きつけたと述べている。現在、ラコステのDiscordユーザーらはラコステが計画しているPFP(ProFile Picture)NFTの外見について検討しているところである。

コーエン氏は次のように述べている。「PFPプロジェクトは、NFTの使い方に関してもっとも基本的なレベルのコンセプトが実証されたものだ。だが、ブランドが関与できるNFTはほかにもいろいろある」。

ブランドが基本に戻るべきとき

アク(Aku)やアズキ(Azuki)のようなネイティブNFT企業もこの分野の進歩を目撃している。2021年2月にローンチしたアクの宇宙飛行士のNFTは、7月のメタバース関連特集のタイム誌の表紙に取り上げられた。また、同社は8月4日、ストリートウェアブランドのペーパープレインズ(Paper Planes)とのメタバースファッションコラボをローンチした。

アクの社長兼共同創業者であるサマー・ワトソン氏は、ブランドの参入はまだ初期段階だというのが業界での最大の決まり文句だと言う。「手軽で手っ取り早いことをしたいなら確かに今は手遅れだ。昨年には、どんなブランドが何をやっても成功したり、何でもほとんどうまくいくような時期があった」。

同氏によると、いまこそ基本に立ち返り、ブランドとオーディエンスにとって意味があることは何かを考えるときだという。「ファッション業界ほどクリエイティブな業界や人々はほかにない。あえて言えば、今こそブランドが『どうやってインパクトをもたらすか』と自問自答する絶好の機会だ」。

既存のオーディエンスをメタバースに取り込むために必要なこと

ワトソン氏が注目したプロジェクトのひとつには、8月1日に初のNFTとなる「NFTiff」を発表したラグジュアリージュエリーブランド、ティファニー(Tiffany & Co.)がある。これにより、NFTプロジェクトのクリプトパンク(CryptoPunk)を持つ人々にはプロフィール写真NFTの物理的なネックレスのコピーを購入するアクセスが与えられた。ワトソン氏いわく、「ティファニーが成功させたように既存のオーディエンスに対して実施する場合には、既存のオーディエンスは誰で、彼らが持っているものは何か、彼らが気にかけていることは何かを考えるべきだ」。

コーエン氏とワトソン氏の両氏は、NFTに関しては今後数年間でもっと相互運用可能なプラットフォームを使ってユーザーエクスペリエンスを構築し、主流のオーディエンスを取り込むことがブランドの重要な焦点になると述べている。「オーディエンスを仮想通貨に取り込みたいなら、それを支援するために何を行うかが重要だ。なぜなら、それはユーザーエクスペリエンスの大きな課題だからだ」とワトソン氏。

コーエン氏は次のように述べている。「少なくとも今後数年間は主流オーディエンスを仮想通貨分野に参加させるのは非常に遅いプロセスになるだろう」。

仮想通貨はまだ急落しているが、ブランドはWeb3やNFTを短期的なトレンドとして捉えるのではなく、長期的な取り組みとしてフォーカスすべきであるという点で両氏の意見は一致している。

[原文:Is it too late for brands to get into NFTs?

ZOFIA ZWIEGLINSKA(翻訳:ぬえよしこ、編集:山岸祐加子)

Source