火星探査機「パーサヴィアランス」などが着陸し、懸命な調査が行われている火星。「人類が生息できるかもしれない」という期待もこめられているこの惑星の環境を再現した実験において、ガスをプラズマ化する装置「プラズマリアクター」を用いて、従来の技術より効率的に酸素を生み出すことに成功したことが発表されました。
Plasmas for in situ resource utilization on Mars: Fuels, life support, and agriculture: Journal of Applied Physics: Vol 132, No 7
https://doi.org/10.1063/5.0098011
Plasma reactors could create oxygen on Mars | Science | AAAS
https://www.science.org/content/article/plasma-reactors-could-create-oxygen-mars
2021年、パーサヴィアランスに取り付けられた酸素生成装置「MOXIE」が火星において正常に稼働し、火星の大気から酸素を生成することに成功しました。MOXIEは火星の大気の95%を占める二酸化炭素を電気化学プロセスを用いて一酸化炭素と酸素イオンに分解し、酸素を生成する装置です。火星での稼働においては1時間で5.37gの酸素生成に成功しており、この量は宇宙飛行士が約10分間呼吸できる量に相当します。
リスボン大学のVasco Guerra氏らは、パーサヴィアランスに取り付けられた生成装置よりも高効率な装置を開発したと発表しました。Guerra氏らが考案した装置は、電子ビームを適切な速度まで加速させることで、二酸化炭素をプラズマ化して酸素を生成するというもの。MOXIEは酸素生成のために火星の空気を加圧・加熱する必要がありましたが、プラズマリアクターはその必要がありません。Guerra氏は「プラズマ化するには理想的な圧力というものがありますが、火星はまさにその圧力にピッタリなのです」と語ります。
研究室で行われた実験では、火星の圧力と組成を再現した空気の30%を酸素に変換することができたとのこと。効率は1時間当たり約14gとMOXIEより優れており、これは約28分間の呼吸に十分な量であるとGuerra氏らは述べています。
ただし、実際に火星で運用するまでにはいくつかの問題を解決する必要があるとのこと。この装置には携帯用の電源と作った酸素を保存する場所が必要で、そのすべてがMOXIEと同じか、それ以上にかさばる可能性があるそうです。
今回の研究には携わっていないマサチューセッツ工科大学のマイケル・ヘクト氏は、アメリカ科学振興協会の取材に対し「NASAがMOXIEを開発したように、宇宙機関が多額の費用をかけて開発するのであれば、今回のアプローチは実を結ぶでしょう。呼吸するのを助けるだけでなく、燃料や肥料を作る方法としても役立てられるかもしれません。MOXIEよりずっと未熟であることを除けば、プラズマ技術には何の問題もありません」と述べました。
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