クライアントに代わって探し回っている「戦略的質問」への答えが見つからないとき、メディアエージェンシーはどうすればよいのか? 11年前に創設された独立系メディアエージェンシー、メディアストラクション(Mediastruction)の場合は、答えを得るために分析部門を設置した。
ボストンを拠点とするメディアストラクションは、商業銀行のロックランドトラストバンク(Rockland Trust Bank)のようなB2Cサイドと、アイロン・マウンテン(Iron Mountain)や獣医向けの分析機器メーカーであるアイデックス・ラボラトリーズ(IDEXX Laboratories)のようなB2Bサイドの両方で、ミッドマーケットのクライアントを扱っている。
マリロワ・スノーマン氏によって創設され、従来型メディアエージェンシーとしてスタートした同社におけるクライアントの支出額は、平均で200万ドル(約2億7600万円)~2000万ドル(約27億6000万円)だ。
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IDに依存しないマルチタッチアトリビューション
スノーマン氏はすぐに、アトリビューションに関する入手可能なデータの不足や、そうした質問に答えるためのソフトウェアやデータセットに掛かる費用に不満を抱くようになった。タイミングはスノーマン氏の味方だったと同氏は説明する。クラウドコンピューティングのコストとSaaS製品が急増し、ここ数年間で比較的手頃になったことで、メディアストラクションがメディアミックスモデルを中心に独自のソリューションを構築できるようになったが、それには偶然の方針転換があったという。それ以来、データサイエンティストを中心に、従業員を約50人抱えるまでに成長した。
「メディアミックスモデルの構築と、それらをほぼリアルタイムで調整する方法に焦点を当ててきた。これは、デジタルメディアからアクセスできる多くのデータに対応している」とスノーマン氏は語る。「我々がマルチタッチアトリビューション・ソリューションと位置づけるものは、ID検証ではなく、ウォールドガーデンを理解し、投資するために構築されている」。
アトリビューションにおける難問を解決することで、スノーマン氏はクライアントのための「よりよい答え」を見つけようとしたのだ。同氏によると、メディアストラクションは、クライアントのKPIや他の従属変数に従ってアトリビューションを定義するモデルを構築し、主要な各ウォールドガーデンのレンズを通じて見ているという。それにより、メディアストラクションは、クライアントが求めるペースに応じて次回の予算配分を推奨する最適化ツールを強化している。
「これにより、ID検証や重複確認に依存する必要がなくなる。そして、独自に機能してるウォールドガーデンのなかで、最適化を行っている」とスノーマン氏は話す。
「真の運用効率とインサイトをもたらす」
メディアストラクションなど、メディア企業やエンターテインメント企業を専門とするコンサルタント、ジョイ・ベア氏によると、メディアストラクションが抜きんでているのは、やり抜く点だという。
「テクノロジーを利用して、ピッチ以上に、クライアントのために真の運用効率とインサイトをもたらしている。私がピッチに関して言及するのは、エージェンシーが、テクノロジーを活用して、新規ビジネスのポジショニングや獲得を行うことが、ごく一般的だからだ。そうしたテクノロジーを実際に新陳代謝して、うまく利用するのがエージェンシーの責務だ。そして、他社より良い仕事をしているエージェンシーもある」
ベア氏は、メディアストラクションが開発したバイイング最適化ツールにより、「クライアントと同社にとってメディアバイイングの効率と効果がかなり向上しつつある。(中略)手作業でのバイイングプロセスと比べて、最適化ツールによる成果を確認したところ、(クライアントの目標を)達成するために、何時間もの時間の節約と膨大な演算の省略につながっている」と指摘した。
「特別な努力をしてくれるエージェンシー」
グローバルで獣医をターゲットに、動物専用診断ツールを宣伝しているアイデックス・ラボラトリーズのマーケティング幹部は、2021年後半にメディアストラクションを採用したのは、アトリビューションをめぐって、自社のために特別な努力をしてくれるからだと説明した。
メディアに話す許可を得ていないためオフレコを条件に、幹部は次のように語った。「メディアストラクションは我々に対し、オーディエンスである獣医や、彼らの心理状態はリージョンによってどう違うのか、診断にどのようにアプローチしているのかについて考え、マーケティング予算を細かく切り詰めすぎて非効率にならないようにすることを求めている。製品の組み合わせ、言語によって可能であるならば、国ごとにどういう組み合わせが可能かも調べる。そして、単に国ごとで捉えるのではなく、戦略についてより総合的に考えている」。
ベア氏は、男性が支配し続けるテック分野でのスノーマン氏のリーダーシップに言及した。「スノーマン氏は、好奇心と女性の素晴らしいリーダーシップを兼ね備えた類い希な存在だ。この世界ではいま、彼女のような存在が必要であり、テクノロジーへのこのような情熱も必要なのだ」。
Michael Bürgi(翻訳:矢倉美登里/ガリレオ、編集:分島翔平)