シリアはインフルエンサーの「素朴さ」を利用してイメージアップを図っているという指摘

GIGAZINE
2022年08月12日 06時00分
動画



2011年から政府と反体制派による内戦が続いている中東の国・シリアにおいて、国内が安心・安全だというイメージを国外に広める戦略として、YouTubeなどで影響力を持つ、いわゆる「インフルエンサー」を政権が利用しているとワシントンポストにより指摘されています。

Opinion | Influencers are whitewashing Syria’s regime, with help from sponsors – The Washington Post
https://www.washingtonpost.com/opinions/2022/08/08/travel-influencers-whitewash-syrian-war/

アレッポの戦いを勝利で終えたバッシャール・アサド政権は、当初イメージ回復のために国際ジャーナリストを採用しようとしたとのこと。アサド氏の義父であるファワズ・アクラス氏は多くの記者に首都のダマスカスを訪問させ、アサド氏を含む高官と会わせるために報酬を支払いましたが、ほとんどの記者がその体験について批判的な記事を書いてしまったそうです。

内戦が続き多くの国民が避難民となり、残忍な戦争と結びついた政権のイメージが続くと投資家の注目を集めることは困難だと判断した政権は、インフルエンサーを熱心に募集する方針を採り始めたとワシントンポストは指摘。

インフルエンサーが入国するにあたっては、政権公認の旅行代理店を通じて宿泊先を手配した場合にのみ与えられるビザが必要です。政権はそこですべてのビザ申請を審査し、ジャーナリストや活動家を排除しているそうです。

ほとんどのインフルエンサーは視聴者が関心を抱きやすい現地の景色や食文化に焦点を当てて撮影し、政治的意図を絡めず陽気なトーンで現地を紹介。戦争によって廃虚となった建物などもレストランやバザールとともに「エキゾチックな体験」の一部として取り扱うことがあるとのこと。これらインフルエンサーはシリアの惨状に無関心なようですが、中には道徳的な責任を感じる人もおり、「政治的意図はない」とあえて伝える人もいるそうです。

インフルエンサーは自らの意志で撮影を行っているものの、インフルエンサーの「素朴さ」をシリア政権が利用し、「シリアは安全で安心」と宣言するインフルエンサーのコメントを公式メディアを通じて拡散しているとワシントンポストは非難しています。


ワシントンポストは「ほとんどのシリア人は自分の家を訪れる自由がない一方で、自分たちの痛みに無関心で無神経な観光客が自分たちの住む地域を踏み荒らし、集団犯罪の現場を冒涜しているのを目の当たりにしている」と指摘し、インフルエンサーの活動をも非難。さらにインフルエンサーによる多くの投稿が欧米企業によってスポンサーされていることにも目を付け、いずれの「対策」も行っていないことを問題視しました。

以下がワシントンポストが取り上げた動画の1つで、Janet Newenham氏がダマスカスを歩き、現地の食品店や工芸品店を紹介しています。

A Solo Tourist in Damascus, Syria [World’s OLDEST City] دمشق، سوريا – YouTube
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一方でJay Palfrey氏のように、戦争で破壊し尽くされた街・ホムスを訪れ、戦争の悲惨さを伝えるインフルエンサーも存在します。

HOMS, SYRIA – Inside Homs, Syria حمص، سوريا – من داخل سوريا – YouTube
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現地の情勢を正しく知るにはさまざまな観点からの情報収集が重要ですが、ワシントンポストは今回取り上げた問題に対し「このようなインフルエンサーたちは自分たちの旅行がもたらす政治的・倫理的な影響に向き合いたくないのは明らかです。私たちは人々の良心を取り締まることはできませんが、このような観光を支援する企業が、人権侵害を理由にしたシリア政権への各種制裁に違反しているかどうかを問うことはできます」と述べました。

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