7月度のアメリカ消費者物価指数が発表になり8.5%と前月の9.1%から鎮静化、事前予想の8.7%をも下回ったことから株式市場は活況、円は買われるという展開になりました。私は春先からインフレはそろそろ鎮静化すると申し上げていたので「嘘つき太郎」ならぬ「嘘つきひろ」を続けていたのですが、ようやく報われるかもしれません。
結論からすればガソリン価格が7.7%下落した点が最も大きい要因です。原油価格については何度も申し上げているようにいくらが妥当か、という理論値があまり存在せず、野菜などの価格と同じでぶれやすいものなのです。ただ、平常時はダイコンや魚の価格に皆さんの期待値があるのと同様、概ねこれくらいというレンジがあり、それが70-80㌦程度で時の政治的、社会的状況によりその幅が40-100㌦程度、更にはもっと動くこともある、というものです。よって今日も一時80㌦台まで下げた原油価格の動きからすればインフレの最大要因は鎮静化しているように見えます。
輸送費についても北米海運市況が5月以降ほぼ横ばいからやや下落傾向を示しています。港湾労働もスムーズになり遅延も大幅に緩和されているため、輸送にかかる価格上昇のバイアスも消えているとみてよいでしょう。私どもでも船便が昨日到着しましたが、当初見込みより半月早くなっていていますし、9月のブッキングも以前のような狂乱の奪い合いではありません。こういう現場レベルでの肌感覚は数字に表れる前の重要な兆候で、実務をやっていないとなかなかわからないところでしょう。
では最大の問題は何か、といえば労働力。これに尽きます。需要に追い付かないのはモノではなく労働力なのです。先日もあるホテルの経営者が「夏なのに満室に出来ない。理由は掃除もレストランも人がいないから稼働できない」と。よく行くレストランではオーナーが自ら皿洗いをしています。客を入れても捌けない、だからキャパシティの6割とか8割が精いっぱいで価格を下げるどころではない、という訳です。
では労働者はどこに消えたのでしょうか?これはコロナが引き起こした惨事なのかもしれません。戦力から減ったのが学生を中心とするアルバイトと外国人労働者です。コロナでオンラインでの仕事が増えたこともあり、アルバイトが現場に戻らないのです。その上、アメリカのパートタイム就業者は4月の2663万人から7月が2522万人と100万人以上減少しているのです。高賃金を支払う業種に人が流れ、3K的な業種が敬遠されるミスマッチ傾向もはっきり出ています。
その為、雇用者は賃金を引き上げざるを得ません。これが結局インフレの根底理由になっているとみてます。これを克服するためには人の流動性を高め、オンラインと現場仕事の賃金格差をつけるなどが必要でしょう。最近感じるのはコロナが嫌だからという理由より今の若い人が「人と接触することがストレスだ」と思う人が増えているのが問題だと感じています。先日飲みに行った店でもサーバーが笑顔がなくいやいや作業をしているのがアリアリ。一緒にいたカナダ人に思わず「She is not in a good mood!」と呟いてしまいました。
もう一つは賃貸住宅の賃料の上昇です。過去1年で5.7%上昇は31年ぶりの高さです。これはFRBが自ら引き起こした問題です。金利が上がれば住宅購入予定者は諦め、賃貸への需要が高まります。そうすれば大家は賃料を当然引き上げるわけです。アメリカ消費者物価指数の1/3が住宅関連物価が構成要素となっていることを考えればFRBが利上げはもう打ち止め、というシグナルさえ送れば住宅購入予定者は少しずつ住宅を購入する気を取り戻すはずです。
表題の「北米の物価高は転機となったのか?」という問いには統計の遅効性を考えると転機を過ぎていると考えています。秋以降に特異事変が起きない限り継続するとみています。では日本の物価高対策はどうなのか、といえば上記の説明からすれば答えはおのずとお分かりになると思いますが、国を開ける、これに限ります。外国人は観光客ばかりではなく、労働力としての価値もあるのです。日本の大学生より外国人の方が一生懸命働きます。この人たちの労働力さえ戻ってくればだいぶ物価の緩和期待が高まると思います。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2022年8月11日の記事より転載させていただきました。